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第二十話 激戦と【土下座】

間に合ったァーーーー!!!



《――――ゴー・ユア・ヘッド》



 スキルのアナウンスが響くと同時、俺の身体はゴブリンライダー達に向かって地を蹴った。

 スキルが敵と判定したのは四体……四組のゴブリンライダーだ。残りの二体は離れた位置でアンネロッテと戦ってるみたいだな。



「ゴブブアッ!?」

「グルルルルッ!」



 今まで逃げ回っていた獲物が突然向かってきたせいか、ゴブリンも乗り物になっている狼型の魔物も唸り声を上げて威嚇してくる。



《土魔法を起動。続いて【スライディング土下座・デコイ】をアクティブ。目標地点を設定。ヘッドオン……ナウ》



 駆ける俺の頭に逐一響くアナウンス。それと同時に俺の意志とは関係なく魔法が発動する。


 発動した土魔法はどんな攻撃かと思いきや、俺の眼前からライダー達に向けて、なんと地面を整地し始めた。


 そういえば【スライディング土下座】って言ってたもんなぁ。滑り易いように整地したんだな、きっと。その後の【デコイ】ってのが気になるけども。

 背の高い低いも関係なく、草の生い茂った草原に一本の道が出来る。俺はせめて今後の戦闘の参考にしようと、自由になる目だけは閉じるまいと覚悟を決めた。


 地面から足が離れた。【スライディング土下座】に移行する直前の滑空が始まり、俺の身体が即座に折りたたまれる。

 膝を曲げ、頭を下げ、手を伸ばして【土下座】の姿勢となる。


 ――――ズシャアアアアアアッ!!!


 着地と同時に俺はそのまま滑り始める。しかし今回の俺の膝は、ディーコンの街のセルジオさんの作ってくれた膝当てのおかげでダメージは無い。手は痛いけど! 手袋もしてくりゃ良かったなチクショウ!!


 そのまま初めての時のように頭から突っ込むのだろうと心構えをした俺――――だったのだが、痛みが来ない?

 気付くと俺の身体は、何に激突することも無く止まっていた。



「ガアアアッ!!」

「グルルアァーーッ!!」



 頭のすぐ上で響く狼の獰猛な声に、俺はヤツらの直前で動きを止めたことを悟る。って、どうすんだよコレ!? 身体は……ダメだまだ支配されてる!?



《【スライディング土下座・デコイ】の効果を確認。続いて【ジャンピング土下座・ストンプ】をアクティブ。風魔法を起動》


「ガアアアッッ!!」



 ヤバい喰われる――――一際殺意の込もった狼の声にそう思った瞬間、折りたたまれていた俺の身体が急激に伸ばされ、地面に弾かれるようにして空へと舞い上がった。



《【ジャンピング土下座・ストンプ】スタンバイ。風魔法にて落下速度を調整。レディ――――》



 デコイ……つまり囮だということか。そんなことを空に打ち上げられた俺は、回転する視界を通して考え付く。目の前で【土下座】の姿勢で止まった獲物が居れば、確かに相手の意識はそこに……下に集中するだろう。

 そして空中の俺の身体が再び【土下座】の体勢を整えた瞬間、俺の背中に魔法の風が叩き付けられた。ああ、ちょうど真下に一組のゴブリンライダーが居ますねぇ……ッ!?



《ゴー・ユア・ヘッド》



 ひぃいいいいいッ!!?? 地面が、ってかゴブリンライダーが凄い勢いで眼前に迫って――――


 ――――グシャアアッッ!! ベキッ! ゴキンッ!!


 あぐがアァァァァァァッッ!!?? そんな風魔法で勢い付けなくてもぉおおおおおおおッ!!??


 俺の身体はまるで投擲された石の如く、【土下座】の姿勢のままで真下に居たゴブリンライダーに叩き付けられた。俺の額は騎乗していたゴブリンの頭頂を捉えそのまま狼ごと押し潰し、下敷きとなった狼の魔物の身体に突き刺さった膝はその背骨を、肉を()し折った。


 ストンプ……まさに叩き付けて潰すという語意の通りに、俺の身体は一塊りの質量兵器となったワケだ。風魔法で加速してたから死ぬほど痛いけど!!



《ゴブリンライダー一体の脅威度をFに変更。対象の残りは三体です。攻撃を確認。脅威度判定:A。回転回避(ドッヂロール)



 一組のゴブリンライダーの無力化に成功するも、息継ぎの暇は与えないとばかりに告げられるアナウンス。俺の身体は勢いよく横に転倒し、そのまま素早く転がって潰したライダーから距離を取った。

 その際俺の視界は、今まで俺が居た所を通り過ぎる、狼の凶悪な顎と牙を映していた。



「ゴブブゥッ!!」

「ガルルルルッ!!」



 仲間が()られたことで殺意の増したゴブリンライダー達の声。俺の身体はその殺意に反応するかのように、地面を転がっていた状態から素早く起き上がる。



《孤立したゴブリンライダーを確認。土魔法並びに風魔法を起動。【スライディング土下座】の派生スキル【バレルロール土下座】をアクティブ。ライク・ア・シューティングスター》



 俺の身体から魔力が放出される。俺の眼が()ているのは、恐らくは転がって回避する時に攻撃を仕掛けてきた個体だ。

 そいつに向かって一気に駆け出し、加速する俺の身体。放出し解き放たれた魔法が、射程距離に入り発動する。



「ギャウッ!?」

「ゴブゥッ!!??」



 発動したのは土魔法の【土の壁(グランドウォール)】か? 孤立したゴブリンライダーの背後と左右を囲む形で土が隆起し、壁を形作り包囲する。

 しかし走る俺の身体はそれで止まるどころか更に加速――――ってちょっと待てまさか……ッ!?



《目標捕捉。【バレルロール土下座】、ヘッドオン……ナウ。ゴー・ユア・ヘッド》



 そのアナウンスと共に俺の足は力強く大地を蹴り、【スライディング土下座】の時のように目標へ向けて低空で跳躍する。しかしそこからさらに、風魔法が身体に纏われ加速された。

 加速する視界の中で俺が理解できたのは、俺の頭が壁に囲まれたゴブリンライダーに向けられたこと。そして風魔法の作用で身体が渦を巻くように回転し始め、尚且つその状態で【土下座】の姿勢を整えたこと――――


 ――――ドグシャアアアッッ!!!



「「ゴギャアアアアッッ!!??」」



 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!?? 何コレ超痛いッ!? 何なんだよコレはああああッ!?!?


 錐揉み回転しながら低空で飛ばされた俺の頭が、迎え撃った狼の顎を粉砕しそのまま騎乗するゴブリンの腹を穿ち、ヤツらの背後の壁に突き刺さった。


 いやふざけんなよ……!? 囲んだなら無理にこんな事しなくても魔法か剣で倒せばいいじゃないか!!? 何が【バレルロール土下座】だドチクショウが!! くそっ! コレ絶対狼の牙で頭切れてるからぁッ!?



《ゴブリンライダー一体の脅威度をFに変更。対象の残りは二体です。背後に回り込んだ個体を確認。脅威度判定:A。立体機動回避(パルクール)



 回転も突進も止まった俺は憤慨する。しかし同時に響くアナウンスにより、即座に俺の怒りは押し止められた。


 その声に俺が背後から急速接近する殺意に気付くよりも一瞬早く、俺の身体が強制的に動かされる。

 俺の足は地面を、そして今しがた俺自身が生み出した土の壁を次々と蹴り、壁を駆け上がったのだ。



「ゴブゥウッ!?」

「グルアアッ!?」



 壁を駆け登る俺の足下で、ゴブリンと狼の驚いたような声が重なる。

 〝飛んで火に入る夏の虫〟? ふと浮かんだ前世の記憶からの言葉。しかしまた格言か(ことわざ)かと訝しむ暇も無い。



《対象を捕捉。【ジャンピング土下座・ストンプ】をアクティブ。風魔法を起動》



 何故なら、アナウンスが無機質に、そして(どっちに対しても)無慈悲に次の〝技〟を選択していたからだ。

 俺の身体は壁を駆け上がった勢いそのままで宙へと舞い上がり、回転して体勢を整える。膝がたたまれ、俺の目は真下でちょうどこちらを見上げたゴブリンの目を映し出した。


 背中に、風の魔法が叩き付けられる――――



《【ジャンピング土下座・ストンプ】ヘッドオン。ゴー・ユア・ヘッド》



 ――――グシャアベキボキバキンッッ!!!


 額が、膝が、押し潰す両手が。直前に目を合わせたゴブリンを、それが乗る狼ごと叩き潰し圧し折る音が響く。


 ぐっうううおおあああがあああああッ!!?


 額は間違いなく割れている。手の平も擦り剥いてたり勢いよく叩き付けられたり、膝だってセルジオさん謹製の膝当てがあるからって衝撃までは殺しきれない。



《ゴブリンライダー一体の脅威度をFに変更。対象の残りは一体です》



 それでも身体は()()()()()。未曾有の戦闘用【土下座】三連発の痛みに、俺の意識は既に朦朧としかかっている。

 しかし霞む視界に残りの一組のゴブリンライダーの姿が映し出され、俺の身体は否応なしに臨戦態勢を取り始める。



《【ジャンピング土下座・ストンプ】をアクティブ。風魔法を起動》



 まるでスローモーションのようにこちらに駆けてくるゴブリンライダーを観ながら、頭に響くアナウンスを聞いていた。


 しかしそんな時――――



「サイラス様!!」



 聞き慣れた声が、彼女の声が耳に届いたと同時に、俺に向かって駆けるゴブリンの首が、横切った影に切り裂かれた。


 血飛沫を上げて狼の背から落ちるゴブリン。そして騎手の落下に戸惑ったのか、速度を緩めた狼の魔物だったが、続けざまに再び横切った影によって刺し貫かれ、断末魔の咆哮を上げた。



《ゴブリンライダー一体の脅威度をFに変更。対象のゴブリンライダー達の全滅を確認。状況終了。周囲に敵意は感知されませんでした。解析報告を終了します》



 そのアナウンスと共に身体に自由が戻り、俺は思わずその場に膝を突いた。



「サイラス様! ご無事ですか!?」



 最後の一組のゴブリンライダーを討伐した彼女――アンネロッテが、心配そうな顔で駆け寄ってくるのが見える。


 こうして激戦を終え、当初は俺がライダー達を引き付けている間にアンネが一組ずつ排除する作戦だったが、予定は大幅に変更され、俺が三組、そしてアンネが三組――最初に交戦していた二組も当然倒したんだろうな――を討伐したのだった。





 その後俺達は、俺が負った怪我がスキルによって癒されるのを待ってから、急ぎピマーンの街へと帰還した。

 証拠としてゴブリンライダー達の素材を剥ぎ取り、それを持って草原の脅威をハンターギルドに伝えるためだ。


 ギルドに駆け込んだ俺達は、草原でゴブリンライダー六組に襲われたこと、それは倒したがもっと大規模な群れや集落が作られている可能性を伝え、それによって最低限の義務は果たせたと思う。

 ギルドは早急な調査を約束してくれたし、本当に群れや集落が形成されているのなら、その対処はランクが上のベテランの仕事になると説明してくれた。


 ランクアップを目指すFランクの駆け出しの俺達の出番は、もはや無いだろう。

 しかし街の危機に関する貴重な情報提供を為したとして、予定されている調査で裏付けが取れれば、情報料として報奨金が出るかもしれないとのことだった。


 危険や脅威が無いに越したことはないが、不謹慎だがちょっと金は欲しいと思ってしまったのは内緒だ。

 そしてゴブリンではなくゴブリンライダーではあったものの、討伐した記録は俺達の実績と認められ、無事にEランクに昇格できたことも嬉しかったな。


 まあ、スキルのせいとはいえ無茶をした俺が、アンネと迎えに行ったニーナに怒られたことを除けば、おおむね良い結果に終わったんじゃないかな。

 今回の負傷は全てスキルによるものだし、スキルの恩恵で完治していたしな。


 とりあえず今日は非常に疲れたので、二人を連れてシャロンの店にでも繰り出して、美味い食事とヨーグルトを食べよう。


 二人の機嫌がそれで直ることを祈るばかり……だな。





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― 新着の感想 ―
[一言] いや、LIKE A shooting  star barrel rool土下座って… そのセンスを分けてください(笑)
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