波の行く先1
テルが倒れてうわごとで私を呼んでいる。
別れてから会うこともなく数か月。選んだはずの花嫁のお腹の中には違う男の子供がいた。
生真面目なテルは、テルなりに頑張ったんだろうけど、結果がこれか。
私自身も、何かに打ちのめされた感じがする。
何も考えられない。どうしたらいいのかさえ、自分の気持ちが見えてこない。
「ユキ、大丈夫?」
アヤが心配そうに声をかけてくる。
「ごめん。なんか、心のどこかでこんなことになるんじゃないかって思ってた自分もいるけど
私自身がどうしたいかなんてあんまり考えられなくて。…………頭真っ白で」
そう心の内を言葉に出すと、なぜだろう、涙がとめどなくこぼれていた。
「ユキちゃん。ひっかきまわされたんだもんね、辛いよね」
クミちゃんも目がうるんでいる。
いや、そうじゃないんだよ。この、何とも言えないほんの数か月の出来事が今感情で押し寄せているの。
悲しいとか、辛かったとかじゃなくて、もちろんそれもあるかもしれないけど、それだけじゃない感情が私を揺さぶってる。
「ユキ、会いに行くなら付いていくよ」
アヤの思いやりの言葉も、今は耳から抜けていく。
別に会いたいとかそんなんじゃないんだけど、会ってどうしたいかわからない。
今、情緒不安定だから、傷ついたテルにあら塩を揉み込むような罵倒をしてしまうかもしれない。
それに。一度壊れた関係を戻したいわけじゃない。
一方的に私を切り捨てたのはテルの方。もう私が何かできる、否してあげたいこともない。
色んな感情がないまぜに襲ってくる。ただ、言えるのは元さやだけはありえないって現実だけ。
テルの中の私が、いつまでも変わらなく現実にい居るって思っているなら甘いわ。
テルに優しかった私を打ち壊したのはテル自身なんだから。
新しい私は、今、この街で作り上げられた。いろんな人の助けを借りて。
「心配しなくても大丈夫よ、アヤ、クミちゃん。ありがとう」
なんか、やっと終わった。 私の中で踏ん切りがつけられた気がした。
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涙が少し収まって、このことをマサキさんとタカシさんに報告しとこう、ということになった。
しばらくして時間を空けてくれたふたりが喫茶店にやってきた。
「やぁ、お久しぶりだね。わざわざありがとう」
タカシさん、笑顔でクミちゃんとアヤに挨拶する。
「ユキちゃん、どうしたの?目が真っ赤だね」
マサキさんは、私の赤い眼を心配してくれた。
アヤが、先ほどの話をふたりに説明するとタカシさんは、そう来たか、とつぶやいた。
「実は、可能性として、選択肢は三つあったんだ。略奪女のお腹の子供の問題。本当に元カレの子である場合と、不倫男の子である場合、そして行きずりの男の場合。可能性としては低いけどね」
タカシさんは、想定していたテルの場合が外れたから本命の不倫男の子である可能性が濃厚であると考えた。つまり、父親がユウキの友達のお兄さん。
この間、さっそく会いに行ってきたそうだ。そこで、あいちゃんに子供が出来ているっていう話をしたらしい。すると、それは本当に自分の子か?って言い出したらしい。ほんとにクズだ、その男。
さすがのタカシさんもイラっとしたそうだけどぐっとこらえてあなたの子供である場合、どうしたいですか?と聞いた。すごく長い間考え込んでいたが、今奥さんと別れたら自分は奥さんの縁故で仕事しているからどうしようもない。奥さんと相談したいとすぐの返事にはならなかったらしい。
奥さん怖いなら浮気なんかすんなよ、と突っ込んでしまった。
マサキさんが一番気にしていたのは、居なくなってしまったあいちゃんのことらしい。
そこまでの状態になったのならば、おそらくは逆恨みをしそうな気がすると。
そうだ。身重の体であいちゃんは実家にでも身を潜めているんだろうか。
しかし、あいちゃんの底知れぬ一面になぜか恐怖を覚える。
一番怖いのは、何も捨てるものがなくなった人間の行動力だ、と誰かが言っていた。
アヤもクミちゃんも色んな伝手を使って今あいちゃんがどこにいるのか確認できるようにしてみると
言ってくれた。有り難い。
タカシさんとマサキさんには、身の回りに警戒して、居場所がどこか突き止めるまではあまり外出しないようにときつく言われた。沢山の人が私の為に力を貸してくれている。有り難いことだと思う。
だから、しばらく外出はしないようにしなくちゃ。
その日の夜、ハルカちゃんからメールが来た。
【バカ女が正体を現して出て行った。お兄ちゃんが倒れてうわごとでユキちゃんを呼んでる。
すごく反省しているから、一度だけでも会ってあげられませんか? お母さんからはユキちゃんに知らせるなってきつく言われてるけど、判断するのはユキちゃんだから、お願い、一目会いに来てやってください。駅の近くの病院です】
ハルカちゃんのストレートな気持ちが籠っているメールだった。




