出発
暗闇の中、まだ誰もいない街に、1つの動く灯りがあった。人が歩いてくる。カイムだった。背に、いつもは持っていないバックパックを背負っている。手に持った懐中電灯が道を照らす。灯りの届く距離に修理工場が入った。ガレージのシャッターは閉まっている。約束通り、まだ出発していないようだ。いや、それとも閉めて出て行ったのか。カイムは足の運びを速めた。扉を開けて中を確認する。自動車はまだあった。アリューもいる。電灯の光の中、最後の点検をしているようだ。
「あ、カイム、おはよう」
「おはよう」
「随分と早いね。出発までもう少しかかるよ」
「ああ、あまり遅くなると置いていかれるんじゃないかと思ってね」
「え?」
カイムの言葉をアリューは聞き咎めた。
「今なんて言ったの?」
「だから、俺も一緒に行くって言ってるんだよ」
カイムは持ってきた荷物を下ろすと、車の中を覗き込んだ。
「確か、ここに載せるスペースあったよな」
そんなカイムの背に、アリューの声が飛んだ。
「一緒に、行ってくれるの?」
「ん? 俺が一緒だと嫌か?」
「ううん! 嫌なんてことない!」
アリューは即座に否定した。
「だけど、カイムには家族がいるし。いつ帰ってこられるかなんてわからないし。いいの?」
「アリューだって俺の家族だよ。それに、親方に頼まれたからな」
「お祖父ちゃん、カイムに何か言ってたの?」
「ああ。『アリューを頼む』って」
「そんなの、気にする必要ないよ。カイムはカイムのやりたいことをやればいいのよ。私だってそうするんだから」
「俺はアリューのやることを助けたいんだよ。だから一緒に行く。それでいいだろ」
カイムはアリューを振り返って言った。その目は真剣だった。
「本当に、いいの?」
そう言うアリューの瞳は少し潤んでいるようだった。
「もう決めたんだ。お前と一緒に行くって」
「・・・ありがとう」
アリューの声は小さくなった。
「ん? 何か言ったか?」
アリューは目を拭うと、カイムを見た。
「ううん、なんでもない! そうと決まったら、早く出るわよ」
準備の残りを手早く済ませると、アリューはガレージのシャッターを開けにかかった。
「車はもういいのか?」
「うん、問題なし! いつでも出られるよ!」
「そうか。それじゃ行くか。みんなに気付かれる前に」
「うん!」