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第十五話 食事の前にうがい・手洗い・【土下座】

先週は更新できず申し訳ありません!

後書きにてお知らせがあります。



「…………!」


「なあ、いい加減機嫌を治してくれよアンネ」



 俺達は夕焼けに染まる空の下、ピマーンの街の大通りを三人並んで歩いていた。

 俺の右手は新しい服を着てご機嫌なニーナと繋がれており、そして左側には()()()()()()()()()()()()アンネロッテ……アンネがしずしずと歩いている。


 何故アンネが怒ってるのかというと、先程服を購入した店で、試着室で着替えをしているアンネのあられもない姿を、事故とはいえ俺が観てしまったからだ。


 必死に謝り、俺が持つユニークスキル【土下座】まで発動しての大騒ぎにまで発展してしまったため、俺はアンネが選んだ二着と、ニーナが選んだ二着の衣服を店主の初老の女性への詫びとして購入し、そそくさと店を後にしてきた。


 そんな新しい衣服を身に纏って街を歩くアンネなのだが、どうやら()()()()()()()()()()()()ようなのだ。


 従者として俺の斜め後ろを歩くのはいつものことなのだが、距離がいつもより二歩……いや、一歩半ほど遠い。

 顔を赤くして俯いて、試着の一着目とは違って薄いピンクの胸元の開いたブラウスを着て、これもやはり一着目よりも丈の短い、膝下丈の空色のスカートを揺らめかせて歩いている。


 ああ! そんなに握ったらせっかく買ったばかりのスカートにシワができてしまうぞ……!



「なあアンネ、悪かったって。たとえ事故でも、()()()()()()()()お前相手でも、あれは申し訳なかったと思ってるよ。頼むから許してくれよ……」


「…………うぅっ!」



 ……何やらさらに表情が険しくなった気がするが、何故だろうか……?

 やはり【土下座】しかないのか……? もう一度【土下座】をしなければ、俺の謝意は伝わらないのだろうか?

 先程は木の床だったから、もしかしたら石畳の通りでの【土下座】であれば、あるいは……。



「もー、違うよお兄ちゃん! アンネお姉ちゃんは怒ってるわけじゃなくて、おっぱいとおパンツを見られちゃって恥ずかしいだけだもんねー?」


「ちょ!? にににニーナッ!!??」



 俺の右手を放してアンネの後ろに回り込み、そう言って彼女の顔を見上げるように覗き込むニーナ。

 それに対して、ようやく口を開いたアンネはやけに狼狽えているようだが……そうだったのか? 怒っている訳ではないのか……?



「そうだったのか。いや、本当に悪かったなアンネ」


「サイラス様……。いえ、私こそいつまでも引きずってしまい、申し訳ありません……」



 ようやく俯いていた顔を上げ、そう返してくるアンネ。まだ若干頬は赤いようだが、確かに怒っている訳ではなさそうだった。



「許してもらえて良かったよ。そんなに恥ずかしかったんだな。小さな頃は一緒に風呂に入って、よく身体を隅々まで洗ってやったのに」


「ササササイラス様ッ!!?? あ、アレは子供の頃のお話で……」


「何も変わらないさ。今も昔も、成長しようがアンネは俺の()()()()のような存在だからな」


「ぐふぅ…………っ!?」



 うん? どうしたんだアンネ、また俯いてしまって?

 ニーナは今度はアンネと手を繋いで、空いた方の手で繋いだアンネの手をポンポンと叩いている。仲が良くて大変喜ばしいな。



「お兄ちゃんって……」


「ん? どうしたニーナ? 俺がどうかしたか?」


「知ーらないっ」



 何やら俺を除け者に、アンネとニーナの結束が固まっている気がする。「苦労してるんだね」だの、「一緒に頑張ろうね」だのとニーナがアンネに語り掛けているが、一体何のことだろうか……?


 夕陽が傾き程なくして夜になろうという頃に。

 俺達は通りに三つの影を伸ばしながら、ゆっくりと夜に向け様子を変えていく街並を眺めつつ、足を進めたのだった。





 ◇





 ガヤガヤとした店内。

 服屋でこさえた荷物を宿の部屋に置き、再び身軽になった俺達は、宿の主に教えてもらったオススメの食事処へと足を運んでいた。

 店内は仕事終わりなのだろうか、テーブルを囲い酒の入った木製ジョッキを打ち付け合い、思い思いの話題で盛り上がる街の住人達で賑わっていた。


 “飲んだくれのハンターがあまり居ない、料理の美味い店”という、ニーナのためとはいえ随分と自分勝手な注文にも関わらず宿の主が教えてくれたこの店は、多くは仕事帰りの住人達が贔屓にしている、地元民に寄り添う店のようだ。


 何故服屋で散財したのにまた飯屋なんかに、と思われるかもしれないが、仕方がなかったんだ。

 よく分からないが、俺の言葉で落ち込ませてしまったらしいアンネを元気付けるためだと、ニーナに説得されてしまったからな。


 流石は行商人家族の一人娘。10歳にしては巧みな話術に、「お姉ちゃん元気なくてかわいそう……」などと断り難いことを言われては、折れるしかなかったのだ。

 決して、今も脳裏に浮かんでいる“ロリコン”だとかいう、前世の記憶にある嗜好を持っている訳ではない。そう、決してだ。


 空いている席へ好きに座って良いと店員の娘に言われ、四人掛けの丸いテーブルに腰を落ち着ける。

 何だかんだ長い徒歩の旅で足腰は鍛えられているはずだが、なかなかどうして、こうして落ち着くと脚の疲れを実感するな。



「いらっしゃいま……ひッ!? 公子さまッ!!??」


「ん?」



 掛けられた声と物音に視線を動かすと、そこには10代後半から20代前半くらいの若い娘が尻餅を着いて、青い顔をして俺を見上げていた。



「(サイラス様。この娘、三年ほど以前にサイラス様の取り巻きに暴行を受けた者です。確か両親と共に領都から出たと、そう報告を聞いた記憶があります)」



 目を点にしていた俺に近付き、耳打ちで俺の過去の過ちを教えてくれるアンネ。


 そうか、俺の取り巻きが……。

 三年前と言えば俺が貴族学院を卒業した後の事か。卒業したばかりの頃は公爵家の権威に擦り寄る取り巻き共が、ひっきりなしに我が家に訪ねて来ていたっけな。

 俺も何度か、同輩達を引き連れて領都を散策し暴れていた記憶がある。


 俺自身が乱暴をした訳ではないはずだが、取り巻きを調子付かせたのは明らかに俺の罪だ。

 見たところこの女性は、店員として注文を取りに来てくれたんだろう。尻餅を着いたままで、周囲の街の住人達の好奇の目に晒し続けるのは、お互いあまりよろしくないな。



「食事の前に手を洗いたい。お嬢さん、共同井戸に案内してくれないか? なにぶん今日この街に着いたばかりで、地理に明るくないんだ」



 口に人差し指を当て身振りで騒がないよう釘を刺し、女性を助け起こすために手を伸ばす。

 肩に手が触れた瞬間、その肩は酷く震えていた。よほど酷い目に遭わせてしまったらしい。



「(何も酷いことはしないと“シャムール”の家名に誓う。人気の無い所で話がしたいだけなんだ。頼む、連れて行ってくれ)」



 そう小声で女性に伝えて、たどたどしく身体を起こすのを手伝う。

 アンネとニーナに先に注文して食事を始めるよう伝えてから、顔を真っ青にして俺の言葉に従う女性と共に店の勝手口へと向かう。



「店主、済まないが顔見知りなんだ。少しだけ彼女と話をさせてくれ」



 革袋の財布から金貨を一枚取り出し、気色ばんで立ち塞がろうとする店主に握らせる。

 ただ彼女を雇っているだけなのか、チップを握らせた店主はすぐに態度を改めて、厨房へと引き返していった。





 どうやらこの店のすぐ裏が共同井戸のある場所だったようで、勝手口から裏庭に出た俺達二人は井戸の幅ほどの距離を置いて、向かい合っていた。



「名前を訊いても良いか?」



 俺の言葉に肩を震わせる女性。店から漏れ出る明かりに照らされたその顔は酷く(こわ)ばっていて、血の気を失っているように見える。



「し、シャロン……です」


「そうか、シャロンというのか」



 記憶を手繰ってもやはりそのような名の女性には心当たりが無い。やはり俺が直接乱暴をした訳ではなさそうだ。


 だが、俺が取り巻き共を引き連れて領都で粗暴の限りを尽くしていたのは事実。

 その行為によって取り巻きの増長を招き、結果彼女は調子に乗ったそいつらのせいで酷い目に遭ったんだろう。ならば、それは間違いなく俺の罪なのだ。



「済まなかった」


「…………え……?」



 シャロンの動揺に揺れる瞳を真っ直ぐに見詰め、そう言葉を発する。その瞬間、俺の脳裏にはいつものアナウンスが響いた。



《心よりの誠意ある謝罪を確認しました。ユニークスキル【土下座】をアクティベートします。条件を満たしました。ユニークスキル【土下座】の熟練度が一定に達したため、サードスキル【土下連座】をアンロック並びにアクティベートします》



 服屋で発動した時とはまた違う文言のアナウンスに、いつもながら俺は困惑する。


 なんなんだよ、【土下座連】って……!?

 ここのところ戦闘用スキルのせいで完全に疑心暗鬼に陥っていた俺だが、いつもながら俺の身体はスキルによって支配され、その所作をなぞっていく。


 シャロンに向かい背筋を伸ばし、真っ直ぐに地面に膝を着く。水場ということもあり、辺り一面に敷き詰められた砂利が膝に刺さってとても痛い……ッ!

 そして両手を砂利の地面に着き、もはや諦めの境地で覚悟を決めた俺の、その額を振り下ろす――――



 ――――グシャアッ!!



 っぐ、ぁあああああああッ!! 細かい粒々がっ、砂利が額に刺さってるぅうううううッッ!!!


 慣れというのは恐ろしいもので、【土下座】を繰り返してきたことで、激痛に耐えながらも額の状態をしっかりと把握出来てしまってとても辛い!

 そんな俺の頭の中に、いつもの憎々しいアナウンスが響く。



《ユニークスキル【土下座】の効果波及を確認。対象:シャロンの困惑が29%、畏怖が46%上昇しました。敵意は感知されませんでした。謝意を伝えるには畏怖を取り除いてください》



 薬師のシガーニーさんの時と同じだ。俺という存在に対する恐怖と、未知なる【土下座】という行動への恐怖によって、俺の謝意が伝わり難くなっているんだな。

 そう考えながらも首から上が自由になったのを感じ取った俺は、顔を上げてシャロンの顔を見上げる。



「ぐ……ッ! こ、怖がらないでくれっ、これは謝罪なんだ」


「え……?」



 俺はシャロンに恐怖心を与えないよう、できるだけ優しい声を意識しながら語り掛ける。



「……粗暴に振る舞っていた俺のせいで、過去に侍っていた奴等を図に乗らせてしまった。そのせいで、君は酷い目に遭ったんだろう? 本当に、申し訳なかった」


「こ、公子さま……!?」



 シャロンの瞳を見詰めていると、なんとなくだが険というか、俺への悪感情が込もっていたのが薄らいだように感じる。しかしそんな時――――



《ユニークスキル【土下座】の効果の追加波及を確認。対象:シャロンの困惑が16%上昇、畏怖が10%低下。畏怖の低下率を上げるため、サードスキル【土下連座】シークエンスに移行します》



 ……は? だから何なんだ【土下連座】とは?


 訳が分からず困惑する俺に、アナウンスは無情で非情な宣言を続けた。



《【土下連座】発動中は謝罪の言葉を切らさないようにしてください。たとえ()()()()()()()()()()()



 嫌な予感しかしない。

 アナウンスと共に大体の字面はイメージできているし、【土下“連”座】なんだろう?


 ん? “偶に披露した”? “秘奥義の一つ”?

 待て待て前世の俺!? そもそもなんで【土下座】にこんなにバリエーションがあるんだよ!?

 “土下座衛門(ドゲザエモン)流中伝秘奥”……って、やかましいわ!!?


 まずいまずい!? ()()はある意味戦闘用【土下座】よりも酷い事になりそうな気がするっ!?


 そう思いながらも、俺の首から上……口以外の動きは、再びスキルによって支配された――――





いつもお読み下さり、誠にありがとうございます!


当作品


【社畜課長の俺が悪徳貴族に転生した件〜今まで虐げてきた民達に復讐されたくないので、ユニークスキル【土下座】を駆使して名誉回復と謝罪の旅に出る!〜】


ですが、この度【第九回ネット小説大賞】にエントリーし、なんと一次選考を突破いたしました!!


これも偏に、日頃応援して下さっている読者様方のおかげです!

本当にありがとうございます!


題材テーマに力量が追い付かず中々更新頻度を上げられないにも関わらず、このような快挙を成し遂げられましたのも、皆々様の温かな応援のおかげです!


心より感謝を申し上げます!!


まだ二次選考以降も残っておりますが、一先ずはこの快挙を皆様にお伝えしたく、こちらにてご報告させていただきました。


改めて、本当にありがとうございます!

まだまだ頑張って続きも書いて参りますので、どうぞこれからも、変わらぬ応援をよろしくお願い致します!!



2021年8月14日(土)

テケリ・リ

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[良い点] もはやいやな予感しかしない… [一言] 一次選考突破おめでとうございます!
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