夢
その後。無事ミストベアーの素材を採取出来たので、慎重にエルフの里まで帰りました。
「おじいちゃーん! ミストベアーの爪、取ってきたよ!」
「おぉ、おかえり」
万能薬を使うのはミストベアーの爪。なんでも、すり潰して煎じると、それだけでも身体の疲れを取る効能があるそうです。
「ヴァイオレットさん、リース様は上手くやれましたか?」
「はい。ちょっと刺激してあげただけですが、討伐は全て彼の腕前によるものです。というか、リースくんって結構弓矢上手じゃないですか」
「いえ、少し前までは本当に苦手だったのです。数十メートル先の的すら命中率は40%ほどで、一般的なエルフの平均は大体60%くらいなんですよ」
「へぇ、そうだったんですね」
本当に苦手なのだとしたら、どうしてあんなピンポイントで足や頭を射抜けたのでしょうか。
「一つ聞いてもいいですか?」
「どうぞなんなりと」
「的の大きさは?」
「これくらいです」
ボードさんは、ニコッと笑って右手の親指と人差し指で輪っかを作ってみせました。
「的ちっちゃくないですか!?」
「いえ、普通のサイズだと思いますよ?」
「……エルフの里、恐るべし」
私がエルフの弓矢の技術に戦慄していると、イゼルさんから説明を受けたと思われるリースくんがいました。
「ごめんなさいっ!」
「へ?」
「これは僕の成人の儀式だったのにも関わらず、ヴァイオレットさんを巻き込んでしまってすみませんでした」
「あぁ、気にしないでください。私も得る物がありましたし、おあいこです」
「そのお礼と言ってはなんですが、さっきの材料で作った万能薬です。どうか受け取ってください」
「いいんですか? せっかく集めた物なのに」
「はい、ヴァイオレットさんにはお世話になりましたからね」
「では、断る理由はありませんね」
黄金蝶の鱗粉が入っていた瓶とちょうど同じくらいの量の万能薬を頂きました。これでもし怪我や病気になっても、ある程度なら大丈夫です。上位の万能薬は人間以外にも効果が高いので、アイラにも使えます。そもそもドラゴンって、病気になったりするんでしょうか?
日も傾いてきたので一泊だけさせてもらうことになり、夕食もご馳走になりました。リースくんの合格祝いというのもあって、中々豪勢な食事を頂いてしまいました。
その夜のこと。夕食を頂き、景色のいいお風呂を借りた後、私はバルコニーに夜風に当たりに来ていました。
「うん、本当にいい景色ですね。何度も見ていますが、まるで飽きません。ね? アイラ」
「キュァ!」
寝巻きのポケットから乗り出して大樹からの景色を楽しむアイラ。何というか、とても微笑ましい気分になります。
ある時、バルコニーに来客が現れました。
「あ、ヴァイオレットさん」
「リースくん。お邪魔してます」
「いえいえ、気にしないでください」
そう言って隣に腰掛けるリースくん。お風呂上がりなのか、緑の髪の毛が僅かにしっとりしています。
「あれ、その子は?」
「アイラのことですか? この子はフロストドラゴンの幼体です。生まれてまだそんなに経っていないんですよ」
「へぇ、どこで手に入れたの?」
「そうですね、私がある街を訪れた時の話なのですが━━」
「━━という訳です」
「なるほど、でもドラゴンの巣に入って無事だったのって凄いですね。しかもその赤ちゃんを貰って」
「まぁ成り行きのようなものです。それに私もこの子が好きですからね」
私は前に訪れた街の話をしていると、ある時リースくんが夢を語ってくれました。
「僕には夢があるんです。さっき思いついたことですけどね。おじいちゃんが長老を止めるまで、僕は弓矢や魔法を極めて、ヴァイオレットさんと同じ、旅人になりたいと思っています。
……どちらかと言うと冒険者に近いですが、色んな地域を巡って、困っている人を助けられる人になりたいです。そして、ヴァイオレットさんのような優しい人になりたいんです」
「立派な夢じゃないですか。それに、中々嬉しいことを言ってくれますね」
ヴァイオレットさんのような、ですか。私、目標にされるほど優しいのでしょうか。どちらにせよ嬉しい限りです。
「その夢、叶うといいですね」
「はい! 絶対叶えて見せます!」
「そんなリースくんにはこれをあげましょう」
「これはバラ……ですか?」
「えぇ、それも青いバラです。花言葉は『夢が叶う』私はその夢、応援していますよ」
「わぁ……! ありがとうございます!」
その後、私たちはひと通り夜風に当たった後、風邪を引く前にそれぞれ眠りにつきました。
ちなみに。これは本で読んだ話なのですが、とある世界では青いバラを咲かせるのは不可能とされ、ずっと青いバラの花言葉は『不可能』とされて来ました。が、長年研究を積み重ねた結果、青いバラを咲かすことに成功した、といったエピソードがあったそう。その影響を受けて、『夢が叶う』という花言葉に変わったそうです。
これまで弓が苦手だ、不可能だと言っていたリースくんが弓を取り、そこから夢を持った。青いバラは、彼にピッタリな花だと、私は思います。
翌朝。私は皆さんにお礼を言って大樹から離れました。ついでに霧の森の抜け方も教えてもらい、霧の森からも出られました。
「次はどこへ行きましょうか」
「キュ、キュキュ♪」
私たちはどこへともなく歩き出しました。
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はい、こちら箒の上のヴァイオレットです。
私がエルフの里へ行った話はどうでしたか? 私の中で印象的だったのはやはりあの素晴らしい景色たちですね。
この話には続きがあって、あれから5年後の出来事があるのですが……それはまたの機会に。
次はどこへ行った時の話をしましょうか。
第四章完です。
最近とても嬉しい感想を頂きましてモチベ上がりまくりなので、第五章も鋭意執筆して参りますので、引き続きこの作品とヴァイオレットをよろしくお願い致します。