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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

少女漫画の王子様は最低男でした。私がヒロインを守ります。

作者: みよよ〜ん

 少女漫画の悪役令嬢にもなれない小物に転生した。

 そう気づいたのは昨日のことだった。


 高校入学から二年間ずっとしてきた片思いだったけど、一気に冷めた。冷めざるを得なかった。

 これからふられるとわかっていて好きでいられるほど私は強くない。

 それでも昨日は一晩泣き続けた。だって本気で好きだったから。


 一日経って、今日はもう平常営業だ。

 泣き腫らした目で登校したから友達に心配かけちゃったけど、その腫れももうひいている。


 おっと、廊下が妙にざわついてきた。

 二年もの間ファンという名のストーカーを続けてきたからわかる。

 これは王子様の登場だ。

 案の定、廊下の向こうから少女漫画の王子様兼私の元好きな人が黄色い声を連れて歩いてきた。


 昨日までの私なら勇んでその黄色い声に加わっていた。

 少しでも目立とう少しでも近づこう。そう思って必死だった。


 でもそれはもうやめだ。

 絶対に彼を見ないことを誓い、目を伏せる。

 見るなよ私。イケメンオーラで石になるぞ。


 目を伏せたまま動かない私の横を彼が通っていく。

 二年間私なりにずっと努力してきた恋だったけど、彼からすれば私は道端の石ころ同然。

 石ころを気にして歩く人なんていないよね。

 彼はそのまま通り過ぎた。


 ……と、思ったのに。


 ドン


「……え?」


 王子様のような甘く整った顔立ち。その口元は優しげに弧を描いているけど、瞳は冷たく光っている。

 背も高くて手も綺麗で――ってそうじゃない!


 王子様の右手は私の顔の横で壁に手をついている。

 王子様の左手は私の顎を持ち上げている。

 王子様の顔は私のすぐ近くに。


 これはこれはこれはこれは、壁ドン!?


杏子あんず


 王子様がその美しい唇から私の名前を紡ぐ。

 あああああ、やめてください! お唇が汚れます!!


「玲……くん」


 離れよう忘れようと決めていたのに、その意志に反して私も自分的一番可愛い顔で彼の呼びかけに応えた。


 私の意志なんて所詮そんなもんさ。

 それよりもそれよりも、この状況はもしかして……。

 王子様、私が好きなの?


 あ、いや、そんなわけないよね!

 さぁ私よ今までの黒歴史を思い出せ。

 入学当時ちょっと可愛いなんて言われて調子に乗った私は、王子様の相手は私しかいないなんて思い上がって早速告白しに行った。

 するとどうだろう、なんと先客がいたのだ。

 私と同じことを考える人なんてたくさんいた。


 そうだ、私はいつもみんなと一緒。

 少女漫画でも群衆としてしか描かれなかったモブ子。

 だからだから王子様が私のことを好きなんてそんなこと――


 ちゅっ


 王子様の柔らかい唇が小さなリップ音をたてて離れた。

 私、フリーズ。頭の中真っ白。

 王子様は一層笑みを深めてにこぉっと笑っている。


「杏子があんまりにも可愛いからキスしちゃった」


 ですよねですよね! 今キスしましたよね!

 しかも口に!!!!!


 こ、ここ、こここここれは信じてもいいの?

 自分で言うのもなんだけど、私けっこう思い込み激しい系女子だよ?

 友達の間では若干痛い子扱いされてるよ?


「れ、玲くん、私が好きなの?」


 勇気を出して聞いてみる。

 いやわかってるんだよ。王子様の相手はお姫様。私はせいぜい敵国の農民。

 でもでもでも、もしかしたらワンチャンス……あるかも?


 しかし王子様は笑みを崩さないままにこう言った。


「え? 好きじゃないけど」


 あ……ですよね。

 すいません、ないない言いながら実はちょっと期待してました。

 自分の気持ちに正直になれなかったけど本当は前からお前が展開、来ると思ってました。


 でもさぁ、それならなんでキスしたの?

 私ファーストキスだったのに。ファーストキスだったのに。


「俺は自分が拒むのはいいけど人に去られるのはやなの。だから杏子、これからも俺の傍にいろよ?」


 ……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。


 そのときの私はかの有名な貞子も土下座で逃げ出すようなえげつない顔をしていたらしい。(友人後日談)

 そう言えば少女漫画のヒロインも初めこいつのことを嫌がって離れようとしていた。だから追いかけたのか。


 悲しみとか悔しさとか全部吹っ飛んでとにかく怒りMAX。

 勢いに任せて足を蹴り上げ王子様(笑)の股間に直撃!


 逃げようとする女の子を壁ドンで追い詰めるって少女漫画でよくあるシチュエーションじゃない?

 私いつも思ってたんだよね。こうすれば逃げられるのにって。


「ぐ……っ」


 股間を押さえてうずくまるという王子様にあるまじき醜態を晒したところを鼻で笑ってやる。


「誰があんたみたいなキモ男の傍にいるか。一回お母さんの腹の中戻って性根叩き直して来い!」


 私がそう言うと、どこからともなく拍手が起こった。

 怒りの余り気づかなかったけどどうやらかなり注目されていたみたいだ。

 何となく気恥ずかしくてえへへと愛想笑いしておく。


 さて、あと一ヶ月もすればヒロインが転校してくる。ふわふわっていう形容詞がぴったりな優しくて可愛い子だ。

 大丈夫、こんな野郎からは私が守ってあげるからね。






 ……そして一ヶ月後、私は大いなる間違いに気づく。

 この世界が少女漫画は少女漫画でも百合少女漫画。つまりガールズラブな世界だったことに。


「杏子様あああああ!」

「いや、ちょっと、来ない……あああああ(絶望)」


 少女漫画の、ヒーローのお話。


とてつもなくくだらないお話を最後まで読んでいただきありがとうございました!笑

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