表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却の天井  作者: 夢乃
エピローグ ~帰還~
26/28

到着

 カイムが気付いた時には、すでに減速が始まっているようだった。隣でぐっすりと眠っているアリューに呼びかけると、ゆっくりと目を開いた。

「ふぁ、おはよ、もう出掛けるの?」

 寝惚けているようだ。彼女の脳内では、まだ天井の探索を続けているらしい。

「おはよう。もうそろそろ地上に到着しそうだぞ?」

「地上・・・あ、帰りのエレベーターの中だった。って、もう着くの?」

「身体にかかる力の感じだと。時間は?」

「待って」


 アリューはホロパッドを取ってパネルに触れた。

「あ、本当だ。あと1時間もかからないで着いちゃう。私、18時間以上も寝てたの?」

「俺もだよ。ついさっき起きたところだから」

「そっか。あーあ、外の様子、見逃しちゃったね」

「加減速中は席を立つなってルール、守る必要もないけどな。今から行ってみるか?」

「うーん、やめとく。安全に配慮してそのルールがあるんだろうし、ここで怪我してもつまらないし。それに、すぐに着いちゃうし」

「そうだな」


 残りの時間も過ぎ、エレベーターが止まった。はずだ。しかし、まだ力を感じる。重力だ。ここしばらく無重量状態の世界で過ごしていたから、どこか懐かしい。しかし、すぐに懐かしんでいるような状況ではないことに、2人は気付く。

「か、カイム、立てない」

「俺も、だ」

 しばらく重力という枷から解放された状態で過ごしていた2人に、地上の重力は余りにも強すぎた。慣れるまで、しばらく時間がかかりそうだ。

「それより、おしっこしたいんだけど」

 アリューが尿意を訴えた。

「え? おい、我慢しろ。俺が浄化槽を下ろすから」

「うん。早くして」


 カイムは椅子から立ち上がろうとして失敗し、仕方なく床を這いずるようにして、浄化槽を置いてあるアリューの隣の椅子に行く。椅子で身体を支えながら上体を持ち上げ、浄化槽を固定しているロープを外して何とか床に下ろすことに成功した。

 それをアリューの前まで引きずってゆく。

「アリュー、下、脱げそうか?」

「うん、やってる」

 アリューも何もしていなかったわけではなく、排尿のために下半身を裸にしようと悪戦苦闘していた。何とか尻が半分ほど覗くくらいには脱げているが、腰を持ち上げながら脱ぐことができないようだ。


「腰を少しで良いから持ち上げろ。俺が脱がすから」

「うん」

 肘掛に両手をついて、辛うじて腰を上げるアリュー。カイムは力を振り絞って服を脱がせた。

「やった。あ、まず、漏れそう」

「浄化槽に座るまで、頑張れ」


 2人の努力は実り、アリューは排泄物をなんとか浄化槽に流し込んだ。

「はぁ、良かった。水が減るとこだった」

「立てるくらいには回復しないと、街に帰るのもままならないな」

「うん。しばらくは体力回復だね」

 天井に向けて昇っている、ただ待つだけの2ヶ月間に比べれば、体力回復の期間など大したことはないだろう。2人はエレベーターの外に出られる時を心待ちに、しばらくその場で生活する準備を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ