パニッシュ・パーティ2
「え? 略奪女を探している男がいるって?」
配達に来てくれたマサキさんに、ユウキからの電話の内容を伝えると、驚いていた。
「弟のツレのお兄さんって言ってた。一応アヤに聞けって切ったけど」
すると、マサキさん考え込んで、タカシの耳にいれとくか、とつぶやいた。
この一件を解決する近道になるといいんだけど。
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久々に、エミさんが外出についてきてほしいとのことでお供することになった。
といっても、駅ふたつの距離の総合病院。
長年のお友達が入院したっていうのでお見舞いに行くのだそうだ。
なんだか気落ちしているエミさんを見ていて、とても仲の良い人なのだと思った。
「ユキちゃん、エレベーターはこっちらしいよ。大きな病院ってホント道に迷いやすいわね」
苦笑いするエミさんに私もつい笑ってしまう。
病室は、大きな川の見える見晴らしのいい上の方の階だった。
窓が大きくて太陽の光が明るく照らす。病院内の内装も穏やかな壁紙でなんだか和む。
そんな中、忙しそうに走り回る白衣の天使たち。
「病気に縁がないから病棟ってこんなにきれいだなんて知らなかった」
つい本音を漏らす。
「まぁ、腕のいい医者が居たら古くても新しくても患者は詰めかけるけどね」
エミさんも、笑いながら小声で本音を漏らす。
忙しそうな白衣の天使を申し訳なくも呼び止めて病室を聞くと丁寧に教えてくれたが、ナースステーションで面会簿を書いてくださいと言われた。
病室の前に立ち、名前が掲げられていた。
「ここだね?個室なんだね」
エミさんは、扉に手をかける。
中からは賑やかな声がして、開けると若い夫婦と小学生くらいの子供が3人にぎやかにベットの周りを取り囲んでいた。
「やぁ、エミさん、よく来てくれたねぇ」
エミさんと同じ年くらいの女性は、笑顔で迎えてくれる。すると、病室にいた子供たちがすごいテンションで話しかけてきた。
「わぁ!!英語の先生だ!!はわゆー!!」
どうやら、この間のちびっこ商店街のエミさんの英会話教室に参加していた子達らしい。
エミさん思いがけないことに笑顔で答える。
「あんたの孫が生徒で来てたんなら声かけてくれたらよかったのに」
「それどころじゃなかったのよー。エミちゃんの教室は人気があって整理券取るのに並んだんだよ。疲れて喫茶店で休んでたの。それに忙しそうだったし。また今度って思ってたらこんなになっちゃったし」
エミさんの友達の娘さん一家は、ちょっと出てきます、と席を外してくれた。
急に静かになる個室。
「ところでその子が、新しい家政婦さん?」
「この子は姉の孫なの。ユキちゃんっていうのよ」
私は紹介されてぺこり、とお辞儀する。
「ああ、お姉ちゃんの。おばあさまはお元気?」
「はい。元気にやってます」
当たり障りの会話をした後、病人が疲れるといけないっていうので失礼することにした。お見舞いの花の写真雑誌を手渡した。
「あら!!嬉しいこれだと好きなのを飾れるわね。相変わらず気が利くこと」
知らなかったんだけど、最近の病院は、生のお花とかのお見舞い品はご遠慮くださいってところが多くなって、食べ物の差し入れも病状によっては持ち込みが出来ない。
眼が疲れるのもあってエミさん、眺めるだけでも楽しいようなフラワーアレンジ写真のたくさん載った雑誌を差し入れた。
「退院したら連絡ちょうだいね、お茶でしましょう」
そういって失礼することにした。
病院のロビーの片隅にある珈琲ショップでお茶をして帰ることになったけど、思いがけない人を目撃してしまった。
テル一家と、護られるかのように歩くあいちゃんの姿。
そういえばここ、産婦人科もあったね。定期の受診だったのかな。
お腹はまだそんなに目立たない。ただ、異様な光景だった。
「ユキちゃん、どうしたの?知り合い??」
エミさんが心配そうに見ている。私の食い入るような視線に何かを感じたのだろう。
「うん。昔の知り合い。もう関係ない人達よ」
「そう。でも何かあったのかしらね、あの方たち、顔色が悪いわ。お葬式に行くみたい」
そう。異様な光景に感じた訳は、誰も笑っていないから。
もう少しで赤ちゃんが生まれてくるというのに、おじさんもおばさんも、父親であるはずのテルも、テルを略奪していったあいちゃん自身も、だれもが無表情だった。




