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第二十三話 最強の相手と【土下座】乱舞

大変ご無沙汰をしてしまい、そしてお待たせしてしまい申し訳ございませんでした!!<(_ _)>〈 ドゴン!〕



「ははっ! やるなぁサイラス!!」


《攻撃を感知。脅威度判定:AA。回避行動(アヴォイダンス)



 やるなぁじゃないっ!! 強化された身体能力だから躱せたし視えたけど、今明らかに首筋狙ってきてただろ!? しかも真剣で!! 訓練じゃなかったのかよ!?


 短い期間だが、俺の師となったAランクハンターのミザリーとの訓練クエスト中。俺が持つ悩みの種であるユニークスキル【土下座】に興味を示した彼女によって、ピマーンの街近郊の魔境〝木霊の森〟の水辺で、唐突に彼女と戦闘を行うことになってしまった。


 ただの戦闘訓練ならばまだ良かった。しかし俺の身体はユニークスキル【土下座】の支配下に置かれ、戦闘用【土下座】と【(コンバット)(土下座)(プログラム)】の総てを駆使しての真剣勝負となってしまっているのだ。

 しかもだ。これまで戦ってきたどの相手よりも強い、文字通りの最強の相手――飛ぶ鳥を落とす勢いの現役Aランクハンターである【剣姫】ミザリーも、自身の愛剣を抜いて完全に戦いに没入している。


 果たしてこの戦いが終わる頃にはお互い無事でいられるのだろうか……? そんな不安を胸に抱きながら、戦闘とスキルに翻弄され続ける俺だったが。



「集中を乱すなサイラス! 身体を巡る魔力を感じ、この最高の戦闘を眼に、脳に、身体に焼き付けろ!! 極限の状態にこそ活路は(ひら)かれる!!」



 ――――ッ!!!


 そうだ。何を怖気付き、迷っているんだ俺は……!? 強くなると決めたんだろう!? 大切な仲間達を守れるように、心配させないようになると覚悟を決めたはずだろうが!!


 俺とミザリー双方の魔力が、まるで共鳴するかのように高まり続けていく。


 この眼に、脳に、身体にこの感覚を刻み込むんだ……! 俺のスキルの能力(ちから)を極限まで引き出してくれている、そんな彼女の期待に応えてみせろ! サイラス・ヴァン・シャムール!!



《対象:ミザリーの戦意並びに魔力上昇を確認しました。脅威度再解析。対象の脅威度をSに上方修正。【C・D・P】のレベルを5に設定します。レディ――――》


「同じ()()相手に本気を出すのは久し振りだ……。たとえ大怪我をしても責任は全て私が取る。全力で来い!!」


《――――ゴー・ユア・ヘッド》



 研ぎ澄まされた俺の五感は、周囲の総てを捉えていた。駆け巡る俺自身の魔力によって限界まで……いや、限界以上に強化された俺の身体は、まるで引き絞られ放たれた矢玉のように地面を蹴り抜いて、一瞬でミザリーとの間合いをゼロにしていた。



《【真・スライディング土下座】が回避されました。対象を再捕捉。着地点に座標指定し土魔法を起動します。【ジャンピング土下座・昇破】をアクティベートします》


「一瞬で剣士の弱点である足元を狙い打ちとは……! 合理的かつ容赦が無いな、サイラス!」



 俺じゃないんだけどねぇええっ!? なんなの【真・スライディング土下座】って!? 地面を滑る速度がエゲツなかったんですけど!? しかも今まで戦闘後まで残ってた手足の擦り傷とか一瞬で治癒してるしぃ!?


 目まぐるしい高速戦闘に、俺の素の思考能力ではとてもついてはいけない。しかしスキルによる強化が俺の感覚や知覚までにも及んでいるらしく、俺はミザリーが何をしているのかも、俺の身体が何を行っているのかも総てを捉えることができていた。

 だからと言ってそれを総て俺が理解できるかは、また別の話なんだけどな。

 


「くおッ!? 着地点に土魔法とは……ッ!?」


《対象:ミザリーの空中への離脱を確認。【ジャンピング土下座・昇破】ヘッドオン、ナウ。ゴー・ユア・ヘッド》


「ツゥ……ッ!? 縦回転による遠心力で威力を増した頭突きだと……! しかも同時に突き出される掌底と膝による打撃と捌きの一体化攻撃とは……!!」



 ……と、いうことらしいです。


 ミザリーが丁寧に解説した通り、【ジャンピング土下座・昇破】によって俺の身体は、土魔法で空中に打ち上げられた彼女へ向かって勢いよく跳躍した。そのまま身体を複雑に捻ったかと思うと、()()()()()()()()()()【土下座】の姿勢を取り、風魔法で加速と縦回転を加えられて突撃したのだ。そして下方から掬い打つように俺の額が振り抜かれ、ミザリーが咄嗟に構えた手甲(ガントレット)と激突した。両手は彼女の剣を牽制し、両膝は彼女が衝突を防ぐために折りたたんだ彼女の膝とぶつかり、ミザリーは【ジャンピング土下座・昇破】の威力によりさらに上空へと打ち上げられる。



「動きが奇抜過ぎて読み辛い……! そして殺気も無く攻撃の予備動作すら魔法で制御されている。なるほど実に興味深い……!!」


《対象:ミザリーの魔力の急上昇を確認。火属性の魔法攻撃と推測。対魔法防御【土下座障壁(プロテクション)】を展開します。同時に風魔法を発動――――ナウ》


「穿つは我が敵。万象燃え尽き灰燼と成さん――――【劫炎滅焦(ヴォルケーノダンス)】!」



 うおいっ!? 【劫炎滅焦(ヴォルケーノダンス)】って確かクラスSの超高等火魔法じゃねぇか!? それをたった二文節の詠唱で発動とか化け物かよ!? っていうか人間一人相手に撃つ魔法じゃないからぁあああッ!? あとここ一応森の中ぁああああああッ!!?? 山火事になっちゃうぅぅううううッッ!!??


 ――――視界が真っ赤な光に塗り潰される。人間の骨身など一瞬で焼き尽くす地獄の業火が、奔流となって俺に降り注いでくる。

 しかし俺の身体はあろうことか、その炎の激流に向かって風魔法で上昇していた。五体を灼熱に晒して突進し、飲み込まれると思った瞬間、俺は再び空中で、しかも逆さまで【土下座】の構えを取った。



「バカなッ!? 避けろサイラス! 死ぬぞッッ!!」



 俺だって避けたいんだよぉおおおおおおおおおおおッッ!!??


 ミザリーが炎を生み出し撃ち放ってから一秒にも満たないその時間。高まった俺の集中力は、自身の身体が炎に飲み込まれるのを確かに目撃した――――が、熱くない……?

 思わず閉じてしまった眼を恐る恐る開いてみると、目の前は一面が燃え盛る炎だった。しかしその業火は俺の前に張られた透明な壁のような物に阻まれ、俺には届いていなかったのだ。


 確か、【土下座障壁(プロテクション)】って言ってたよな……?

 ミザリーの高等魔法とせめぎ合うその壁が()()なのだろう。集中して観察してみれば、俺の両手、両膝、そして額に魔力が集中して渦巻いているのを感じた。上空のミザリーに対して腹を向けるという格好悪いことこの上ない構えではあったが、どうやらこれら五点により展開した結界のようなもので、彼女の大魔法を完全に防御しているようだった。


 そしてそれだけでなく――――



「そんなバカなッッ!!??」


《対象:ミザリーの火魔法の防御に成功しました。カウンタースタンバイ。【バレルロール土下座】ヘッドオン。ライク・ア・シューティングスター》


「クラスS魔法を完全に防いだ上に突破するだとッ!?」


《風魔法を最大出力で発動。【バレルロール土下座・(ひらめき)】ゴー・ユア・ヘッド》



 俺の身体は空中で姿勢を整え、ミザリーに頭頂を向けた【土下座】の構えを取り、纏う風魔法の威力が急激に上昇する。風をコントロールして俺の身体は錐揉み回転を始め、ただ一直線に、撃ち放たれた矢の如くミザリーに向け飛翔する。


 俺の知覚は確かに、俺の頭頂が空気の壁を貫いて、一筋の流星となったのを感じ取った――――



 ――――ゴギャギャギャギャリィィイイイイイッッッ!!!!



 森の樹木の頂よりも遥か上空で、渦を巻き回転する俺の頭頂とミザリーの愛剣が、盛大に火花を散らし轟音を打ち鳴らした。


 っていやこれ俺の頭どうなってんのぉおおおおおおッッ!!?? 髪は!? 頭皮は無事なのかッ!? ってそうじゃないてめぇミザリーなに人の頭に遠慮なく剣を打ち付けてくれてんだよぉおおおおおおッ!!?? もう痛みとか完全に感じ取れない次元なんですけどぉおおおおおッ!!??



《対象:ミザリーの健在を確認。【バレルロール土下座・(ひらめき)】を昇華させます。火魔法、雷魔法を並行起動。【スパイラル土下座・(きわみ)】アクティベート。ゴー・ユア・ヘッド》


「ぬぅッ!? 異なる属性の魔法の同時展開だと!? しかもこれは……っ、回転が増して……ッ!!??」


《【土下座手技四十八手】をアクティベート。【触腕指】》


「この高速回転の中で指の動きのみでわたしの剣を弾いただとッッ!!??」


《風魔法〝限界突破(リミットブレイク)〟。ユー・ヘッドダウン・ナウ》



 いや【土下座】してるのは俺なのに相手に〝頭を下げろ〟とかおかしいしそもそも俺にしか聴こえてないからぁああああああああッッ!!??


 謎の力場でせめぎ合い、火花を散らしていた俺の頭頂とミザリーの愛剣の均衡は、次々と新たな一手を繰り出す【C・D・P】のアナウンスの声と共にアッサリと崩れ去った。

 炎と雷を纏い更に回転力を増した【バレルロール土下座・(ひらめき)】……いや、【スパイラル土下座・(きわみ)】に昇華したと言っていたな。とにかくその新たな【土下座】に押され、更にはダメ押しとばかりにまるで生き物のように蠢いた()()()()によって、回転を押さえ付けていた剣の支点をズラされた。


 そしてこれまでで最大の風魔法が俺の回転に寄り添うように纏われ、俺の頭頂は遂にはミザリーの防御を貫いた――――



「カハ――――ッ!!??」



 俺の頭頂は彼女の着けた胸甲へと突き刺さり、回転と纏う炎と雷によって抉る。そして俺の身体はそのまま回転を止めずにミザリーごと空を駆け登り――――そして何故か、急にその魔力の放出を止めたのだった。同時にあのアナウンスが頭に響いた。



《対象:ミザリーの敵意、害意、殺意の完全消失を確認しました。全ての戦闘行動をキャンセルします。対象の脅威度をFに変更。飛翔限界まで残り二秒です。限界到達点から地表までの予想落下時間はおよそ十二秒と推定。解析報告を終了します》



 は?? え、いやちょっと待てええええッ!!??

 何してんの!? え、ミザリー気絶した!? っていうかこんな空の上でいきなり支配終了すんなよぉおおおおおッッ!!??


 森の樹木よりも遥か上空で。

 空に投げ出された俺の身体が、何の気構えも無く突如自由を取り戻す。手足は動くし声も出せる……って、だからってどうすりゃいいんだよぉおおおおおおおッッ!!??



「ミザリー!! おいミザリー大丈夫かッ!?」



 とにかく声の限りに、今の今まで戦っていた相手に声を投げ掛ける。アナウンスの声を信じるなら、数秒後には地面に激突する運命が待っているのだから、それはもう必死に呼び掛けたよ畜生ッ!!


 その切なる思いが届いたのか。



「ごほっ!! ああサイラス、わたしは生きてるぞ。いやぁ、効いたなぁあの一撃は」


「ああ、良かった無事だったか……って、言ってる場合か!? こんな上空から落ちたらタダじゃ済まないんだぞ!?」



 彼女から返事が返ってきて、俺はまずは安心したいところだったがそれはこの状況が許さない。なんとかして無事に着地するには、一体どうしたら……!?



「落ち着けサイラス。わたしが合図を出すから、そしたら二人で同時に風魔法を発動するんだ。イメージは地面からわたし達に向かって突風が吹くようにな。集中して魔力を練り上げろ」


「いやおま、なんでそんな冷静なの!? 失敗したら二人揃ってペシャンコ――――」


「狼狽えるな! この程度の危機も乗り越えられずに、ハンターとして生きていけるか!! それとも何か? わたし相手にあれほど戦えたお前が、こんな情けない死に方を許容できるとでも言うのか!?」


「――――ッ!!」



 ミザリーのその言葉は、まるで俺の身体を……心を雷のように撃ち貫いた。


 そうだ。たとえユニークスキルの力を使ったとはいえ、俺はたった今まで、この【剣姫】と――憧れを抱いていたAランクハンターのミザリーと互角に渡り合っていたんだ。

 その俺に有効打を与えられた彼女がこんなに落ち着いていて、その彼女が本気で戦ってくれた相手であるこの俺がこんな醜態を晒している……? そんなの、胸を貸してくれた彼女への侮辱でしかないじゃないか……ッ!!



「すまん、取り乱した。合図は任せる!」


「それでいい。全力でありったけの魔力を練り上げろ!」


「応ッ!!」



 腹は括った。俺は全神経を集中して、魔力を身体の奥底から絞り出す勢いで練り上げる。さっきまでの戦いのように、スキルが発動していた時の、あの感覚をイメージして――――


 下を見れば、見る見るうちに地面が近付いてくる。



「呼吸を合わせろ! 三……二……一……、今ッ!!」

「はああああッ!!!」



 俺とミザリーの二人で発動した風魔法が、俺達の身体に叩き付けられる。


 俺はその衝撃を確かに感じたと同時に、意識を手放していた――――





久し振りの続編更新ということもあり、お詫びも兼ねて【土下座】たっぷりでお届けしました! 如何でしたでしょうか!?


そしてお知らせです。

当作品ですが、本日0時よりノベルアップ+様にて追い掛け更新を開始しました!

理由としましては、HJ小説大賞2021後期への参加のためです。

そのために当作品の更新頻度を上げていく心積りですが、読者の皆様に応援をしていただければ幸いです!


これからも執筆を頑張って続けて参りますので、どうぞお付き合い下さりますよう、よろしくお願いを申し上げます!!m(*_ _)m


2022.02.08

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミザリー、容赦というものが全くない…… そして主人公、はっきり言ってチートレベルに強いですね。土下座がここまで奥深いとは
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