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ヘタレ女の料理帖  作者: 津崎鈴子
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眠り姫が目覚めたあとに1

 あいちゃんの両親が乗り込んできたけど謝罪とは程遠い状況に、一同が一触即発の空気を醸し出していたその時。かすかにそれを諫める声がした。


 一斉にみんながベッドを見る。かすかに目を開けたエミさんが泣いていた。


 それからあとはすごく慌ただしかった。


 ナースコールで看護師さんを呼び、そのあと先生がやってきた。

 その間に個室の中は人口密度がすごすぎて、とにかくあいちゃん一家にはお引き取り頂いた。

 あいちゃんの母親は涙ながらによかった人殺しにならなくて済んだと口に出したら、あいちゃんの父親がぶん殴って襟首捕まえて出て行った。弁護士もでは日を改めます、とさっさと出ていく。


 主治医の見解ではここまで早く目が覚めるとは予想外だったといっている。奇跡だって。



 ☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・


 あれから3日くらいで一般病棟に移り、いろんな人がお見舞いに来てくれている。

 その間、ヨーコさんはエミさんのお世話を誰にも譲らないでびったり引っ付いている。


「ヨウちゃんありがとうね。でもちょっとくらい休みなさいよ」


 ようやく身体を起こせるまでになったエミさんに言われても、自分を曲げないヨーコさんは

 頑固者だ。


「エミさんが辛い時に、傍にいたい。私が辛かった時に傍にいてくれたんだもん」

「ヨウちゃん……私が勝手にお節介しただけなんだから恩に感じなくていいって何度も言ってるのに」


と、頑固なヨーコさんにため息をついている。


「ヨウちゃん、実はね私、目が覚める前に懐かしい人の夢を見たのよ」


エミさんは、静かに語り始めた。


その夢は、広々とした空間にだだっ広い花畑が広がっていて、あたり一面枯れているものがないくらいの見事なお手入れっぷりだったらしい。しばらく歩いていると、横たわる広い川があり、エミさんも渡ろうとしたらしい。すると、向う岸で知っている男の人が声をかけてきたんだって。


あまりにも懐かしくて涙が出てきたって。

その人は、エミさんの知っている青年の姿をしていて、必死にこっちに来るにはまだ早いでしょって追い返そうとするらしい。まだあなたは必要とされてるでしょう?ヨウを見守ってほしい、まだまだ子供だから助けてやってくれって頼まれた。もう少ししたら必ず会えるから、だから今回は戻ってやってくれ、と頼まれたのだそうだ。


「え?それってまさか……」

ヨーコさんがものすごく動揺している。


「ええ。ヨウちゃんのお爺様よ」

「ジイちゃん…………ありがとう、エミさんを返してくれて」


ヨーコさんのおじいさんが、エミさんを目覚めさせることのできる人だったのか。



☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・


 術後の経過も順調で、ベッド上での生活が長く続いたものだから、エミさんの足腰の筋力がずいぶん落ちてしまっているらしい。通院で様子を見てるところまで回復したからようやく家に戻れるようになるっていう話だ。


エミさんにべったりだったヨーコさんも、仕事を他人にまかせっきりというのも問題があるってことで一旦家に帰ることにしたのだそうだ。


「あんた、ちゃんと面倒見るんだよ?!いいね」


最後まで辛口で、ヨーコさんは去っていった。


しばらくは、エミさんに会いに近所の人や知り合いが会いに来てくれた。エミさんはすぐに疲れてしまうのでそれを察知して長い時間居る人は少なかったけど。


私は、エミさんが回復するまでしばらくは食事や家事を一手に引き受けることになった。


今までは食事の支度は大方エミさんがしてくれていたので、エミさんほどの食事は作れないかもしれないけど、エミさんの体に優しい食事を作らなくちゃ。


 商店街のおばあちゃんたちに献立の相談をすると、食欲がない時はさっぱりしたものがいいねぇとアドバイスをくれた。消化に良くてさっぱりしたもの。

そろそろ蒸し暑い日が続くから、水分の補給と共に塩分もしっかりとらせないとダメだよとおばあちゃんたちは教えてくれた。さすが主婦歴何十年の大ベテランたち。頼りになります。


エミさんに、何か食べたいものある?って聞いたら茶粥が食べたいって言われた。


茶粥かぁ。ええっと、ネットで調べると、ほうじ茶のパックと塩を少し入れて炊飯器で炊くといいらしい。

ほうじ茶で炊くから茶粥かぁ。どんなんだろう。


おかゆモードで炊いた茶粥は、本当に茶色だった。ただ、すごくさっぱりしていておいしかった。

白いおかゆとはまた違った味だなぁと思う。

エミさんは、おかゆを食べながら、これは遠い昔に初めて友達に作ってもらった思い出の味なのよ。

と何か遠い眼をしていた。


きっと、ヨーコさんのおじいさんとの思い出の味だったのかもしれない。

素敵な思い出の味ってこんなに人を幸せな顔にしてくれるんだなと思った。



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