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ヘタレ女の料理帖  作者: 津崎鈴子
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心機一転!

お母さんの卵焼きの力はすごかった。


なんか、今まで世界で一人ぼっちな気分になっていたのが

卵焼き食べたら、涙と共に悩んでる自分がばかばかしくなった。


ご飯で気分の変わる私って単純だなぁって思うけど、原点なのかも。


そんな時、アパートの更新書類が届いた。


すごいタイミングだなって思ったけど、このまま思い出のしみついた場所に

住むのもつらいし、どっか引っ越すのもいいのかも。

でも、次の仕事、探してたら更新間に合わないかもなぁ。



☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・



「ユキ、しばらくヒイラギの大おばちゃんを手伝ってくれない?」


家の更新のことを、お弁当箱を返しに行ったついでにお母さんに話したら

おばあちゃんの妹の手伝いをしてくれないかと相談された。


ヒイラギの大おばちゃんというのは、他県に住んでいる、

母方のおばあちゃんの妹にあたる人だ。

昔で言うところのキャリアウーマンで、今まで独身を貫いているっていう

気合いの入った人だ。昔は、海外を飛び回っていたけど今は日本に落ち着いて

のんびり暮らしていたわけだけど、長いこと勤めてくれた家政婦さんが

家庭の事情で辞めることになったのだそうだ。

ひとりでいいわ、と言っていたらしいけど、高齢の一人暮らしに不安もあるらしい。

必要な時に手伝ってくれるだけでいいとのこと。


部屋が空いてるので家賃、光熱費なし、三食おやつ付き。


気分を変えるのにもいいんじゃないかってお母さんの想いもこもってる気がした。

いい機会だし、住み込みで家賃なしはすごく助かる。


結婚資金に貯めていた貯金もあるからしばらくやっていけるかも。

そこで、二つ返事でOKした。


家具とか、電化製品は、リサイクルショップで引き取ってくれたし、

新しいところには着替えとか少しの身の回りの物を持っていけばいいやと

大部分は処分。スッキリ。


ボストンバックにスーツケース。それだけが手元に残ったものだった。


結婚する時に髪を結いたかったからこだわって伸ばしていた髪もバッサリ切って

肩スレスレのボブにした。頭は軽くなったけど、襟足が寒い。


なじみの美容師さんがすごくもったいないと嘆いてくれたけど、詳しい事情も

話すの面倒だから、苦笑いしていたら、察してくれた。


「きっといいことありますよ」


無責任な発言だな、と思いつつ今までの思い出が床に散らばっていく気がする。

新しい自分になるのって、髪を切ったくらいじゃ難しいけど、第一歩。


ハロワで、手続きをして、認定の日にまた来ないといけないらしい。

その足で実家に寄って荷物をもってそのままヒイラギの大おばちゃんの家に向かった。


「ユキ、身体に気を付けて無理しないでね。大おばちゃんによろしくね」

心配そうなお母さんの顔に、大丈夫よ、と笑顔で返した。


アパートを引き払う時に一緒に立ち会ってもらって、うっかり涙がこぼれたのを見ていたらしい。

初めて独り暮らしした部屋だったから、思い出が込み上げてただけなんだけどな。

心配させてしまった。


駅まで車で送ってくれた弟のユウキとは、結局何も話をしなかった。

テルと結構仲良かったから、複雑な思いをしているようだ。


「じゃ」


最後に、一言だけ荷物を渡してくれながら言った。


そして、大きな荷物を持って電車に乗った。


ヒイラギの大おばさんって会ったことないけどどんな人なんだろう。



☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・



最寄り駅について地図を頼りに進んでいくと、住宅街の静かな道沿いに川が流れていた。

川は結構きれいで、せせらぎの音が心地よい。水面に水鳥が遊んでいる。


それぞれの家には、きれいなプランターに花がこぼれるように咲いている。


そのまま進んでいくと、生け垣に囲まれた鬱蒼とした日本家屋が姿を現した。


表札を見ると、ヒイラギと掲げてある。


こ、ここ?


なんか、ちょっと薄暗い気がする。木造で平屋ってやつ?玄関から石畳の短いアプローチ

昔ながらのガラスに木枠の引き戸が姿を現す。インターフォンを鳴らすがなかなか返答がない。


「こんにちわーーー誰かいませんかーーー?」


鬱蒼とした庭に向かって声をかけるとかすかな声で ちょっと待ってーと聞こえる。

玄関で待っていると、ようやく鍵が開く音がして引き戸が音を立てる。


「ああ、マリちゃんのとこのユキちゃんか! まぁ上がりなさい」


姿勢の良い、眼光鋭い痩せぎすのおばあちゃんがそこに立っていた。



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