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第四話 襲われてるのに何故か【土下座】



「なるほど、〝ユニークスキル【ドゲザ】〟ですか……。そのようなスキルが存在するとは、まるで伝説の勇者様みたいですね」


「ああ、俺も御伽噺(おとぎばなし)以外では聞いたことないな。勇者は確か、太陽の光を受けている間は無限に魔力が扱えるんだっけ?」


「そう物語には書かれていましたね。確か【光臨(こうりん)】というスキルだったかと」



 道具屋で無事に旅の必需品を手に入れられた僕達……俺達は、まずは住み慣れた街から出た。

 公爵領の領都にも俺が迷惑を掛けた人間は沢山居るが、それよりも深刻なのは、そうして迷惑を掛けてこの街に住めなくなった人達だからだ。


 田舎に戻った人や他所の領に移り住んだ人など行き先は様々だけれど、そうした人達にまず謝りたいというのが俺の希望だ。


 ずっと俺の傍に居たアンネ……アンネロッテが同行してくれて、正直助かった。俺の傍でずっと俺の過去の愚行を見続けてきたアンネは、そうして迷惑を掛けた大体の人の行き先を記憶している。

 そうじゃなきゃ俺は当てもなくただ彷徨い、その内野垂れ死んでいたかもしれない。つくづく考えの足りない人間だな、俺は。



「それでですが、サイラス様」


「ん? なんだアンネ?」


「先程は随分と強く額を床に打ち付けていましたが、お怪我は無いのですか?」



 俺が道具屋のゴンザレスさんに謝罪した時の【土下座】の事か。そんなことを訊かれて初めて、俺は自分の額に手を当てて確認する。



「んー、いや。特に怪我も全く無いみたいだな。打ち付けた時と擦り付けていた時は、確かに痛みは感じてたんだが……」


「失礼します」



 ちょっ、何をっ!?


 俺に確認も取らずにグイと首を引き寄せ、至近距離から俺の額を覗き込むアンネ。

 ち、近い近い!? 顔が! アンネの目や鼻や口、それに柔らかそうな頬が目の前一杯に広がってるぅ!?



「…………確かに、お怪我をされた様子はなさそうですね。あれほど強く打ち付ければ、たとえ頑丈な額といえど皮膚が裂けるくらいはする筈なのですが……」



 そう確認を終えたアンネの吐息が遠のいていく。

 首に絡められていた両手から解放され、俺は高鳴る鼓動を誤魔化すように即座に距離を離した。



「もっ、もしかしたら、コレも【土下座】スキルの恩恵かもしれないなっ。【土下座】によって負った傷は、その後で回復するとかかも……っ!」


「なるほど。興味深いですね……」



 あ、焦ったぁ……ッ!

 不意打ちが過ぎるよアンネさん……ッ!!


 突然の事に跳ね回っていた俺の心臓が、徐々に落ち着きを取り戻していく。



「……? サイラス様、お顔が赤いようですが……?」


「な、なんでもないっ! なんでもないからな!?」


「はぁ…………?」



 くっそぉ……!

 一人だけ涼しい顔をしているアンネに若干の納得のいかなさを感じながらも、俺達は再び、森に沿った街道を歩き始めた。



「それでアンネ。やっぱり近場の町から回るのか?」


「はい、サイラス様。道具屋が用意してくれた保存食は一週間分程しか有りませんので、近場の町や村を回り、それぞれの場所で適宜調達しなければいけません」


「なるほどな。いや本当に、アンネが一緒に来てくれて助かった。ありがとう」


「ッ……!」



 うん? どうしたんだアンネ?

 なんで俺に背を向けて……それとその拳をに握って…………ああ、前世の記憶によると、〝ガッツポーズ〟と云うのか。


 んで? なんでガッツポーズ?

 記憶によれば嬉しい時や何かを達成した時に取る行動らしいが……今の流れで何が嬉しかったり、達成できたんだ……?


 聞いてみたいが顔を見ようとすると頑なに逸らされるので、仕方なしに俺は一声掛けて再び歩き始めた。


 アンネは普段はスカートの長いメイド服なのだが、俺の旅について来るために用意したらしい長袖の上着と長ズボンで、しかしそれでもメイドのように斜め後ろに控えて歩く。



「なあアンネ」


「なんでしょうか、サイラス様」


「その格好、いつ用意したんだ?」


「サイラス様が旦那様にお叱りを受けた日の夕方です」


「え、父上に何があったのか聞いたの?」


「いえ。旦那様はあの後ご自分のお部屋から出て来られませんでしたので、奥様に」


「そ、そうか。それじゃあいつ父上に同行の許可をもらったんだ?」


「その翌日です」


「…………は?」


「その翌日です」


「へ、へぇー。それはまた随分と行動が早かったんだね……?」


「〝兵は拙速を尊ぶ〟と申します」



 いやいやいや、それにしても早過ぎでしょ!? 僕が折檻された次の日にはもう父上に直談判してたの!? 何その行動力!?

 それにその言い回しって、前世の地球のどっかの兵法家の言葉じゃなかったっけ!? というかそもそもアンネさんはメイドだよねっ!?


 心の中で全力でツッコミながら、僕……俺は若干の冷や汗をかいていた。アンネのこの行動力は、一体どこから来ているんだろう……?


 そんな風に喋りながら森沿いの街道を二人で歩いていた、その時。



「サイラス様!」



 鋭く俺の名を呼ぶアンネの声が聞こえたと思った途端、俺は突き飛ばされて地面に転がっていた。



「ちょ、なん――――ッ!?」



 慌てて受け身を取って怪我を防いだ俺が振り返ると、さっきまで俺が立っていた地面に、一本の矢が突き刺さっていた。



「ッ!? 襲撃ッ!?」


「サイラス様、私の傍を離れないで下さい」



 そう言って、アンネが俺を庇うように二本の短剣を構えて森へ向き直ったのと、ガサガサという茂みを掻き分ける音が聞こえたのは、ほぼ同時だった。



「おいおい、外してるじゃねーか。っとに、テメーは弓が下手でいけねぇや」


「うるせーよ! あの女が邪魔しなきゃ当たってたんだよッ!」



 ゲラゲラと野卑た笑い声を響かせながら、五人の小汚い身形(みなり)をした男達が茂みの奥から歩み出て来る。



「盗賊……ッ!? こんな、街の近くで……ッ!?」



 それもただの街ではない。我が父上ゴトフリート・ヴァン・シャムール公爵閣下が直々に治める領都の近郊でだ。

 俺はあまりの衝撃に、襲われているにも関わらず呆然としてしまった。



「くけけけ。兄ちゃんよォ、金目のモン出しなァ。そうすりゃ楽に死なせてやんよォ」


「コッチはイイ女じゃねぇか。ヒョロい兄ちゃんには勿体ねぇなぁ」


「俺らと夜通し楽しいコトしようぜぇ〜!?」


「その後は金に換えちまうけどなァ!!」



 ゲラゲラと、品性の欠片も無い下卑た言葉と笑い声。

 手に持つ武器をチラつかせて、俺達の抵抗する意志を挫こうとしているのが分かる。



「アンネ、コレで全部だと思うか?」


「感知できる範囲では全員……いえ、奥の茂みにもう一人居ますね。ここは私に任せてください」


「いや無茶だろ!? いくらアンネでも大の男が五人だぞ! 伏兵も居るなら――――」


「ここは私に任せてください」



 ダメだぁ!? どうしてそんなに頑固なのさアンネさん!?

 考えろ! この状況、どうやったら切り抜けられる……!?


 未だに下衆な妄想を口から垂れ流している盗賊達を睨み付ける。

 俺も貴族の端くれだし、曲がりなりにも貴族学院を卒業しているから、ある程度の魔法は使える。だけど実戦経験が無い……!



「アンネ、俺が魔法で牽制と援護をする。それでいけるか?」


「私に任せて……本気ですかサイラス様?」


「本気だ。大切なアンネだけを危険な目に遭わせられない」


「ひうッ!?」



 ん? どうしたんだアンネ? なんで顔を逸らすのさ?



「おいおいおいおい! いつまでくっちゃべってやがんだァ!? さっさと野郎を始末して帰るぞォ!!」


「へ、へいお頭ァ!」



 五人の中で一際体格も装備も良いあの大男が頭目か。奴の檄で他の四人もやる気になったみたいだ。



「もう迷ってる暇はない! やるぞアンネ!」


「は、はい、サイラス様!」



 焦りながらも魔力を放出し、詠唱を開始する。

 奴らの背後は森。なら火属性はダメだ。



「逆巻け風よ、其は切り裂く刃なり――――【風の刃(ウィンドカッター)】!」



 俺が選択したのは風属性の魔法だ。発動が早く、風なので攻撃が見難いという利点がある。

 こちらに向かって掛けてくる先頭の二人に向けて、風で出来た刃を射出する。



「うおっ!?」


「ぎゃあっ!? クッソがァ、魔法使いかよ!?」



 俺の放った魔法で突っ込んで来た二人の足が止まる。そこへ空かさず――――



「あぎゃッ!?」


「くピッ!?」



 アンネが飛び込んで両手に持った短剣で盗賊二人の首を掻き切った……というようにしか、俺の目には視えなかった。


 首から噴き出す血に胃の中身がせり上がってくるが、それを必死で堪えて次の魔法を唱える。既にアンネは次の二人に標的を絞り、駆け出している。



「く……ッ! 地よ弾けろ、我が敵を穿て――――【岩の礫弾(ロックバレット)】!」



 後衛に残る三人に向けて、足元の大地から生成した石礫(いしつぶて)を無数に放つ。もちろんアンネに当たらないように注意してだ。



「チイィィッ!!」



 手下二人を盾にするように立たせて、頭目と思しき大男が後退する。



「お頭!? あぎっ!?」


「いでぇッ!?」



 盾にされた二人は粗末な武器や防具が頼りにならず、目眩し程度になればいいと思って放った礫の雨に晒される。そして――――



「ヒギャアッ!?」


「ぐぶっ!!」



 再び高速で接近したアンネの短剣によって、その首を切り裂かれて膝から倒れる。



「あとはお前と奥の一人だけです」



 そう言って短剣を素早く振るい、刃に付着した血を払うアンネ。茂みの手前まで後退した頭目との距離を測っているのか、ジリジリとした足運びで間合いを詰めている。


 俺は初めての対人戦闘に身体が強張り、久し振りに魔法を行使したせいもあって身動きが取れずにいた。


 いやまあ貴族学院でも模擬試合はあったのだが、実際の人との命のやり取りは、コレが初めてなのだ。しかもあの頃は家の権威を(ふる)って、対戦相手に負けを強要したりしてたからな……



「へ、へっへへへ……! やるなァお二人さんよ。まさかこんなガキ共に手下がみんなやられっちまうとはなァ……!」



 頭目が引き攣ったような顔で虚勢を張る。


 二人がと言うより、アンネがだろう。我が家で戦闘訓練を受けていた事は知ってはいたけど、俺もまさか、彼女がここまで強いとは思わなかった。


 ん? ()()()()()()


 俺が頭目の言葉に違和感を覚えていると、ヤツは突然茂みに手を突っ込んで、何かを探り出す。そして――――



「あぅっ……!」



 茂みから引き摺られて俺達の前に引っ張り出されたのは、未だ十歳かそこらであろう、手枷足枷を嵌められた少女だった。



「お前……ッ!」


「動くんじゃねえッ!!」



 激昂しかけた俺や身構えたアンネを、頭目の大声が踏み止まらせる。



「そこから動くなよォ? 俺は慎重な男なんでね。アジトに置いといて逃げられちゃいけねぇと思って、ここまで連れて来ておいて正解だったぜ」


「あうッ!? い、いたいっ……!!」



 どこまでも下衆な事を話しつつ、頭目は少女の長いアンバー――くすんだ赤みの差した黄色だな――の髪を引っ張って、その首元に剣を添えながらニヤニヤと笑顔を浮かべて俺達に近付いてくる。

 いや、正確には()()()()だ。



「おう姉ちゃん。よくも俺の手下をみんな殺してくれやがったなァ? おっと動くなよォ? 動けば何の罪もないこのメスガキが死んじまうぞォ?」


「何を――――ッ!?」



 あの野郎ッ! 少女の首を手で掴みながら、アンネが抵抗できないのをいい事に剣でアンネの服を……!!

 まだ日が高い明るい野外に、アンネの白い肌が曝け出される。



「おほっ♪ チビっこい割には良いオッパイしてんじゃねぇか。おい女。テメェの手であの野郎を()りな」


「何を馬鹿な――――くッ! 触れるな下衆が……ッ!」


「おい良いのかそんなナマ言ってよォ? このメスガキをお前の目の前で見殺しにすんのかァ?」


「あぐぅっ!? カ、ヒュ……ッ!」



 あの野郎は片手でアンネの(あらわ)になった胸をまさぐりながら、自身に比べれば人形のような身体の少女の首を締め上げ、片手でアンネの目の前にぶら下げる。

 少女の苦悶を浮かべる顔がアンネの顔に当たるかというほど近くまで寄せられ、アンネの表情に迷いが生まれたのが見て取れた。



「やめろォッッ!!!」



 我を忘れ、今までに出した事のないような大声を発していた。



「ぁあん!?」



 頭目がギラついた、殺意の込もった目を俺に向けて来る。だが俺は怯まずに、真っ直ぐに目を睨み返しながらヤツに歩み寄る。


 今の俺は丸腰だ。戦闘開始と同時に俺は魔法での支援に徹するために、念の為にと買っておいた短剣すらも放り出してしまっていたから。



「おい兄ちゃん、それ以上近付くんじゃねぇよ! このガキの苦しそうな顔が見えねえのかッ!?」


「ァガッ……!」


「くっ……!」



 自称慎重な男である頭目は、俺に向けて少女の苦悶の表情を向けると同時に、アンネを突き飛ばして距離を取った。俺達の位置関係はちょうど三角形の形となり、頭目からはどちらの動きも見て取れる位置取りとなる。



「その子を放せ。俺の命を取りたいなら、お前が来れば良いだろう」


「ゴメンだね。テメェを殺ってる間にコッチの姉ちゃんに隙を突かれちまう」



 この男、言うだけあって本当に慎重な性格をしているようだ。しかしこの会話の間にも、少女の首は男に締め続けられている。

 恐らくは以前に襲い攫った子なんだろうその少女の顔色は、既に血の気を失いつつあった。



「放せよ」


「ああっ!? 聞こえねぇなァ、なんだってぇ!?」



 何故罪の無い少女にそんな非道ができる?

 俺が、俺達が抵抗したせいか? そのせいでこの少女はここまで苦しい思いをしているのか……ッ!?



「その子は関係ないだろうが! 放してやってくれッ!!」



 叫ぶ。青臭い世間知らずな科白(セリフ)を、()()()



《心よりの強い嘆願を確認しました。ユニークスキル【土下座】をアクティベートします》



 途端、頭の中に()()アナウンスが響いた。


 いや待て、なんだって? ()()()()……!?


 しかし訝しむ暇も無く、俺の身体はスキルに操られるようにしてその所作をなぞっていく。


 背筋を伸ばし居住まいを正し、崩れ落ちるようにして硬い地面に揃えた両膝を着く。が、木の床とは比べ物にならないほど痛い!


 違いに気付いたのは、曲がり形にも何度か【土下座】をしてきたからか。俺の身体は普段とは違い、両手を掲げるようにして開いていた。

 前世の記憶だと……〝バンザイ〟? 降参や無抵抗を示す仕草らしい。



《対象:ドゲスコフの困惑を確認しました。そのまま対象への要求を伝えて下さい》



 再び響くアナウンス。

 なんだって? 要求を伝える?


 俺は頭目――ドゲスコフという名前らしい――に目をやるが、未だに吊るされて口から泡を吹き始めている少女を見てハッとする。


 そうだ。迷ってる暇なんて、ないッ!



「頼む! その子を放してやってくれ! ホントに死んじまう!!」


「テメ、ナニを――――」



 要求(でいいのか、あれは?)を伝えた瞬間、再び俺の身体がスキルにより動き始める。

 肩より上に掲げてバンザイをしていた俺の両手は地面に着き、肘が曲がり……って、ちょっと待って地面は硬過ぎ――――



 ――――ガヅンッッ!!!



 おぎゃああああッッ!!?? 頭がっ、額がァあああッ!?


 俺の頭は勢い良く振り下ろされ、硬い地面に額を打ち付けていた。今までに無いほどの硬い感触と、目の奥に飛び散る星の如き瞬き、そして何より頭を駆け巡る激痛に声も出せない……ッ!!


 しかしそれは、相手も同じだったようで。



「な、ナニをしてやがるんだ、テメェは……!?」



《ユニークスキル【土下座】の効果波及を確認。対象:ドゲスコフの殺意及び戦意が26%低下しました。困惑が46%上昇しました。危険域を脱するには残り54%低下させる必要が有ります。尚、対象の注意は100%こちらを向いています》



「ようやく隙を見せましたね」


「う、がァああああああッ!!??」



 なんか向こうでアンネが何かをした気配があるが、恐らくはアナウンスの言っていたように〝俺に注意が100%向いた〟おかげで身動きが取れたんだろう。


 そう激痛に耐えながら頭の片隅で分析する俺。



「て、テメェ……うぎゃああああああッ!!??」


「私の胸に触ったのはこの手ですか? まだサイラス様に触れても頂けていない私の胸を触ったのは、この指ですか?」


「ま、まって、謝る、謝るからぁああぎゃああああッ!!??」



《対象:ドゲスコフの殺意及び戦意が100%低下しました。危険域を脱しました。解析報告を終了します》



「あまつさえサイラス様に頭を下げさせるなど、万死を以てしても生温い。その両手両足を動けぬ程に痛めつけ、目を抉り、耳と鼻を削いで首を縄で樹に括り付けて森に放置してやりましょうか」


「ちちょ!? 待った待ったアンネやり過ぎ! そんな拷問みたいな事しなくて良いから――――」


「ッ!?」


「たすけヘアヒンッ!?」



 スキルの束縛から解放されて慌てて頭と声を上げる俺の目に、呆気なく喉を捌かれた頭目……ドゲスコフが目を見開いて喉を押さえ、吹き出る血と共に地面に崩れ落ちる姿が映った。


 いや、なんでヤった本人のアンネが驚いた目で俺を見てるんだよ?



「(油断していました……! 【ドゲザ】の最中は頭を上げられないと思っていたのに……!)」


「え? 何だってアンネ? まだ頭が痛くて、上手く聞き取れなかった」


「いえ何でもありません。それよりもサイラス様、やはり貴方様の推測は正しかったようです」


「うん?」



 何の事か理解出来なかった俺にアンネは近付いて来て、俺の額に手を伸ばした。



「確かに額が割れていましたが、物凄い勢いで治癒されています。痛みも引いてきたのでは?」


「あ、ああ……。そういえば、頭の中で鐘が鳴り響いていたような激痛が、もう……無くなった……?」


「完全に治癒しましたね。やはりユニークスキル【ドゲザ】の所作で負った傷は、即座に治癒されるようですね」


「そ、そうか……ってそんな事よりあの子はッ!?」



 俺はそんなとんでもないスキルの効果の話を強制的に切り上げて、ドゲスコフに囚われていた少女の元へと駆け寄る。

 地面に放り出され横たわっている少女は……息をしていない!? 虚ろな目で空を見上げ、ぐったりとしていた。


 ウソだろ!? なんとか、なんとか救けてやれないのか!?

 必死に少女を抱き起こし、身体を揺すり呼び掛ける間にも、頭の中は何か方法が無いかフル回転していた。そして――――



「こうなったら……ッ!」



 俺は少女を再び地面に横たわらせ、勢い良く上着を脱いだ。





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