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第八話 戦闘用の【土下座】

更新再開です。

お待たせしてしまい申し訳ありません。



《心よりの誠意ある謝罪を確認しました。ユニークスキル【土下座】をアクティベートします。条件を満たしました。ユニークスキル【土下座】の派生スキルを解放します。セカンドスキル【スライディング土下座】をアクティベートします》



 スライディング……滑る? どういうことだ!?


 頭に響くアナウンスを訝しむ暇もなく、毎度の事ながら俺の身体はスキルにより自由を奪われた。



《対象を自動で補正します。脅威度優先度共にホブゴブリン一体とゴブリン六体を対象に指定します》



 その声に導かれるように、俺の身体は跪いていた姿勢から立ち上がり、今も尚醜悪な鳴き声を上げているゴブリン達の方へと向き直る。



「サイラス様!? 大丈夫なのですか!?」



 俺を心配してくれているアンネロッテに声を掛けたかったが、スキルに支配されている今は視線すら向けることはできなかった。



《戦闘用派生スキル【スライディング土下座】スタンバイ。レディ――――》



 待て、今何て言った……!?

 ()()()と言ったのか!? 【土下座】は謝罪のための所作じゃないのかッ!?



《ゴー・ユア・ヘッド》



 その声が響いた瞬間、俺の身体は弾き飛ばされたかのように疾走し始めた。あんなに苦労した森の地面をものともせず、ゴブリンの集団に一直線に……って、ちょっと待てぇえええーーーッ!?



「サイラス様!!??」



 アンネロッテの叫び声に後ろ髪を引かれながらも、向かう集団との距離はどんどん縮まってくる。



「ゲギャギャァアーーッ!?」


「グキャッ! ゴギギャアー!!」



 今まで魔法しか使わなかった俺の突進に面食らったのか、ゴブリン達は口々に叫び声を上げる。



「ゴブァアアアアーーーッ!!!」



 しかし一際体格の良い個体――アナウンスはホブゴブリンと言っていたな――が上げた咆哮に我に返ったようで、それぞれが手に持った棍棒や石の槍を振りかぶり、構え、そして俺に振られ突き出される。



《脅威度判定:C。回避行動(アヴォイダンス)



 サラリと頭の中に流れるアナウンスと共に、俺の身体は今までした事が無いような動きを見せる。

 身体を捻ると、突き出された槍が鼻先を掠め顔の前を通り過ぎる。上体を反らすと、振り回された棍棒が頭の在った場所を空振りする。



《脅威度判定:A。攻撃防御(パリィ)



 腕がひとりでに振るわれ、胸の前で俺の手は何かを弾いた。チラリと地面に落ちたように見えたのは、俺の腕に刺さっているのと同じ矢だった。


 スキルに衝き動かされるがままに集団の間を突き進む。そして群れのリーダーと思しきホブゴブリンではなく、先程俺の腕に矢を当てた、次の矢を引き絞ったゴブリンアーチャーが目前に迫る。そして――――



 ――――ズシャアアアアーーー!!



 あぎゃぁあああーーーーーーーッッ!!??


 俺の身体は突進の勢いのまま低姿勢を取り、足は地面を蹴った。そのまま膝が畳まれ、腕は方向を指し示すかのように前方へ伸ばされ()()()【土下座】の形を取る。

 そのまま地面へと(てのひら)と膝が着き、有り得ない勢いで滑り出したのだ。


 【土下座】の格好のままで、下げた後頭部を鋭い何かが掠る感触を覚えながらも、俺の意識は掌と膝を襲う未曾有の激痛に集中していた。と思いきや――――



 ――――ゴギンッ!!



 あがぁああああッッ!!?? 頭がっ、頭頂がぁあああーーーッ!!??



「グゲァアアアーーーーッ!!??」



 両手両足の痛みとは比べ物にならない衝撃と痛みが、突如俺の頭頂部を襲った。それと同時に聴こえるゴブリンのものだろう絶叫。【土下座】の姿勢のままに視界の隅に意識を集中すれば、()()()()()()()()()地面をのたうち回るゴブリンアーチャーの姿を捉えることができた。


 つまり俺は、【スライディング土下座】とやらの名の通りに【土下座】したまま地面を滑り、頭頂からゴブリンアーチャーの脛に激突したのか……!?



《ワンモアセット。ゴー・ユア・ヘッド》



 両手両足そして頭頂の痛みを堪える俺の頭の中に、容赦なくアナウンスが響く。


 俺は上体を起こし、両手で地面を掴むとゴブリンアーチャーの傍らに身体を滑らせた。ちょうど俺の顔の下に脛の痛みに悶えるゴブリンアーチャーの頭が在る。


 おい、ちょっと待て……!? まさか――――



 ――――ゴシャァアッッ!!!



 ひぎぃあああああーーーーッッ!!??


 振り下ろされた俺の頭。今までにも散々硬い素材の床や地面に打ち付けられてきた俺の額は、まさかの生き物……魔物の頭部に打ち付けられていた。

 いや人の頭は知らないけどゴブリンの頭めっちゃ硬てぇええーーーーッ!! 頭が割れるぅううーーーッ!!?



《脅威度判定:AからFに変更。対象:ホブゴブリン一体、ゴブリン五体の動揺と困惑が76%上昇。敵意・害意が60%低下。危険域を脱しました。解析報告を終了します》



 半鐘の音のような不快な音と激痛が暴れ回る俺の頭に、憎らしいほど鮮明にアナウンスが響く。それと同時に俺の身体はスキルから解放され、動きも声も制限から自由となる。



「ぐ、がぁあァクソッ!! アンネっ、今だッ!!」



 痛みを堪え顔を上げ、届けとばかりに俺は指示を飛ばした。



「ギギィイアアーーーッ!?」


「ギャブアッ!?」


「アギャアアーーッ!!??」



 立て続けに断末魔の悲鳴を上げるゴブリン達。射手(アーチャー)を二体とも失ったゴブリン達には、最早鋭く舞い回るアンネロッテを止める手立ては無かった。


 そして。



「ゴブブルァアアアーーーーッッ!!??」



 群れの統率者であっただろう体格の良いホブゴブリンが、首の前面を深々と切り裂かれ、絶叫と共に地面に崩れ落ちた。



「サイラス様ッ!!」



 最後の一体までをも切り伏せたアンネが、慌てたように俺の元へ駆け寄って来る。



「ご無事ですか!? 先程のアレは一体……!?」



 普段無口で無表情なアンネを、この旅に出てからというものの随分と慌てさせ、振り回しているな……。


 そんな事を頭の片隅で思いながらも、俺は余韻のように未だに少し痛む頭を擦りながら、ぎこちなくアンネに笑顔を向ける。



「ユニークスキル【土下座】の派生スキル、【スライディング土下座】と云うらしい。〝戦闘用派生スキル〟とか頭の中の声は言っていた」


「戦闘用…………あの地を滑る【土下座】がですか……。それでは直前のあの回避や防御は……?」


「前にも言ったと思うが、【土下座】発動中は俺の身体は自由が効かないんだ。スキルに操られるように動いて、声も視線も俺の自由にはならない。心配掛けて悪かっ――――」


「お待ちをサイラス様。〝誠意ある謝罪・嘆願〟が発動の起点となるのでしたら、迂闊には謝らないでください。それよりも私はゴブリン相手に頑張りました」



 謝ろうとした俺の言葉が、アンネに遮られた。



「あ、ああ。だが俺の迂闊な行動のせいで襲われたんだ。本当に済ま――――」


「私はゴブリン相手に頑張りました」


「あ、ああ、もちろん分かって――――」


「頑張り、ました」



 ええぇ……! どうすりゃ良いんだよ……?

 見ればアンネは若干顔を伏せながらも、上目遣いで俺を見上げている。この仕草は…………



「…………ありがとな、アンネ。助かった」



 俺は戸惑いながらも、掌をポンとアンネの頭に置いて優しく撫でた。……まだ小さく、仲良く過ごしていた頃のように。



「はい。ご無事で良かったです、サイラス様」



 その目尻を若干程度に緩めて、ほのかに頬を染めて。

 アンネはゴブリン達の死骸処理へと踵を返したのだった。


 おっといけない。俺は本来の目的のケナル草を採取しなくては……!





 ◇





「間違いねぇな。全てケナル草だ。……大変だったみてぇだな?」


「まあ、随分と命懸けの勉強にはなったな。だが店主。これで約束通りニーナの枷を外してくれるんだろう?」


「ああ、任せろ。二日後までには枷を外す道具を(こしら)えてやる。その頃にまたあの嬢ちゃんを連れて来な」



 ケナル草を無事に採取した俺は、討伐したゴブリン達の報告や魔石の換金はアンネに任せ、一足先に鍛冶屋の店主セルジオさんの元へとやって来ていた。

 お母上が病だと聞いたし、できるだけ早くケナル草を届けてやりたかったからな。



「助かる。半値の小金貨五枚は必ず払うから、ニーナの事、よろしく頼む」



 俺は半額にしてもらえる工賃手間賃は必ず払うと、改めて約束する。しかしそんな俺に。



「いや、今回はタダでいい」


「…………は?」



 一瞬何を言われたのか解らなかった俺は、思わず間抜けな声で聞き返していた。いやだって、昨日は散々渋ってたじゃないか……?



「今回頼んだケナル草なんだがな、元々ウチを贔屓にしてくれてたハンター達にいつも依頼してたんだ。だがソイツらのランクが上がってな……なかなか受けてくれねぇ、受けても何かのついでの後回しって有様でな。昨日の今日で採ってきてくれたお前さんには、これでも感謝してるんだ」



 セルジオさんは昨日の剣幕が嘘だったかのように、優しい顔をしてそう話し始めた。



「それにその服の惨状を観れば、お前さんがどんだけ苦労してコイツを採取してくれてきたか、鍛冶屋の俺には良く判る。傷が一切無ぇのは不思議だがな。……いや、腕の包帯の傷は本物だな」



 そうなのだ。あの戦闘の後、新たなスキル【スライディング土下座】で負った掌の負傷も、膝も、額も。例に漏れずにすぐに治癒してしまったのだ。

 お陰で俺は一切怪我をしていないのに、ズボンの両膝部分だけがビリビリに破けている状態だ。



「ホブゴブリンが率いるゴブリン十体に襲われてな。俺の迂闊な行動のせいで、またニーナを独りにしてしまうところだったよ」


「そいつは災難だったな。まあ何はともあれ、無事で何よりだ。そんでまあ、薬の材料とは別に、あの嬢ちゃんのためにそこまで必死になるお前さんに……ちぃっと感化されちまってな。なんだか照れ臭せぇな……っ!」



 そう言って頭をガシガシと掻くセルジオさん。

 俺は自分の必死な行動が、命懸けの戦いがこうして報われた事に、えも言われぬモノを感じていた。



「それは……助かるッ! ありがとう()()()()()()!!」


「あん? 俺、お前さんに名乗ったっけか?」



 しまった……! 喜びのあまり、つい()()()()()()()()()を口にしてしまった。

 ここでまた心証を悪くする訳にはいかない……!



「ははは……っ、け、ケナル草の情報収集の時に、ギルドでちょっとな……!」


「そうかい。まあこの町で鍛冶師っつっても俺くれぇなモンだからな。それじゃあ俺は早速薬を作ったら、道具の準備に入る。オラ帰った帰った」


「あ、ああ……! よろしく頼む、セルジオさん……!」





 こうして。

 旅に出てまだ二日だというのに、本来の旅の目的は何も果たしていないというのに、随分と慌ただしく忙しい、最初の町での最初の俺の役目は無事に終わったようだった。


 この二日後には、盗賊から救ったニーナも本当の意味で自由を得て、より明るく笑顔を見せてくれるようになるだろう。


 ……そういえば【スライディング土下座】はどうして解放されたんだろうな? 普段の【土下座】と一体、何が違ったんだろう……?

 この謎多きスキル【土下座】についても、追々解明していかないといけないかもな。


 だけどまぁ……とりあえずは、【スライディング土下座】はできればもう使いたくないな……!!





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― 新着の感想 ―
[良い点] 頭蓋骨を酷使しすぎではw
[良い点] 戦闘用土下座無茶苦茶すぎるw……
[良い点] 更新再開だー [一言] One more set Go you ahead ツボにハマりました…絵面が素晴らしい(・∀・)
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