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第十九話 草原の討伐依頼と【土下座】



『それじゃあニーナ、いい子で待っててくれよ?』


『うん! 何か面白いこと教えてもらったら、お兄ちゃんにも教えてあげるね!』


『楽しみにしてるよ。それじゃあバーバラ院長、ニーナのことをよろしく頼む』


『ええ、サイラス殿。どうか怪我などせぬように……』





 教会と孤児院の清掃依頼を完遂した次の日の朝。俺は早速、ランクアップのために討伐系の依頼を受けることにした。


 採取系の依頼はそこらのハンターには負けないほどにこなしてるし、奉仕系は教会の依頼でクリアしたから、あとは討伐系の依頼さえ受けてやり遂げれば、次のランクであるEランクへの昇格条件を満たせるからな。


 そしてEランクに上がりさえすれば、薬草類の豊富な通称〝木霊(こだま)の森〟への立ち入りが自由になる。

 安全な薬草採りのために危険な討伐依頼を受けるってのも、我ながら本末転倒な気もしないでもないんだけどな。



「アンネ、ここがこの街の初心者向けの狩り場の草原なのか? あんまりハンターの姿は見えないけどな」


「サイラス様。ギルドで聞いたところ、このピマーンの街のハンターのランク毎の分布は、Cランクの中堅が最も多いそうです」


「木霊の森のせいか?」


「その通りです。ランク制限のある危険地帯が近くにあるということで、必然的に中・高ランクのハンターが増えたようですね。あの森は魔物の数も多く、実入りも良いそうですから。その代わり獲物の取り合いが絶えないそうですが」


「競走について行ければランクは上がり、ついて行けないヤツは稼げずにこの街を去るってことか?」


「この草原だけではどうしても稼ぎが不満でしょうからね……」



 そんなアンネ……アンネロッテの説明を聞きながら改めて草原を見渡す。

 視界の届く限り緑、緑、緑の、草の大海原だ。街から比較的近い辺りは草は踏み倒されたり刈り込まれて短くはなっているが、遠くなるにつれて草の丈が伸びている気がする。


 草で視界が通らないから、魔物が潜むのにはもってこいな気がするな。あの辺を探索する時は充分に気を配らないとな。



「それで、ゴブリンか一角兎(ホーンラビット)を規定数以上仕留めれば良いんだったな?」


「はい。ゴブリンでしたら五匹以上、ホーンラビットでしたら十匹以上で依頼達成です。換金可能部位はゴブリンは魔石のみ。ホーンラビットは皮、肉、角、魔石ですね。討伐証明部位はゴブリンでしたら右耳、ホーンラビットは角を持ち帰る必要があります」


「どっちかに的を絞れれば良いんだがな。索敵は任せても大丈夫か?」


「お任せください。遭遇した場合はそのどちらも討伐すれば良いかと。常設依頼ですから数が足りずとも換金はしてくれますし、討伐数も記録に残りますから」


「それもそうだな。油断して怪我だけはしないようにして、あとは成り行きに任せよう。ニーナに心配を掛けないことを最優先にしないとな」


「承知しました」



 魔物と戦うのはディーコンの街でケナル草を摘みに行った時以来だな。

 あの時はホブゴブリンと取り巻きのゴブリン達が相手だったっけ。あの時に初めてユニークスキル【土下座】が派生して……うっ、思い出すと頭が痛くなるな……!


 と、とにかくだ! ニーナを独りぼっちにさせないためにも、堅実に、安全に魔物を狩って帰ろう!





 ◇





「サイラス様、後ろです!!」


「くっ!?」



 アンネの鋭い声に、身を前方に投げ出しながら振り返り、同時に短剣を振るう。短剣を握る手には何の手応えもなく、しかし相手を怯ませることには成功したようだ。

 俺はそのまま転がるようにしてソイツとの距離を取り、改めて敵対する相手を確認する。


 狼型の魔物に跨った、緑色の醜悪な小鬼。確かゴブリンライダーとか言ったか。



「サイラス様、マズイです。囲まれています」



 俺の背を守るように駆け寄ってきたアンネが、あまり聞きたくない情報を伝えてくる。



「数は? どれだけ居る?」


「二匹一組の気配が……六組です。恐らくは……」


「ゴブリンライダーの部隊か。確かに広い草原では理に適ってるな」



 遮蔽物の無い草原での狩り。そこでものを言うのは、やはり機動力だろう。ゴブリン種の中で知恵が回る個体は、稀にこのように乗り物になる魔物を調教し使役するとは聞いていたが……。



「ライダーだけで集団を作ることはまずありません。恐らくはコレらを支配する上位存在と、相応の規模の群れ……もしくは集落が在る可能性が高いです」


「おいおい、俺達は駆け出しのFランクだぞ? よりによって何で初の討伐依頼で、そんなのを引き当てちまうんだよ……!」


「おそらく、ですが……」



 アンネの推測では、ハンターの偏りが原因だろうとのことだ。

 このピマーンの街のハンターの分布は、その多くが危険地帯である〝木霊の森〟に集まっている。低いランクのハンターは街を出て居なくなり、結果駆け出し用のこの狩り場でゴブリン達が狩られることなく生き残り、群れを形成するに至ったのではないか、と。


 だとすると非常にマズイだろう。

 ハンターだって自分の食い扶持が懸かっているのだから、実入りが良い方を選ぶのは当然だ。しかしその結果ゴブリンの群れが出来、こんなライダーなんかでもない、ジェネラルやロード、キングなんて存在が出現してみろ。ハンターギルドの信用に関わってくるだろう。


 現状ハンター業(コレ)しか稼ぐアテが無い俺にとっても、ギルドの権威の失墜は好ましくない。

 ここは是が非でもこの場を切り抜けて、早急にギルドに報告し対応を迫らねばならないな。



「アンネ。ライダー相手に、お前なら何匹までなら勝てる?」


「そう……ですね。一対一ならば確実に。二対一だとややリスクは負いますが、勝てない程ではありません」


「決まりだな。俺がヤツらを引き付ける。ヤツらも狩り易そうな足の遅い俺から狙うだろうしな。お前はその間にヤツらを確実に倒していってくれ」


「それではサイラス様の危険が大き過ぎます! 承服できかね――――」


「アンネ!!」



 背を預け合い、俺達を囲むゴブリンライダー達を牽制しながら作戦を練る。

 俺の身を案じてくれているのは解ってはいるのだが、今はコイツらを倒すなり追い払うなりして、少しでも早く街に帰還して報告しないといけない。それを可能にできるのは、アンネの機動力と戦闘力だけだ。



「俺じゃヤツらの速度についていけない。だけど身を守るだけなら、魔法もあるしなんとかなる。俺を案ずるなら、確実に一組ずつ手早く倒して、数を減らしてくれ」


「ッ……! 分かりました。ですが約束してください。絶対に無茶をせず、冷静に防御に徹してください」


「ああ、もちろんだ。必ず無事に街へ……ニーナの元へ戻るぞ!」


「はい!」



 作戦が決まったのなら行動あるのみ。

 俺達がまず行ったのは、お互いを信じ守り合うのをやめることだった。

 俺がアンネから離れ駆け出すと、案の定与し易いと判断したのか、集団の殺意が俺に集中したのが分かった。


 相手は素早く、統率も取れている。ならば多少効果は落ちても、一発の威力は犠牲になるが手数を増やし、少しでも当てて馬脚(狼脚?)を乱す。

 目と鼻の先で振るわれる剣に比べれば、突進してくる獣の攻撃の方が防ぐのは容易いはず。あとは如何に連携を取らせないかが肝要になるはずだ。



「地よ弾けろ、我が敵を穿て――――【岩の礫弾(ロックバレット)】!」



 走りながら魔力を放出し、素早く詠唱して術式を構築する。俺に追いすがるライダー達に振り向きざまに、足止めと撹乱のために無数の石礫(いしつぶて)を撃ち放つ。



「ギャンッ!?」

「ガウッ!!?」

「ゴブァアッ!!」



 ヤツらが冷静さを失って連携を乱してくれればそれでいい。放った石くれがヤツらの余裕を剥ぎ取り、襲うのに躊躇してくれれば尚良いだろう。


 俺は畳み掛けるように次の魔法を構築する。



「逆巻け風よ、其は切り裂く刃なり――――【風の刃(ウィンドカッター)】!」



 発動が早く、風で出来ているため視認しづらい無数の刃を立て続けに放つ。【岩の礫弾(ロックバレット)】で多少は怯み、追跡の足を鈍らせていたゴブリンライダー達に、【風の刃(ウィンドカッター)】が襲い掛かる。



「ギャウゥッ!!」

「ガアッ!?」

「ギャンッ!?」



 よし、いける!

 決定打には程遠いが、それでもヤツらの攻め手を挫き、当初取れていた統率も乱れ始めている。

 視界の端の方ではアンネが高速で動き回り、二本の短剣でゴブリンライダーと斬り結んでいる姿もチラリと見えた。



「ホントに頼むぞ……! お前に懸かってるんだからな、アンネ……!」



 曲がり形にも主人なのに情けないことこの上ないが、人間はいきなり強くなれるものじゃない。

 幼少の頃から真面目に鍛練を重ねてきたアンネが強いのも、血筋に胡座を掻いて真面目に鍛えてこなかった俺が弱いのも、今は受け入れ、でき得る最大限の努力を。


 そう心に決めた時だ。俺の頭に、あの忌々しい無機質な声が響いたのだ。



《心からの嘆願を確認しました。ユニークスキル【土下座】をアクティベートします。敵意・害意・殺意を感知。状況レッド。戦闘用スキルを全て励起します。【(コンバット)(土下座)(プログラム)】をアクティベートします》



 頭の中に響くそのアナウンスは、かつてDランクという格上のハンターであるブロスとの決闘で発現した、()()を発動させる。


 一瞬呆気に取られた俺だったが、だがこの場面での発動は正直ありがたいと、即座に思い直す。【C・D・P】を発動させた俺は確かにあの時、格上でしかも魔法で強化されていたブロスを圧倒できたんだからな。

 〝藁にもすがる〟? ああ、上等だとも。未だ弱い俺の、そしてアンネの生存確率が少しでも上がるのなら、藁にだってスキルにだって、何にだってすがってみせる……!



《状況スキャン……。対象をゴブリンライダー四体に自動補正しました。脅威度判定:AA。【C・D・P】をレベル3に設定します。レディ――――》



 身体は例の如くスキルに支配され、放出し続けていた魔力が急速に練り上げられ、四肢を、身体を包み込んで巡り始める。

 複雑な強化や補助の術式が見る間に組み上げられ、身体の内側で力のうねりとなって、はち切れんばかりに膨れ上がる。


 俺は迫るゴブリンライダー達に向き直り、いつでも地を蹴れるようにやや前傾で構えを取った。



《――――ゴー・ユア・ヘッド》



 俺の身体が、弾き出される――――





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[良い点] 体……もたないのでは 集団先頭に不向きすぎる……
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