表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

第六話 ルンガ沖夜戦

一度完結としましたが、ほんの少しだけ、3話ほど続きを書いてみました。

---ガダルカナル島南西 重巡ヴィンセンス 艦橋


「まったく……キャラハンも面倒な事を頼んでくれる」


 そう零しながらノーマン・スコット少将は従兵から受けとったコーヒーを口にした。


 1942年(昭和十七年)8月14日深夜、彼は先週の敗北後に編成されたこの第64.4(TG 64.4)任務群を率いて再びガダルカナル島へと向かっていた。もちろん命令ではあるが同期の頼みとあっては断れない。


 艦隊は輪形陣を解き駆逐艦2隻を前衛に単縦陣を組んでいる。既にガダルカナル島のエスぺランス岬を回り込み、あと二時間ほどでルンガ泊地へ突入する地点に到達していた。


「もし敵が前回と同じくらいの戦力を出して来たら……少々厳しいですね」


 隣で同じくコーヒーを飲みながら参謀長が不安を口にした。


 艦隊は先日のサボ島沖海戦の生き残りに、高速輸送船(APD)と空母部隊の護衛から引き抜いた駆逐艦を加えて編成されている。重巡2隻、軽巡1隻、駆逐艦7隻、APD2隻と決して小さな戦力ではない。


 しかし今晩に限ってはAPDはもちろん駆逐艦のうち5隻は戦力として当てにできない。なぜなら、それらの艦はガダルカナルに取り残された海兵隊への補給物資を満載していたからだった。魚雷も降ろし甲板や通路には物資や短艇がひしめいている。戦闘をこなせない訳ではないが出来れば避けるに越した事は無かった。


「今のところ敵艦隊の発見報告は無い。そうだな?」


 スコットは暗い夜の海を見つめながら言った。先日の海戦の時と同じく既に月は沈んでいる。辺りは星と夜光虫の朧げな光しか無い。隠密作戦には都合の良い闇夜ではある。しかし今はそれも気休めにしかならない。


「はい。その通りです。司令部(ヌーメア)からの情報を信じれば、ですが……」


 参謀長が答えた。だが言葉とは裏腹に彼が疑問を持っている事がその表情から見て取れる。


「当然だが敵が居るものとして我々は行動する」


 窓から目を離すとスコットは参謀長に向き直った。


「はい。先日も突然敵の艦隊が現れました。今回も来る可能性は十分あると思います」


 スコット少将の視線を受け止め参謀長は固く頷く。


「だろうな。どういう訳か連中は夜の奇襲が得意らしい。まったく厭らしい奴らだ」


「今回は万全の状態です。前回の様なヘマはしません。仮にジャップが来ても今度は必ず先に見つけて逆に尻を蹴りあげてやります」


 二人の会話を聞いていた艦長のリーフコール大佐が会話に割り込んだ。確かにあの時は日本軍の空襲で誰も彼もが疲れていた。彼の言う様に今回は見張もレーダーも万全である。敵を見逃す事はないはずだ。


 だが、どうやってかは知らないが日本軍が連合軍の哨戒網を潜り抜け来襲したのは事実である。作戦説明の際にキャラハンは情報漏洩の可能性も仄めかしていた。


 リーフコールの自信ありげな言葉があっても、スコットは一抹の不安を感じずにはいられなかった。




---サボ島北方 重巡鳥海 艦橋


「とりあえず輸送船団にも現在位置での待機を命じました。導術情報によれば付近に敵潜水艦も航空機も居ません。当面は安全なはずです」


 大西参謀長の言葉に三川司令は頷く。


 この日、三川の艦隊は再びソロモンを目指していた。目的はツラギの奪還である。


 先日の戦闘で日本軍はガダルカナルに一万を超える敵兵が上陸している事を知った。これでは投入を予定していた600名足らずの海軍陸戦隊では手に負えない。常識的に考えれば奪回には師団規模の戦力投入が必要である。


 一方、ツラギ泊地の四島(ツラギ島、ガブツ島 タナンボゴ島、フロリダ島)にも7千程の敵兵が居たが、こちらは各島にそれぞれ二千程ずつ分散していた。これならば海軍陸戦隊に加え、ミッドウェー攻略のために用意されていた陸軍の一木支隊約2300名を加えた戦力で各個撃破できる。


 そこで敵の体制が整わない内にツラギの敵戦力排除と奪回の作戦が急遽発動された。本作戦ではガダルカナルに取り残された海軍設営隊の救出も併せて予定されている。


 しかし現在、鳥海と第六戦隊の重巡4隻は進撃をやめ洋上に停止していた。上陸部隊を運ぶ輸送船団とそれを護衛する第30駆逐隊の駆逐艦4隻も同様に停止している。


 その理由はブーゲンビル島から齎された長距離導術索敵情報だった。


 先日の海戦で導術索敵の有効性が立証された結果、ブーゲンビル島の南端、ブインを挟む様に二つの特設見張所(導探基地)が試験的に設置されていた。そのお蔭で艦隊の導術士は長距離索敵の任務から解放されている。


 二つの見張所は50km程離して設置されている。このため前回の海戦で鳥海と青葉で行った三角測量より遥かに精度良く敵の位置を特定できるようになっていた。


 その導探基地から先程、ガダルカナルに敵艦隊が迫っているとの報告が三川艦隊に齎されたのだった。


「敵戦力はおそらく巡洋艦3、駆逐艦9。位置はガダルカナルの南西10海里。およそ25ノットで北上しています」


「我々の作戦が気づかれたのでしょうか……」


 若い参謀が思わず不安を口にした。


「いや、それは無い」


 神先任参謀がそれを言下に否定する。そして鼻下の髭を一撫ですると大西と三川に向き直った。


「まず時間的に有り得ません。敵はおそらくヌーメアから来たはずです。あそこはガダルカナルから800海里、16ノットで進んでも二日以上かかる距離です。我々がラバウルを出るより先に出なければ計算が合いません。それに……」


 三川は無言で続きをうながす。


「敵の速度と陣形から見て、既に敵は戦闘態勢をとっております。我々が目標であるならば些か以上に距離が離れ過ぎています。つまり我々の阻止とは別の目的があるとみて良いでしょう」


「私も神君の意見に同意します。我々はまだ気付かれていません」


 大西の言葉で艦橋内にホッとした空気が流れた。だが敵艦隊は厳然と存在しガダルカナルへと向かって来ている。このままでは作戦の障害となる可能性があった。


「目標が我々でないならば、敵の目的は何だ?」


「おそらくガダルカナルへの補給が目的ではないかと愚考します」


 神は断言した。再び鼻下の髭をなでる。


「補給だと?」


「はい。先日我々は敵の輸送船を全て沈めました。派手に燃えた様ですから物資はほとんど揚陸出来ていないでしょう。ついでに地上砲撃も行いましたので、敵の陸上部隊は物資不足に陥っている可能性が高いと思われます」


「敵は輸送船を伴っていないが?」


「いかに米国といえども、あの規模の輸送船団を再び編制するには時間がかかるはずです。それまでの繋ぎが必要ですが島周辺の制海権を彼らは完全に握っていません。だから高速な駆逐艦で補給しようとしているのでしょう」


 まるで鼠の様にコソコソと、言って神は説明を締めくくった。その説明に三川は納得した様子だったが、彼は既に別の事を考えていた。


「なるほど。輸送が目的ならば敵は全力を発揮できない可能性が高いな」


 三川は幕僚達を見回した。顔に凄みのある笑みが浮かんでいる。


「はい。敵艦は恐らく物資を満載しているはずです。きっと戦闘どころでは無いでしょう」


 神も目をギラつかせて言った。そして彼らは新たな目標に向けた作戦を練り始めた。




---サボ島南方水道 重巡ヴィンセンス 艦橋


 二隻の駆逐艦、モンセンとヘルムを先頭に艦隊は水道へと侵入していった。今のところ敵艦隊発見の報告は無い。不審な電波も検知されていない。


 エスぺランス岬を回った所で艦隊は対潜警戒のため速度を12ノットに落とした。左手にサボ島を望みながら慎重に水道を進んで行く。


「敵の姿はありませんね。今の所は潜水艦の反応も無いようです」


「まだ安心できん。前回もいきなり連中は現れたからな。全艦に警戒を厳にする様に再度徹底しろ。どんな小さな事も見逃すな」


 目的地が近づき少々気を抜いた様子のリーフコールに、スコットは気を引き締める様に注意した。


 物資を満載しているとは言え、各艦が戦闘をこなせない訳ではない。積載している物資も高々15トン程である。これで1万人の将兵一日分の食料にあたるらしい。APD2隻と5隻の駆逐艦でちょうど一週間分の食料を運んでいる事になる。


 だが甲板に所狭しと可燃性の物資を置いてある状態で砲撃を受ければ酷い事になるのは火を見るより明らかだった。まして揚陸作業中に殴り込まれたら目も当てられない事になる。


 可能な限り戦闘は避けたい。スコットは祈るような気持ちで前方の暗い海を見つめた。そこへ不吉な報告が齎される。


「ヘルムより報告です。サボ島東方に微弱なレーダー反応を検知。距離12,000ヤード(約11km)。しかしすぐに反応は消えたとの事です」


「敵の艦隊でしょうか?」


 前方を警戒する駆逐艦からの報告に、艦橋内に緊張が走る。リーフコールが不安げに言った。


「何とも言えんな。単なるノイズかもしれん……いずれにしろ今まで以上に注意するしかない。各艦にはレーダーから目を離すなと改めて通達しろ」


 この時ヘルムのSCレーダーは確かに三川艦隊を探知していた。その性能限界に近い距離で、情報の読み取りにくいAスコープにも関わらず敵を発見したレーダー操作員の技量は称賛に値する。


 しかし彼の精励にも関わらず、その情報が生かされる事は無かった。



---重巡鳥海 艦橋


「敵先頭艦の警戒がーー少し上がりましたーー」


「……一旦敵から離れよう」


 扶美の報告を聞いた三川は、一瞬考えると指示を出した。


「取り舵」


 それを受け早川艦長が即座に転舵を命じる。


「とーりかーじー」


 操舵手が命令を復唱し舵輪を回した。鳥海の艦体が軋み音を立てながら右に傾斜し左に15度針路を変える。鳥海に続いて単縦陣を成す後続の艦も次々と針路を変えていく。


「敵艦隊の針路、速度に変化ありません」


「あ、敵の警戒がーー下がりましたーー」


 静子の落ち着いた声に続いて、扶美の気の抜けた様な声が艦橋に響いた。



「……やはり敵は電探を使っている様ですね」


 艦隊は現在、敵艦隊とおよそ13kmの距離を保って並進している。敵の警戒が上がらない事を確認した大西参謀長が言った。


挿絵(By みてみん)


「らしいな。あの位が敵の電探の探知距離か」


「はい。敵の警戒が上がった時の距離はおよそ11kmでした。そのくらいが限界なのでしょう」


 大西の言葉に三川も同意する。


「前回の海戦では発見されずにもっと近くまで寄れました。有効距離はもう少し短いのでしょう。あの時はスコールや島影の影響があったのかもしれません」


 神先任参謀もそれを補足する。


「しかし敵の動きに変化はありません。我々が離れると警戒を下げました。何か居るかもしれないとは思ったが確信は抱けなかったという事でしょう」


 大西が敵の判断について見解を述べた。


「成程。いずれにしろ敵の電探の性能が判ったのは僥倖だった」


「はい。それに今回判明した性能が本当なら、その探知外から本艦の魚雷でも雷撃可能です」


 第六戦隊の重巡は49ノットで2万mもの射程を誇る酸素魚雷を運用可能だが、近代化改装を受けていない鳥海は性能の劣る九○式魚雷しか運用できない。それでも雷速を35ノットに抑えれば1万5千mの射程を確保できた。


「敵艦隊。速度を落としました。陣形変更しています。島の奥から海岸へ多数の反応が出てきました」


「敵艦隊の警戒がーー再び上がりましたーー島の方は嬉しそうですーー」


 再び静子と扶美から報告があがった。どうやら敵はルンガの海岸に並行して輸送用の駆逐艦を並べ揚陸作業に取り掛かった様だった。その周囲を3隻の巡洋艦と2隻の駆逐艦で警戒しているらしい。荷受けするためだろうか、海岸にも多数の兵士が島の奥から出てきている様子だった。


「やはり敵の目的は補給の様です。今なら労せず一網打尽にできます!」


 再びの大戦果の予感に神が意気込む。


「よし。輸送部隊にはツラギに向けて進撃を再開する様に連絡しろ。我々は敵の補給部隊に雷撃を敢行する」


 三川の決断で艦隊は新たな襲撃運動に移った。



---ルンガ泊地 重巡ヴィンセンス 艦橋


 海岸線に平行に7隻の駆逐艦が並んでいる。中央に配置された2隻の高速輸送船(APD)からは大型上陸舟艇(LPCL)が降ろされている。


 駆逐艦の1隻を水道入口の警戒に残し、揚陸部隊の沖合を重巡2隻、軽巡1隻、駆逐艦1隻が警戒のため単縦陣でゆっくりと遊弋している。


「あと5時間か……」


 星明りしかない闇夜では何も見えないが、今頃は補給を待ちかねた兵士達が海岸に群がっている事だろう。重巡ヴィンセンスの艦橋から黒く沈むガダルカナル島の影を眺めながら、スコットはこれから揚陸に要するであろう時間を考え溜息をついた。


 臨時の輸送船代わりに連れてきた5隻の駆逐艦はそれぞれ15tの物資を積載している。これをLPCLでピストン輸送するのだが使えるLPCLはAPD2隻分の8艘しかない。


 1艘のLPCLには3t強の物資しか積めないため、全てを揚陸するには最低4回の往復が必要な計算となる。


 しかもデリックを持つAPDとは違い、通常の駆逐艦から物資を降ろすのは酷く手間がかかる。さらに先日の戦闘で沈められた輸送船がいたるところで海面からマストを覗かせているため海岸から随分と離れて停泊する必要があった。


 事前の計算では、どんなに急がせても一回の往復に1時間以上は要すると見られていた。つまりこれから5時間程はこの場に拘束される事になる。


 夜明けには日本の爆撃があるかもしれない。今の所、敵艦隊の存在は報告されていないが前回の例がある。油断はできない。何事もない事を祈りつつ、キリキリと痛む胃を抑えながらスコットはコーヒーを口にした。


 だがスコットの祈りは次の報告で無情にも打ち砕かれる事となる。


「モンセンより報告。3時方向、魚雷推進音多数!こちらへ向かってくるとの事です!」




---重巡鳥海 艦橋


「第一射の到達時間まで30秒。第二射到達まで4分」


 ストップウォッチを見つめながら水雷長が時間を読みあげる。


 三川の率いる重巡5隻は敵電探の探知距離外と思われる13kmの距離から魚雷を放っていた。第一射は第六戦隊から酸素魚雷のみ16本を遊弋する哨戒艦隊に向けて、第2射は転回反転後に鳥海もふくめ20本を揚陸作業中の駆逐艦に向けて発射している。


挿絵(By みてみん)


 どちらも入念な導術索敵情報を元に計画し、更には念を入れて艦隊速度を微速にまで落としている。つまり、ほぼ確実な命中が期待できた。特に的が停まっている第二射は外しようがない。


「敵の警戒がーー大きく上がりましたーーとっても慌ててますーー」


「敵の哨戒艦隊、増速。回避運動をはじめました。揚陸中の艦に動きはありません」


「どうやら連中もやっと気付いた様ですね」


 扶美と静子の報告を聞いた神がニヤリと笑う。


「その様だな。だがもう遅い」


 三川も頷く。運が良ければ哨戒艦隊の何隻かは魚雷を避けられるかもしれない。だが揚陸作業中の艦は無理だ。残り数分では停まっている艦は絶対に動き出せない。


「第一射、じかーん」


 水雷長の声が艦橋内に響く。しばらくして水平線に爆発の光がチカチカと点滅した。




---重巡ヴィンセンス 艦橋


「アストリア被雷しました!ホバートも被雷した模様!」


 くそっ!やはり奴らは居たか!十分以上に警戒していたはずなのに……スコットは激しい後悔と疑問を同時に抱いた。


「両艦に被害状況を確認しろ!揚陸作業中止!揚陸部隊は至急こちらに合流するように伝えろ!水路警戒のモンセンも呼び戻せ!」


 気を取り直して矢継ぎ早に指示を出しつつスコットは考えた。これほど多数の統制された雷撃は潜水艦では出来ない。敵は水上艦隊に間違いない。ぐずぐずしていると前回の様に連中は殴り込んでくるだろう。


「アストリアより報告、右舷に被雷2。ただし一本は不発。10ノット以上は発揮不可!」


「ホバートより連絡。右舷に二本被雷しました。機関停止。浸水と傾斜が酷く艦の維持は困難とのことです!」


 すぐに緊急回頭を命じたお蔭でヘルムとヴィンセンスはギリギリの所で魚雷を躱していた。しかし他の艦は幸運に恵まれなかった。特に最後尾で所属(HMAS)の違うホバートは指示が遅れたためか被害が大きい。


「ホバートには艦の放棄を認めると伝えろ。!アストリアはホバートの乗員を収容して退避!駆逐艦には本艦との合流を急がせろ」


 2隻の巡洋艦の戦闘力が失われてしまった。敵艦隊に対抗するには早急に輸送任務の駆逐艦を戦力に組み込む必要が有る。


「揚陸部隊の様子は?」


「現在、収容作業中です。あと10分は掛かるとの事です」


「LPCLと物資は放棄して構わん。とにかく移動を優先させろ!」


 海兵隊の兵士らには悪いがここは一旦退かせてもらおう。艦さえ無事ならまたすぐ来ることができる。そうスコットは前向きに考えようとした。だが直後に更なる悲報が齎される。


「ヘルムより報告。ルンガ泊地へ向かう多数の魚雷推進音を検知!」


「くそっ!連中はどれだけ魚雷をもっているんだ!揚陸部隊に知らせろ!次の目標は間違いなくお前らだ。さっさと動けと言え!」


 怒鳴る様に命じたスコットだったが彼は既に内心では諦観していた。おそらくもう退避は間に合わない。止まっている船などは良い的でしかない。7隻の駆逐艦は物資を満載したまま撃沈される事になるだろう。


 これから発生する損害を覚悟しつつスコットは疑問を持った。一体どこから奴らは現れた?


「やはり最初のレーダー反応は敵だったのか……?」


 仮にそうだったとしても更に疑問が残る。今回は敵の偵察機も舞っていない。奴らはどうやって我々を見つけた?どこから魚雷を撃ってきたのだ?


「レーダー、敵の反応は無いか?」


「ネガティブです」


「何も居ない?だと……?」


 レーダーのカタログ性能を信じるならば、仮に敵が小さな駆逐艦だとしても少なくとも10,000ヤード以内に敵は居ない事を示している。だが現に敵は存在し、今もこちらを攻撃してきている。


「我々は一体なにを相手にしているのだ……」


 蒸し暑い南国の熱帯夜にも関わらず、なぜかスコットは薄ら寒さを感じていた。




---重巡鳥海 艦橋


 再び水平線に爆発の光が連なった。


「揚陸作業中の敵駆逐艦すべてに魚雷命中を確認!」


「よし!」


 艦橋内に歓声があがった。


「これで敵の補給は頓挫したはずだ。導術、敵の様子は?」


「海岸の7つの反応は動かないまま薄まっています。哨戒艦隊の一つの反応が薄まりました。水道入口の小さな反応が哨戒艦隊に向かって移動を始めました」


「哨戒艦隊の一隻はーー苦しんでますーー」


 静子と扶美がいつも調子で報告する。その内容から、揚陸部隊の方は全ての艦で乗員の多くが死傷し脱出する程の被害を受けた事が読み取れた。哨戒艦隊の方も一隻が失われ一隻が被雷し、残存艦が集結しようとしている。


「艦隊はーー酷く混乱していますーー島の方はーーとても落胆していますーー」


「突撃しますか?」


 扶美の報告を聞いた神がギラついた目で三川に攻撃を進言した。だが三川はそれを即座に否定する。


「いや。止めておこう。偶然だが敵の意図は挫き十分な戦果も挙げた。我々は本来の任務に戻ろう」


 不満げな神は、なおも攻撃を主張した。


「なぜです司令?敵は損害を受け混乱しています。殲滅の好機です!」


「小官も追撃は止めた方がよいと判断します」


 神とは逆に大西は攻撃に反対した。そして三川に向きなおって確認する様に理由を述べた。


「前回は敵が味方と誤認したのにも助けられました。今回その様な幸運はないでしょう。彼我の距離もまだ随分と開いています。我々が接近するまでに混乱を鎮め艦を集結するに十分な時間があります」


 しかし、と反論しようとする神を三川は手で抑えた。それを確認して大西は説明を続けた。


「もちろん戦えば勝利は間違いありませんが、こちらも相応の損害を覚悟する必要が有ります。それに、これからルンガで一合戦すればツラギを攻める時間が無くなります。設営隊の救出にも支障がでるでしょう。ここは速やかに本来の作戦目的に戻るべきです」


 三川は頷くと神を見た。神も不承不承ながら頷く。


「参謀長の意見の通りだ。今回は陸さんも居るから迷惑は掛けられん。我々はツラギ奪還任務に復帰する。導術、ツラギ方面に敵は居ないな?」


「はい。島内の敵以外、周辺に敵はおりません」


 静子が即答する。


「よし。第30駆逐隊に連絡。当初の予定どおり輸送船団を離れタイボ岬に向かい設営隊の救出にあたれ。我々はツラギに赴き上陸支援を行う」


 こうして三川艦隊は右往左往する米艦隊を尻目にルンガ沖から悠々と立ち去っていった。


挿絵(By みてみん)

史実ルンガ沖夜戦の敵味方逆転パターンです。今回でSCレーダーの実力は知りましたが、既に配備の始まっているSGレーダーが相手だと導術を用いても厳しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ