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第2話 林道にて


 俺は街から出て西の方角にある林道を歩いている。


 蛇行した道に鬱蒼と茂った木々の枝葉が空を遮り、昼間だというのに薄暗い。

 この林道では見通しの悪さと薄暗さを利用して通行人を襲う野盗が出ると聞く。

 もし襲われたら道も狭いし一本道なので挟み撃ちを仕掛けられたら逃げ道は無い。

 仮に俺が野盗だったとしても、こんな絶好のロケーション、利用しない手はない。

 周りの物音には常に注意を払って歩かなければな。


 暫く歩いたが今のところ特に異常はない、このまま何事もなく林道を通り抜けられればいいのだが。

 前方から人が歩いてくる、見た目からはその背中に背負った大きな荷物から行商人と思われる、恐らくこれから俺が住んでいた街に商売に行くのだろう。


「やあ、こんにちは」


 行商人風の男が俺に挨拶してきた、満面の笑みを浮かべ、とても人の好さそうな顔をしている。


「ああ、これからあっちの町で商売かい?」


「いいえ、今すぐ商売を始めようかと……」


 そう言うが早いか行商人風の男が背中の荷物から肩越しに剣を抜き、俺に襲い掛かってきた。

 寸でのところで俺は男の剣を避ける。


「おや、中々の反応ですね……もしかして冒険者ですか?」


「まあそんなところだ」


「もしかして私の正体に気づいてましたか?」


「ああ、そのわざとらしいまでの張り付いた笑みを浮かべる奴を俺は信用していないんでね」


 俺も伊達に三百年以上生きてはいない、人を見る目や嘘を見抜く感覚は人並み以上だと自負している。

 そもそもこの野盗出没ポイントにあって見ず知らずの人間を警戒しないなんてナンセンスだ。


「そうですか、でもあなたはもう詰んでいるんですよ、後ろをごらんなさい」


「へっへっへ……」


 顔を僅かに横に向け後方に視線を移すと、前の男とは違いあからさまに悪党といった下卑た笑みを浮かべたいかにもな風体の男が二人、俺の退路を塞いでいた。


「その背負った荷物と有り金を全部置いていけ、そうすれば命だけは助けてやるよ」


 モヒカンでやせ過ぎの男がそう言いながらナイフに舌を這わせニタニタと笑う。

 見事にテンプレな追剥ぎの台詞だな……逆に今どき珍しい。


「何してんだお、早くしろお」


 もう一人はつるっぱげの太り過ぎの男が俺を急き立てる。


「やれやれ仕方ないな……」


 俺は背中のリュックの肩ひもを外し、荷物を下ろした。


「おや、随分と聞き訳が良いじゃないですか、まあ賢い選択だと思いますよ、命が惜しいのならね」


 どうせ抵抗しようがしまいが腕ずくで金品を奪い取っている輩だ、抵抗するなら武器を振るうために警戒と緊張をするのだろうが、大人しく金品をおいて抵抗の意思を示さないものに対しては僅かだが緊張が緩むはず。

 仕事においてある程度工程がパターン化すると、それが身体にしみついてしまうものなんだ。

 案の定三人は、特に後ろの二人は完全に油断をしているのが見て取れる、既に仕事が成功したと思い込んでいるのだ。


「そらよ、くれてやる!!」


 俺は地面に下したリュックの肩ひもを掴んで振り回し、思いきり太り過ぎの男の顔面目掛けて投げつけた。


「ブヒイイィ……!! いでぇ!!」


 突然の衝撃と激痛にその場に蹲る太り過ぎの男。

 何が起こったか分かっておらず立ち尽くすモヒカンに向かって俺は一気に詰め寄り、剣の柄の部分を男の鳩尾(みぞおち)に叩きこんだ。


「ごはぁっ……!!」


 白目を剥き泡を吐いてモヒカンは気絶した。


「さてと、あんたはどうする? このまま逃げるんだったら見逃してやってもいいぜ?」


 形勢逆転、さっき奴らが言ったようなことをこちらが投げかける。


「おっと、これは相手が悪かったようですね、いいでしょう……ここは大人しく引き下がるとしましょう」


 行商人風の男、恐らくこの野盗のリーダーと思われる男が剣を捨て両手を上げた。

 そして横歩きで俺に道を開けた。


「追っかけられても面倒だ、暫く茂みの中で反省しな」


 俺は男の尻を蹴飛ばし、下り坂になっている方へと吹っ飛ばした。


「ひょああああっ!!」


 さっきまでの落ち着いた態度はどこへやら、情けない悲鳴を上げて茂みの中を転がっていった。


「これに懲りたら野盗なんかから足を洗うんだな、あばよ」


 地べたにへたり倒れ込んでいるモヒカンと太っちょを指さし捨て台詞を残し、俺は駆け足でその場を離れた。

 逃げたのかって? いやこういう時は臆病なくらいが丁度いいんだよ。

 それからすぐに視界が開けていく……そう、やっと長い林道を抜けたのだ。


 一面の草原の向こう、前方に小さな村が見える。

 取り合えずそこで暫しの休息と情報収集に勤しもうと思う。

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