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ヘタレ女の料理帖  作者: 津崎鈴子
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未知との遭遇

 大きな石の踏み台?をあがり、目の前には、とんち小坊主のお話に出てきそうな

屏風が立っている。

確か、大おばさんって、海外飛び回っていたって聞いたから、てっきり

洋風の家って想像していたけど、いざ来てみるとザ・和風な内装に驚く。


ただ、大おばさんの来ている服はブラウスに丈の長いスカートで姿勢がいいから

すごく若々しく見える。


「荷物はそれだけ? まぁ、奥の部屋が空いているからそこを使ってくれたらいいよ」

廊下を進んでいき、角を曲がった奥の部屋のふすまを指した。


ふすまを開けると、明るい日が差し込んでいる、6畳くらいの部屋に押入れもついている。


「荷物を置いたらお勝手においで。お茶でも飲もう」


お勝手???と聞きなれない言葉が出てきた。


「あの?大おばさん、お勝手ってなんですか?」

と、聞いてみると、逆に不思議そうな顔で教えてくれた。


「なんだ、今どきの若いのはお勝手も知らないの。台所のことだよ、キッチン」


「すみません。聞きなれなかったものだから」


「ああ、それから。私のことはエミさんって呼んでちょうだい。

大おばさんなんて呼ばれたら、ババ臭くてかなわないわ」


と、豪快に笑って戻っていった。


いや、おばあちゃんの妹だから十分おばあちゃんだよなぁと内心で突っ込んだ。


荷物を置いて、コートを脱ぎ、さっそく台所へお邪魔する。


年季の入ったテーブルに、真っ白なレースのテーブルセンター。その上の籐のかごには

みかんがいくつかとバナナとリンゴが入っている。なんか、どっかの美術の教科書にありそうな

風景だ。


「あ、遠いところご苦労さんだったね。今日からよろしく。あ、これがユキちゃんの湯飲み」


大おばさん、もといエミさんがそっと差し出してくれたのは小ぶりな桃色の湯飲み。

すごく上品だ。


「あ、有難うございます」

椅子に座ると、その湯飲みにゆっくりとお茶を注いでくれた。


ちょっと外がひんやりしていたから、暖かいお茶がうれしい。

そう思ってひとくちいただくと、なんか違和感が……。


あれ? これ、だし汁じゃね? いや、おいしいけど、お茶じゃないよね。


「あの、オイシイデスネ」


なんか、不思議そうな顔で飲んでいると、エミさんはにっこり笑って和菓子を出してくれる。


「玉露は口に合った? これは、ごひいきの和菓子屋の練り切りだよ、どうぞ」


え?このだし汁みたいなのが玉露なの?!名前だけは聞いたことあったけど実物は飲んだことなかった。

軽い衝撃のあと、出された和菓子を見る。水色の川を模した餡に、

赤い魚のようなものが浮かび、キラキラと透き通った寒天で覆われて

すごくきれいなデザインに思わず見とれる。


その様子を見てエミさんも、どや顔で話を始める。


「日本の和菓子は、芸術的ですごく気に入ってるんだよ」


そのあと、細かい取り決めを聞かされた。なんかシェアハウスっていうのに入ったら

こんな感じの規則かな、というある程度のお互いの領域を守る取り決めで、

門限も、9時以降に帰るなら連絡してくる事と、鍵を渡された。


私に頼みたいことっていうのは、住宅街か離れた商店街への買い物についていく事と

体調が悪い時や雨の時にお使いに行ってくれることとのこと。


家具は、好きなのを揃えたらいいよと言ってくれたのでさっそく明日にでも買い物に

行って来よう。


 その日の晩御飯は、ちらし寿司にお吸い物、煮物にから揚げと和風なおもてなしだった。

おばあちゃんの作るちらし寿司と、少し味が違うけど、優しい味がした。


 夕飯に出てきたお茶は、普通の緑茶で、ついおいしいと口に出たら

エミさんは、ユキちゃんの口は安上がりだねと笑っていた。







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