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ヘタレ女の料理帖  作者: 津崎鈴子
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あなたが寝てる間に4

密度の濃い一日の終わりに、マサキさんと家に帰り着くと、そこには家の中を覗き込む人影があった。

また、あいちゃんがらみの突撃かと不安がっていると、マサキさんの知り合いのようで、呼びかけていた。

その人影は、じっとマサキさんを凝視し、駆け寄ってきた。


「マサキ君!!エミさん、どうしてるの?!どうなったの?!」


マサキさんがヨーコさん、と呼んだ女性は涙ながらにいう。


黒いハイネックの上着に濃い目のデニムを来たその人は、マサキさんと同じくらいの年に見える。

髪をアップにしているのに、余程取り乱していたのか髪が乱れている。


「今、入院している。実は、ヨーコさんを探していたんだ。エミさんの事で聞きたいことがある」

マサキさん、淡々と説明する。


この人がずっと一緒に暮らしていた家政婦さんなのかなぁ。


「あの?上がってお茶でもいかがですか」

私が提案すると、ヨーコさん、私の存在に初めて気が付いたようで不自然に顔を向ける。


「アンタ、誰?」


先ほどの弱弱しいイメージとは違い、なんか、臨戦態勢に瞬時に切り替わった。

危険だ。超危険だ。私の中でアラームが鳴る。声までドスが効いてる気がする。


「ヨーコさん、彼女はエミさんの親戚だよ。今一緒に住んでるユキちゃん」


マサキさんのひと言で、え?と驚く。

「エミさんの親戚?!一緒に住んでる!!!!」


その一言にひっくり返りそうな勢いだった。

とりあえず、マサキさんも一緒に家に上がってもらう事にした。

応接間に通してお茶を出そうと台所に行こうとすると、ヨーコさんもついてきた。


「お茶入れるの手伝うわ」


いや、お茶位私入れますけど。突っ込もうとしたけど、なんか断れないオーラが出ていた。

ヨーコさん、茶筒の場所も、湯飲みの場所も判っていてやかんにお湯を沸かしながら急須の準備を始めていた。手際が良すぎる。流れるような動作がエミさんを彷彿とさせる。


やかんに熱湯を沸かすと、湯飲みにそれぞれお湯を入れて、茶葉を入れた急須に湯飲みに入れたお湯を注いだ。少しだけ蒸らしてお茶を少しづついれた。


そして、お盆に湯飲みを乗せて応接間に行くとそれぞれの前に湯飲みを置く。

その手つきも流れるような所作だった。


そして、ヨーコさんの入れてくれたお茶は、まろやかで美味しかった。こだわると日本茶でも美味しく入れられるんだ!と感動するほどの味わいだった。


私のその様子に、ヨーコさん勝ち誇ったように鼻で笑う。


「で、エミさん襲った犯人は? とっつかまえてぶっ殺してやる!!!」


ヨーコさん、過激だなぁ。でもそれだけエミさんの事を大切に思ってくれているんだってことが伝わってくる。


「犯人は一応捕まって警察にいるよ」

「拘留期限はいつ切れるの?」

なんか、目が座ってます、ヨーコさん。本当のこと言ったら大変なことになる予感しかしない。


「落ち着いて、ヨーコさん。エミさんはそんなこと望む人か良く考えて。意識が戻った時に雷が落ちるよ」


マサキさんのひとことにヨーコさんしょんぼりする。美人はそんな姿さえ見とれるほどに魅力的だ。


「エミさん、まだ意識が戻らないんです。ヨーコさん、エミさんが声を聞いたら思わず目覚める人に心当たり有りませんか?」


そう、ヨーコさんに声をかけるが、反応がない。


「ヨーコさん、一緒に長年暮らしてきて、そういう人の存在聞いたことない?お願い思い出して」


マサキさんが同じことを聞くと、ヨーコさんすごく悩んでいう。え。ヨーコさんわかりやすいなぁ。

あからさまに無視されてる?私。


「エミさんが思わず目覚めるくらいのインパクトのある人間ってこと?」


「そう。ヨーコさんならわかるかなって思ったんだよ」

マサキさんの言葉に、まんざらでもないヨーコさん。


「ひとり心当たりがあるけどねぇ」


もったいぶるなぁ。


「誰?どんな人?」

マサキさん、ヨーコさんに食い気味に聞く。


「うーん。昔なじみらしいけど、ひとりいる。でも会わせるのは無理だと思うよ」


「何とか説得できないかなぁ。紹介してくれない?」


「説得とかそういう次元じゃないんだよね」


それからしばらく、ヨーコさんは悩み続け、そして、思い切って告げる。


「もう、墓の下にいるから」


エミさんの目覚めさせることが出来る人はもういないの?目の前が真っ暗になった。


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