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第二十一話 【剣姫】との出会い

先週は更新を休んで申し訳ありません!

お楽しみください!!



 さて、ピマーンの街で無事にEランクハンターに昇格した俺だったが。



「素養は認めるが、動きに無駄が多過ぎる。それじゃあ消耗も早いし、魔物はともかく手練には通用しないぞ」


「はぁ、はぁ……! くっ……!」


「サイラス様……」


「お兄ちゃん頑張れー!」



 俺達が持ち込んだ草原の驚異に関する調査が始まりはしたが、その裏付けや報奨の話がまとまるまでは身動きも取れなかったため、俺はギルドに相談して戦闘指南を受けていた。

 というのも、(元から考えてはいたのだが)俺はまだまだ弱いからだ。生家である公爵家で戦闘訓練を受けたアンネ――アンネロッテにも幾度も助けられているし、たまたま俺に発現したユニークスキル【土下座】に……あの忌々しいアナウンスの声に戦闘の度に追い詰められるのもゴメンだからな。


 俺が弱いままではアンネの負担も危険も増すばかり。そもそも未だ謎ばかりで詳細も分からないユニークスキルに頼りきりでは、この先の旅路の安全確保に問題がある、と。

 そう判断し相談した俺に、いつも俺を助けてくれるアンネはギルドの制度を話して聞かせてくれた。



「さあ立て。体力はこれから追々付けていくにしても、それでも戦うというなら技術を磨け。守りたい者が居るのなら、尚更足を止めている場合ではなかろう?」


「ぐっ……! ああ、その通りだ……!」



 ハンターギルドには、受講料――という名の依頼料だな――を支払うことで、熟練ハンターから指導を受けられる制度があるそうなのだ。

 高ランクのハンターには後進を教育してもらいたい、というギルドの思惑から端を発した制度で、銀貨三枚という駆け出しにはなかなか厳しい料金を支払うと、ギルド支部が滞在中の高ランクハンターに直接交渉し、指導を頼んでくれるというものだ。



「見た目は優男だが、良い気概を持っているな。魔力も高くそして豊富に持っている。魔法剣士を目指すのは正解だろう」


「大先輩であるミザリーさんにそう言ってもらえるのは光栄だ。たとえお世辞でもな」


「世辞など言わんし、ミザリーでいい。ギルドに依頼を持ち掛けられた時は面倒とも思ったが、興も乗ったことだし、五日間しっかりと面倒を見てやる。来い!」


「ああ!」



 Aランクハンターにして【剣姫】の二つ名を持つ黒髪の戦乙女、ミザリー。

 たまたまこのピマーンの街に滞在していた彼女と顔合わせをさせられた俺は、正直驚き過ぎて言葉を失ったものだ。


 ソロハンターとして異例の速度でAランクに昇格し、奇しくも俺と同じ魔法剣士として活躍する彼女の勇名は、貴族である俺の耳にも届いていたほどだったからな。

 そんな彼女にたった銀貨三枚で稽古を付けてもらえるなど、ギルドの制度には感謝してもしきれない。


 とんでもない幸運に恵まれた。幸先が良い。


 この時の俺はこの願ってもない巡り合わせに、ただ胸を踊らせていたんだ。


 この時はまだ――――





「見極めが足りない。相手の一の行動で百の予測を立て、最善の行動を即座に取捨選択しろ。やり直しだ」


「ぐは……ッ!」



 既に日も傾き始めた頃。

 ギルドの訓練場には、肩で息をし土(まみ)れになった俺と、それを心配そうに見守るアンネとニーナ、そして息一つ乱さずに悠然と木製の長剣を構え佇む、【剣姫】ミザリーしか残っていない。



「集中力が途切れてきているぞ? 気を引き締めろ。せっかく十五手まで進んだというのに」


「分かって……いるっ」



 ミザリーの訓練は至ってシンプルだった。

 彼女の打ち込みを何手まで防ぎ、躱すことができるか。ただそれだけだ。



「熟練者同士の打ち合いでは、敢えて隙を晒す搦手(からめて)を得意とする者も居る。しかしわたしの打ち込みに耐え続ければ、それが欺瞞か本物かなど確実に判断が出来るはずだ。次は二十手耐えてみせろ」


「ああ……! 来い!」



 その漆黒の長髪を揺らす優雅な佇まいとは裏腹に、その見目麗しい乙女の訓練は苛烈で、容赦の無いものだった。


 ミザリーが繰り出す木剣による刺突を、弾くのではなく俺が持つ剣を腹に添えるようにして逸らし、受け流す。そうせねば次の攻撃に俺の反応速度が追い付かないからだ。

 逸らされた木剣を見るのではなく、ミザリー本人の足の運び、肩の動き、腕の挙動に整った顔の黒い瞳の動きなど……。それらを全体的に視て、即座に判断を連続して下し、身体に動けと、剣を振るえと命じる。


 二手、三手と彼女の剣戟を逸らし、止め、弾き。



「【風の槍(ウィンドランス)】」


「くっ!? 【火の壁(ファイアウォール)】!」



 時に織り交ぜられる魔法による攻撃を、次の挙動も考慮しつつ防ぎ。


 観て、考え、判断し、予測し、動いて、動いて、動いて――――



「ガッ……!?」


「十九手か、惜しかったな。まあ木剣ではこんなものだろう」



 俺の持つ木の短剣が遂には限界を迎え、半ばから砕け折れる。それと同時に彼女の袈裟に振るった剣が肩にめり込み、俺は思わず膝を着く。

 肩を押さえ息も絶え絶えで見上げる俺に対し、ミザリーは変わらず息も切らさず、汗も滲ませずにそこに佇んで平静に評を下してくる。



「日も暮れそうだ。今日はこのくらいにしておこう」


「……ああ。胸を貸してくれて礼を言う」


「なに、引き受けた以上はちゃんとやるさ。まあ貸して誇れるほどの胸は無いのだがなっ」



 それは彼女なりの冗談なのだろう。確かに彼女の胸は、20歳という俺よりも二つ、アンネよりも四つ上という年齢にも関わらずとても慎ましい。

 しかしそれでもその肢体は貧相ということもなく、鍛え上げられたしなやかな長い手足や俺の目線ほどの高さの身長など、女性らしさと凛々しさを兼ね備えた美しさを印象付けてくる。



「胸だけが女性の魅力とは限らないし、俺は美しいと思うけどな。とにかく今日はありがとう。貴女が教官になってくれて、本当に良かった」



 ようやく息も整い、膝を着いていた身体を起こしてから、そう改めて指導を引き受けてくれたことへの感謝を伝える。


 世に何人居るだろうか。現役の、しかも実質的な最高峰とも言えるAランクのハンターに手解きを受けられる、そんな幸運な者など。

 あるいは貴族であれば財貨を積んで(敬意を込めてか居丈高にかは分からんが)、依頼することはできるだろうけどな。



「う、うつく……!? ま、まあ筋も良いし、最後のアレも剣が折れなければ防げていたしな……! 初日にしては上々だろう!」



 礼を言った俺に対して、何やら慌てた様子でそう評してくるミザリー。顔が赤く見えるが、夕焼けのせいだろうか?



「サイラス様……!」


「またなの、お兄ちゃん……?」



 ん? アンネとニーナは、どうしてそんな呆れたような顔をして俺を見てくるんだ?

 まあ何はともあれ、訓練中も心配そうにしても黙って観ていてくれたんだから、二人のこともちゃんと労わなきゃな。



「二人とも、付き合ってくれてありがとな。まだ訓練は四日あるけど、今夜は少し奮発した物でも食べようか」


「ホント!? それじゃまたシャロンお姉さんのお店がいいな!」


「こら、ニーナ……! サイラス様、あまり散財するのは……」



 俺の言葉にニーナはパッと表情を明るくし、飛び跳ねて喜んでくれた。しかしアンネからはジトッとした視線と共に、お小言を頂戴してしまった。

 いや、確かにアンネの言う通りなんだがな。この街に着いてから、路銀を貯めるどころか出ていくばかりだしな。その内の何割かはお前達の衣服代だぞとは、恐ろしくてとても言えないが。



「うん? なんだ、三人とも今夜は外食するのか? ならばわたしが良い店に連れて行ってやろう」


「「「……は???」」」



 しかしそんなやり取りをしている俺達に、そんな予想外な言葉が投げ掛けられたのだった。

 多分俺達は揃って間抜けな顔で彼女を……ミザリーを見返していたと思うな。





 ◇





「さあ存分に食べて飲んでくれ。遠慮などせずとも、わたしは高ランクハンターの端くれだ。ワイバーンの一匹も狩ればここの勘定など気にもならない金が手に入るからな」


「訓練だけでなく食事まで……。重ねて礼を言う」


「よせ、堅苦しい。五日間とはいえど弟子のようなものだ。わたしも師には良くしてもらった。特に食べ物は大切だと、そう教えてもらったしな。どうしても気になるのなら、いつかサイラスも後輩に同じようにしてやればいい」


「……ああ、ありがとう。いただきます、ミザリー」


「「いただきます」」



 なんと言うか、本当にミザリーはできた人という印象だな。確固たる実力を持ち、Aランクハンターとして数々の実績も打ち立て、それでいて知り合ったばかりの俺のような駆け出しハンターにも対等に接してくれて、こうしてご馳走までしてくれるなんて。

 聞けば彼女の師もこうして後輩を遇することが多かったそうだし、彼女の人柄はその師である人物に色濃い影響を受けているようだな。



「そういえばサイラス」


「ん? どうしたんだ?」



 俺としてもこうして侮るでもなく、へりくだるでもない接し方をされるのは心地好く感じるな。


 そんな風に思いながら、俺達の収入では中々入れないような食堂で、美味い料理に舌鼓を打っていると、ミザリーが真剣な顔をして声を掛けてきた。



「ギルドでチラリと聞いたんだが、なんでも草原でゴブリンライダー共に襲われたんだって?」


「ああ、そうだが」



 何かと思えばその話か。まあアレのせいで力不足を改めて痛感して、ギルドに指南を依頼したからこうしてミザリーと知り合えたんだけどな。



「良く無事だったな。普通なら駆け出しのハンターが手に終える相手じゃないんだが」


「俺独りならそうだろうな。仲間であるアンネ……アンネロッテが助けてくれたから、こうして美味い料理を食べていられる。彼女には本当に色々な面で助けられてるよ」


「サイラス様、私は当然の働きをしただけです。それに六組のライダーの内半数はサイラス様が討伐したではありませんか」


「ほう……?」



 いや、そうは言うが()()はな……。


 あの戦闘はユニークスキル【土下座】が……そしてあのアナウンスによって身体が操られて切り抜けたわけだし、正直に言って俺自身の力とは言えないだろう。

 だからこそこうしてミザリーを頼って訓練をしているわけなんだしな。しかしそのミザリーはアンネの言葉に興味を持ったようで、アンネと俺を交互に見比べてから、何やら考え込み始めてしまった。


 俺は不思議に思いながらも食欲には勝てず、ニーナがさりげなく大皿から取り分けてくれた品々を口に運んでは、調理法や素材などを考察していた。

 


「なあ、サイラス」



 しかし、料理研究に勤しむ俺に再びミザリーが声を掛けてくる。その顔は真剣そのもので、どこか有無を言わせないような雰囲気を醸し出している。


 一体何を言われるのだろうか。もしややっぱり教官役は辞めると三行半(みくだりはん)を突き付けられるのだろうか。


 不安から若干及び腰になりながらも、そのただならぬ雰囲気に気圧され居住まいを正した俺に、彼女は。



「わたしとパーティーを組んでみないか?」



 そう、提案してきたのだった。





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