第十二話「幼なじみ達の協力?」
第十二話「幼なじみ達の協力?」
契約は無事に終わったけれど、夕食までまた、荷物の選別に追われたわたしだった。
キューレはふぃっと一声上げて、お婆様のお部屋へと走っていった。お父さんのグリュックに報告したいのかな、ちょっと誇らしげな感じで、これは……負けてられない。
「あーあ……」
今わたしは、多すぎる小物の候補について、頭を抱えていた。
何かとよく使うけれど重すぎる藁紙の束を減らすべきか、迷いに迷って結局そのままにしたり。
手提げ焜炉は本当にいるかなと、悩みに悩んで結局お茶の葉を追加したり。
大凡の荷物は出来上がってるけど、針道具ぐらいは持っていこうか、じゃあ端切れはどうしようかってなるわけだ。……あれがあるならこれも欲しいって感じで、困るお品が多い。
……いっそ、『魔晶石のかけら』亭の一部屋を借りて、思いついた物を全部持って行こうか悩むほどだ。
それよりも、倉庫を兼ねて貸家を一つ借りる方がいいかな。ルラックなら飛び込みでも借りられるだろうし、お金は余計に掛かるけれど、持てる在庫の量が段違いだから商いに幅が出せる。
借り賃も、宿代を月極で払うのと大差ないし……うん、貸家にしよう。
「ん?」
こんこんと扉が叩かれた。
「はーい、マリウス?」
流石に弟は、ノックの音で分かる。
「ごめん、姉さん。準備で忙しいと思うけど、大丈夫?」
「うん、どうぞー」
頭を掻き掻き、マリウスが入ってきた。
うちの弟も明日からはヴェルニエでお仕事だけど、準備はいいのかな?
ダンジョンに潜るよりは荷物も少なくて済むけれど、改築工事のお仕事は数週間の長丁場だと聞いている。
「どうかしたの?」
「ちょっと早いけど、今、僕の部屋にみんな集まってるんだ」
「え、もう!?」
外を見れば、もう日が傾きかけていた。
冒険者のマリウス達や朝が勝負のパン屋さんリーゼルはともかく、ギルドも仕事を終える時間だけど、みんな急いでくれたのかもしれない。
「ちょっと待っててね。すぐに支度するから」
「はいよ。……姉さん、使い魔、決めたんだって?」
「うん。名前はキューレだよ」
手鏡を取り出してわずかに髪を整え、服の埃を払う。
「お待たせ。マリウスも使い魔、欲しい?」
「微妙、かな。どうしても戦いが主体になるし、可愛がるだけなら今でも十分だからね」
それもそうだ。
いてくれると心強いけど、戦わせたいわけじゃないから、マリウスの言うことには頷ける。
「キューレの魔力、橙の上の方だったよ」
「……ちょっと考えそうになるなあ」
ふゅあ!
「キューレ、おかえり!」
廊下の途中、走り寄って来たキューレを抱き上げ、マリウスに紹介する。
「姉さんのこと、頼むよ。時々暴走するから、心配なんだ」
ふぃ!
……みんながキューレにわたしの事を頼むのはいいんだけど、揃いも揃って、なんで余計な一言を付け加えるんだろう?
「領内だから大丈夫だとは思うけど、ほんとに気を付けてね、姉さん」
「……うん」
マリウスの部屋には、幼馴染達とハルくんが待ってくれていた。
テーブルと椅子が追加で持ち込まれていて、部屋中に甘い香りが立ち込めている。
「あ、お嬢!」
「お邪魔してまーす!」
「いらっしゃい、みんな。それから、ありがと」
「なんのなんの!」
どれどれとテーブルを見やれば、手前のはポッドベリーのタルト、そっちは……堅焼きパンを砕いて二度焼きしたビスケットかな。上にクルミや干しぶどうが散らしてあった。
「これ、リーゼルが作ったの?」
「ヴィリも手伝ってくれたよ。……苦手なのに、それはもう、懸命に」
「リーゼル! 余計なことまで言わなくていいの!」
「ふふっ、ありがと、ヴィリ!」
お嬢の為のお茶会だからと、上座に座らされる。
お茶にもリーゼルお手製のジャムの他、普段遣いを躊躇うキルシュ酒の小瓶が添えられていた。匙で一、二杯入れるとおいしいんだよね。
「じゃあ、乾杯ってわけでもないけど……お嬢が無事に試練を乗り越えられますように」
「お嬢の知恵と工夫が輝きますように」
口々に言祝いでくれるみんなに合わせ、わたしも茶杯を掲げた。
「ね、お嬢。さっき、集まる前からお嬢の試練の話をしてたんだけどさ」
「うん」
何故かリーゼルは、わたしをびしっと指さした。
「四の五の言わず、エーベルハルトさんを雇おう!」
「え、なんで!?」
思わずハルくんの方を見ると、かなり真剣な表情で頷いていた。




