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第二十二話 戦闘訓練と【土下座】

お待たせしましたー!!



「わたしが重ねた経験から察するに、スキルの任意発動ができないというのは理解不足からくるものが多い」


「理解?」


「ああ。例えば【剣術】スキルの派生の一つ【スラッシュ】は、相手を強撃によって斬り伏せるという動作……型を正確に身体に覚え込ませ、それを効果的に使いこなすことで目覚める者が大半だ」


「型への理解と、熟練度合が関係すると……?」



 Aランクハンターのミザリーとの訓練は今日で三日目。俺は彼女の『パーティーを組む』という提案を受け入れ、訓練場ではなくこのピマーンの街に隣接する危険地帯、〝木霊(こだま)の森〟へと足を踏み入れていた。


 パーティーを組むと言っても何人も集まるなんて大袈裟な話ではない。ただ単純に、彼女の受けた依頼に同行するだけのものだ。

 今日はアンネロッテとニーナは留守番で、俺とミザリーの二人きりでの行動となる。


 ……何故か二人は非常に不機嫌そうだったが。



「そうなるだろうな。だからわたしはあの説――女神が下界の者の努力を認め授けるという説は正しいのでは、と思っている」


「想像を絶する努力を重ねたであろうミザリーが言うと、確かに説得力があるな」


「わたしなどまだまだだ。しかしサイラス、これはお前が求めている答えではないのだろう?」


「お見通しだったか……」



 茂みを掻き分け、道すがら目に付いた薬草類を採取しつつ森の奥へと歩きながら、俺は彼女に教えを乞うていた。


 ――――スキルの任意発動の方法。


 もちろん汎用の誰しもが得られるスキルではなく、俺が自らの過ちを雪ごうと決意するキッカケとなった、ユニークスキルの……だ。


 今まで何度も俺の得たユニークスキル【土下座】には助けられてきたが、実の所一度たりとてそれを己の意思で制御できたことは無い。

 いつもあの無機質なアナウンスに良い様に操られ、自由になるのは謝罪の言葉を吐く口だけだった。


 もし……もしもだ。

 あのスキルを――最低でも戦闘用の【土下座】だけでも制御できれば、戦闘の幅は大いに広がるだろう。贅沢を言うならば任意で【C・D・P】――【コンバット土下座プログラム】を発動させることができれば、発動中のあの強化状態にいつでもなれるはずなのだ。



「さては、何か強大な力……例えば伝説のユニークスキルでも秘めているのか? それが使いこなせていないとでも?」


「……ミザリーだから信用して話すが、まあその通りだ。生憎と自分の意思で制御できなくてな、最近ようやく発動条件に当たりが付いてきたところなんだ」



 ほう、とミザリーが興味深げな顔で振り返った。

 その長い黒髪と同じ切れ長の漆黒の瞳を鋭くして、俺のことをじっと見詰めてくる。



「スキルが発動してしまえば、俺は自分の意思では身体を動かせなくなる。どうにかスキルの恩恵を受けつつ、自由に使いこなすことができないかと思ってな」


「なるほど、〝自動発動型(オート)〟のスキルということか。それはまた随分と珍しいモノを得たのだな……」



 スキルの発動形態に関しては、大まかに分けて三通り存在する。

 常にスキルの効果を発現させる〝常時発動型(パッシブ)〟スキル、ここぞという時に自分の意思で発動させる〝任意発動型(アクティブ)〟スキル、そして状況や条件が満たされた時に発動する〝自動発動型(オート)〟スキルだ。



「やはりオートスキルだと、任意でコントロールするのは不可能なのか?」



 俺の見解でも、ユニークスキル【土下座】は自動発動型(オート)スキルに分類されるだろうと考えていた。ミザリーも同意見らしく、俺の質問に難しい顔をして腕を組んでしまっている。



「スキルに定められた条件や状況……それによって発動するスキルだからな……。聞いて良いものか分からんが、発動中サイラスはどのようになるんだ?」



 遠慮がちに訊ねてくるミザリーだったが、その目はどうにも好奇に輝いているように見えた。

 まあ伝説などにしか登場しないユニークスキルの存在を仄めかしてしまったんだし、俺のような駆け出しの新米ハンターに真摯に対応してくれる彼女になら、詳細は省くにしても多少話しても問題ないだろう。



「何もできないな。スキルに身体を支配されて……脅威や敵意が感じられなくなるまでは、まるでスキルの操り人形状態だ。もっともそのおかげで、この前はゴブリンライダー達から身を守れたんだけどな」



 若干の自嘲も込めて、肩を竦めて答えを返す。

 本当に、あの時は【C・D・P】が発動してくれて助かった。そうでなかったら、今の俺が五体満足で居られたか分からないからな。



「なるほど。やはりわたしが感じた違和感は正しかったな」


「ミザリー?」



 合点がいった。そう言うように頷きを返してくるミザリーに、俺は首を傾げる。



「いやな、お前達に食事を奢った時にゴブリンライダーを三体倒したと言っていただろう? あの日の訓練を鑑みるに、サイラスのあの時の実力では難しいのではと思ってな」


「何かしらの切り札が存在すると、その時には判明していたわけか」


「まあ、それがまさかユニークスキルとは思わなかったがな。しかし自動発動型(オート)とは……」


「何か不味いのか?」



 納得してもらえたなら話は早いのだが、ミザリーは今度は難しい顔をしてしまう。俺は彼女が何に対して深刻になっているのかは、勿論分からない。



「……確かこの近くに水場があったはずだ。そこで一旦休憩とし、少しばかり腰を据えて話そう」



 そう言って会話を一旦取り止めたミザリーに先導され、俺は更に森の奥へと歩いて行ったのだった。





 ◇





 ……森に入ってから、何度か戦闘は体験した。まだまだ浅い領域のため、大体はゴブリンやコボルトなどの初級ハンターが相手取れるような低級の魔物だった。

 未だ俺の手には余る魔物に関しては、率先してミザリーが倒してくれていたしな。


 そうして半刻ほど森の奥に踏み入った所に、湧き水が溜まったであろう綺麗な湖があった。



「さて、これから自動発動型(オート)スキルの利点と欠点について説明しよう。サイラスはオートスキルと言うとどんなモノを()っている?」



 湖の畔……地面から剥き出しになった大きな岩に向かい合って腰を下ろした俺達は、水袋に補給した新鮮な水で喉を潤してから、先程の講義の続きを始めた。



「そう言われると咄嗟には浮かばないな。だが有名なものだと……【狂戦士】が使うとされている【狂化】スキルか?」



 有名な英雄譚の中で、度重なる戦闘に狂った戦士が用いたとされるスキルの名を挙げてみる。

 ミザリーはそれに満足気に頷いてから、真剣な顔で口を開く。



「まあその辺りが有名だろうな。かの伝説の傭兵が用いたとされるスキル【狂化】は、確かにオートスキルだ。発動条件は確か〝一定数の手傷を負うこと〟と、〝一定数の敵を打ち倒すこと〟だったはずだ」



 伝記によればその傭兵団を率いていた戦士が戦った後には、敵兵は一人の例外も無く屍を晒すばかりだったと云う。そしてそれだけでなく……



「時には敵味方の区別も付かなかったらしいな。【狂化】スキルが発動すると極度の興奮状態となり、動くモノ全てに攻撃したくなるそうだ」


「それが……欠点ということか?」


「まあそうではあるのだが、先に利点から話そう。【狂化】を含めたオートスキルの利点は、使用者自身の成長と共にほぼ際限なく強化されるという点だ。そしてモノによっては〝派生〟したり、〝進化〟したりもする。【狂化】スキルは進化すると【狂化】から【狂花】……そして【狂華】となり、発動中はまさに一騎当千と言えるほど強力になる」


「それは……知らなかったな……」



 向かい合って座っている間の地面に、スキルの進化の過程を分かり易く書き出してくれるミザリー。

 ということは俺のユニークスキルが色々と派生を繰り返しているのも、俺の成長具合に合わせてスキルが強化されたということだろうか。



「一方でそうして強力になる代わりに、欠点も大きくなっていく。先程サイラスが言った通り、欠点である興奮状態はスキルの強化具合が強くなるほど酷くなったらしい。そして最後の【狂華】スキルに昇華された時だ。理性は完全に失われ、その戦士は文字通りの〝狂戦士〟へと成り果てたという。彼の後には、敵味方双方の骸が累々と転がっていたそうだ」



 〝堕ちた英雄〟の末路というわけか……。ということは俺のスキルにもそのような欠点が付属しているのだろうか……?



「まあこれは、あくまでも【狂化】スキルに関する利点と欠点だ。お前の持つスキルがどんなものかは深く詮索はしないが……完全にデメリットと言えるかはサイラス、お前次第だからな」



 一つ苦笑を漏らしてそう締め括ったミザリーは、穏やかな顔で俺を見詰めている。

 考えろと、そう言ってくれているように感じた俺は、意を決して先程から訊きたかったことを口にする。



「……例えばだが、スキル発動中の身体強化状態のみを任意に抜き出したりとか……そういったことはできないのか?」


「ほう……? 【狂化】スキルで言うならば興奮状態を抑えつつ、身体のみを強化するようなものか。それはまた随分と虫のいい望みに聞こえるな?」



 そうは言いつつも、腕を組んで検討はしてくれるミザリー。俺も頼りきりにならないよう、一緒に考えを巡らせる。



「……サイラス。そのスキルによって身体を操られたのは、一体何回だ?」


「ん……?」



 ミザリーの質問に頭を捻る。言葉通りに全ての操られた回数を数えるならば、それなりの数に登るが……。



「そうだな……戦闘で操られたのが三回、それ以外を足せば全部で…………十二回だな」


「そんなにか……。ん? いや待て、戦闘以外でも発動するスキルなのか?」


「そうなんだよな。そもそもの用途は戦闘とは別だと思うんだが……。さっきミザリーが説明してくれたのとはちょっと違うんだが、戦闘用にも使えるよう派生・進化していってるみたいなんだ」


「……なんというか、さすがユニークスキルだな。デタラメと言うか……」



 俺もそう思うよ、ミザリー。そもそも【土下座】は謝罪行為のはずなのに、どうして戦闘用なんかになるんだか……。



「ところでそのスキル、普段発動する時と戦闘用の時と、明確に発動条件に違いはあるのか?」


「違い? まあ今判明してるだけなら、魔力を放出しているか否かが関わっていると思うが……」



 ミザリーにそう問われ、俺は何の気なしに普通に答えを返す。少し前にスキルのことを検討した限り……そしてこの間のゴブリンライダー達との戦闘を経験した限りでは、やはり〝戦闘中〟で〝魔力を放出している〟のが、戦闘用スキルを発動する鍵だと確信が深まったからな。



「ちなみにだが……発動条件などは訊ねても大丈夫だろうか……?」



 遠慮がちな上目遣いでそう問うてくるミザリー。

 俺は今更だなと……そう苦笑しながらも、彼女のその気遣いに感謝していた。


 俺より圧倒的に実力も実績も、ましてや知名度もあるにも関わらず、あくまでも対等に接してくれるミザリーに。俺はなんだか隠し事をするのは嫌な気持ちになり、彼女に対して感じた為人(ひととなり)を信じたいような……そんな心持ちになっていた。


 だから……



「心からの誠意ある〝謝罪〟もしくは〝嘆願〟。俺が把握している限りでは、それが発動条件だ。戦闘中など魔力を放出している状態だと、そのまま戦闘用の派生スキルが発動するようだな」



 だから俺は、そう答えたんだ。

 良くしてくれて……そして対等に扱ってくれたミザリーには、嘘も隠し事もしたくなかったんだ。



「……なるほど。今日の訓練内容が決まったな」



 だからミザリーの、好奇心に色付いた瞳のことをすっかり忘れていたんだ。



「サイラス、魔力を練り上げろ」



 急に鋭くなったミザリーの気配に押されながら、俺は言われるがまま魔力を放出し練り上げる。


 それを確認したのだろう。ミザリーは俺の手を取って、(おもむろ)に――――


 ――――ムニュンっ♡



「――――え?」



 俺の右手が、ミザリーの胸に置かれていた。



「んっ……! サイラス、(けが)れを知らぬわたしの身体に……よくも触れてくれたな……?」



 え、ちょ……!? はいぃッッ!?


 俺の右手はガシリと捕まれ、事もあろうか彼女のもう一方の手によって開けたり開いたり握ったり――――



「おまっ……!? 何して――――」


「誰にも触れさせたことが無かったのになぁ〜。嫁入り前のわたしの穢れのない身体を……しかも胸をこんなに……んんぅっ……!」



 ちょ、おま……っ!? 手を動かすな! まさぐらさせるなッ!?



「す、すまない……っ!?」



 思わず口を衝いて出た言葉。その言葉と共に(元々ミザリーのせいで自由は利いていなかったのだが)――――



《心からの誠意ある謝罪を確認しました。ユニークスキル【土下座】をアクティベートします》


「ちょっと待てぇええええええッッ!!??」



 どうしてこうなった!? 俺はただこのスキルをコントロールしたかっただけで……! そのためにミザリーに相談したのに……!?



その様子(・・・・)だと発動したようだな。あとは〝戦闘用〟とやらのスキルを発動させてみろ」



 ――――ッ!? そういうことか……!

 彼女は……ミザリーは俺の〝戦闘用スキル〟を確認するためにこんなことを……!



「ミザリー、俺に敵意を向けろ! それで戦闘用スキルが発動する!」



 俺の言葉に不敵な笑みを浮かべるミザリー。

 次の瞬間――――



《状況スキャン……。対象をミザリーに指定しました。敵意・害意・殺意を感知。状況レッド。戦闘用スキルを全て励起します。【(コンバット)(土下座)(プログラム)】をアクティベートします》



 これは訓練と言えるのか……?


 唯一自由になる思考の片隅で。

 右手が伝える柔らかいモノの感触と、ミザリーから押し寄せる敵意とを感じながら、俺の身体は魔力によって強化されていった――――





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