表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

ゴブリンの勤労奉仕

前回のあらすじ

お留守番をしていると

猫とネズミがアッハッハ!

そして最後は大炎上

ワシ……つまりゴブリンの火付け人であるワシ……は、懲罰中である。


小屋に残った魔法の痕跡から、火元はワシだと割れた。

鼠と火の猫が戯れた結果、あちらこちらで火を起こしたらしい。


魔法とは意思によって発現する摩訶不思議なものである。

例えば、魔法で発生させた<火>は直接触れない限り熱を感じないが、触れた物を熱する事はできる。その結果として魔法の<火>に触れた物に火が付く事もあるし、燃え移った後の火は普通の火となる。

なので、例えば暖を取りたい場合、魔法の<火>に直接突っ込むか(温度の調節を間違えると大変な事になる)、魔法で発生させた<火>に薪や炭を突っ込んで火を移す(<火>の温度が低いと火が移らない事もある)。……応用として、温度を低く調節した<火>を纏って涼を取ったり、氷を作ったりもできる。

ちなみに、かのドラゴンのブレスは<火>の塊の様なものなので、直撃しない限りは大事には至らない……かと思いきや、ブレスが当った場所が溶岩の如くポコポコ沸くので油断ならない。無闇に逃げ回っていると、火の海で囲われた後、好みの焼き加減でパクリと頂かれる事になる。


あの時は、目一杯熱い怒りの炎で火の猫を創ったからなぁ。屋根裏の埃など、ひとたまりもあるまい。……しかし、焼け跡からは彼奴きゃつの死骸は出てこなかった。だが、燃え尽きた訳ではあるまい。



「……まだ、余裕がありそうですね」


「滅相も御座いません」


つまり、SE☆I☆ZAで、DO☆GE☆ZAなワシが何が言いたいかと云うと、古老様がおいでになられてから8時間、その間、程好い<火>加減で強弱つけながら生かさず殺さず炙られ続けて全身からプスプスと煙を上げてもう限界だと言うことなのだが……


「限界だと思い始めてからが、本番ですよ」


……駄目かもしれん。





苦しみとトラウマの血の池地獄巡りの1昼夜が過ぎた。先生の声をしたピクシー(羽根の生えた小人の様な妖精)が「キャハハ!」とか言いながら飛び回っていたような気がしたが、先生は箸なのでアレは何だったのだろう。幻覚か? 


「反省しましたか?」


「はい! 古老様!!」


「よろしい。しかし、反省しただけは、損失は補えません」


「はい! 古老様!!」


「では、行動で示しなさい」


「はい? 古老様!?」


と、云う訳で、今、ワシは古老様に伴われて湖畔にいる。……いや、湖というよりは沼か。

辺りには白い靄(何故か見覚えがある気がする)が漂い、所々でポコポコと湧く、ドロリとした真っ黒な水が溜まっている沼で、<源泉>という場所らしい。

白い靄に見えるこれは、<源>と言い、この星にある全てのものの源となるそうだ。<源>は、<源泉>の底から湧いており、ここから世界中に拡散していくらしい。ここの他にも何カ所かある<源泉>は、この星のシステムの根幹だそうだ。……詳しい説明もしていたようだが、良く分からんかった。


古老様が懐からコインの様な物を取り出し、指で弾く。クルクルと空を舞うコインが光輝き、形を変える。

光りが収まると、そこにはワシより一回りほど小さな人形がいた。確か、お手伝い用の魔導人形だったか。


「親分、良く見ていなさい」


古老様は魔導人形に目の粗い箕ざる(脱穀などに用いるコの字型のざる)を持たせて、沼の中に進めた。魔導人形は箕ざるで泥を掬い、箕ざるを揺すって泥を濾す。泥が濾されていき、小石の様なものがざるに残る。魔導人形は小石それらを握ると、手の中でこねる。小石はこねられた端からほどける様に靄と変じ、徐々に小さくなって消えた。魔導人形は更に泥を掬い、同じように繰りかえす。何度かそうした後、箕ざるの中に小石の他に、キラキラと光る金属の様な小粒が残る。魔導人形は、キラキラ光る粒を選り分けて戻ってきた。


「これは<源晶>……<源>の塊です。親分には、この沼を総ざらいして<源昌>を集めて貰います」


魔導人形から<源昌>を受け取った古老様は、それをワシに見せながら告げる。


「良いですか、親分。先ほど説明した通り<源泉>は、この星の全てが生まれる場所であり、全ての還る場所です。なので……」


再び沼へ戻って行った魔導人形を指差す古老様。

ん? なんか違和感が……箕ざるがやけに大きい様な?


「何も対策を取らずに<源泉>に入ると、ああなります」


魔導人形はみるみる小さくなり、最後には箕ざるを残して沼底に消えていった。

ぷかりと浮かぶ箕ざるが、ゆっくりとワシの方に流れてきた。


「分かりましたね? 親分。では、頑張りなさい」



古老様が去り、<源泉>に一人残されたワシは、箕ざるを良く観察した。

表、裏、ひっくり返して、編み方? 材質? ……魔法的なものは……

良く調べると、薄っすらと<風>でコーティングされている。つまり、<風>を纏って作業しろという事か……。

おっかなびっくり<風>を纏い、沼に足を踏み入れる。纏った<風>が沼の水の様な何かを避けるので、体は濡れない様だな。沼はあまり深くは無い。膝下ぐらいまでか……。

よし、大丈夫そう?……ん、何か……っ!?

沼に浸かった部分の<風>が徐々に解かされている。慌てて<風>を補充する。なるほど、急いで作業しないと大変なことになりそうだ。


<源泉>に膝まで浸かり、箕ざるで、沼底の泥を掬っては濾し、掬っては濾しし、<源昌>を探し集める。不思議な事に、泥を濾している筈だが、濾した泥が再び湖底に沈む様子はない。濾すと言うよりは泥が水に溶けていくとでもいうのか……摩訶不思議である。

箕ざるで掬った泥を揺すりながら濾して行くと、最後にキラキラと光る金属の様な小粒が残る。これは<源泉>から湧き出る不思議パワーが結晶化したものらしく、混ぜて良し、使って良しの優秀な素材となるらしい(呑むな食べるなと釘を刺された)。


<風>を纏い、沼に食われる分を絶えず補充しながの作業だ。消耗が激しい。

疲れ切る前に岸に戻り、回復したら沼に向かう。


休み休みではあるが、作業を続け、<源昌>もそれなりの量が溜まってきた。しかし、魔法も喰らうこの摩訶不思議な沼でも溶けない<源昌これ>は、何なんだろうか。

試しに魔法で創ってみたら、同じ様なものが出来た。沼には分解されない様だ。これ纏えばいいんじゃね? ん? 何か靄が薄くなった様な……


「要は、<源>が湧き出し口で結晶化して目詰まりを起こしてるだけなんだけどね」


突如、声がかかる。

なるほど。この作業は<源>の湧き出し口に溜まった<源昌ゴミ>を取り除く為の作業と。


「その通り。だから、周りの<源>を凝縮して水増しちゃいけないよ」


……ちっ。

いつの間にか現れた日光がさんさんと降り注ぐ白い砂浜で、ビーチパラソルを立て、ビーチチェアで寛いでいる白い人が告げる。

はて、誰だったか。

そして、なぜあそこだけ青空なのか。


「君が言う所の古老様にお願いされた、監視役といった所かな?」


白い人はそう言いうと、いつの間にか持っていたグラスを傾け、白乳色の液体を一口。陽光を反射し、きらりと光るグラスから仄かに漂うフルーティな香り。

そちらをガン見していると、徐々に靄が濃くなって……辺りが靄に包まれた。

ワシが集めた<源昌>がごっそり減っている。こっそり生成して水増しした分が大分水増し請求で持っていかれた様だ。

しかし、ヤケに靄が濃い。

水面から湧く量も増えている様だが。


……えーと、岸はどっちだったかの?




白い砂浜

降り注ぐ太陽

押し寄せる黒い波


此処は楽園


……な、訳は無く。


ワシは、浜に打ち上げられた廃材の様に、砂浜に倒れ込んでいる。

あ、危なかった。

フルーティな香りが無ければ、消失する所だった。

白い人のグラスから漂う香りを頼りに、どうにか砂浜まで辿り着いたワシは、そのまま動けずにゼハーゼハーしている。


「消失? いや、精々、全消去で再利用かな?」


ナニガ 違ウノ デショウカ?


「廃棄とリサイクルぐらいの差かな? 資源は有効利用しないとね」


……ワシの主観的には差が無いと。


「そうだね。まあ、偶にそのままリサイクルされるのもいるけど。親分程育つのは中々いないから、多分、次周は格上げかな?」


…………来世にはまだ興味がないです。





<源昌>を攫って、力尽きて砂浜に打ち上げられ、ぶっ倒れたまま白い人の講釈を聞くで一サイクル。

話の内容は様々。

遥か昔、人々は広大な宇宙に覇を唱えたとか。この星は人工星で、造成時の苦労話とか。魂転送装置を利用した、剣と魔法のファンタジー世界な体験型テーマパークだったとか。人工魂を使用するのに転生局ともめたが、袖の下でどうにかしたとか。どっかの馬鹿が「宇宙の彼方まで俺の歌よ届け」をかまして世界を揺らした結果、広域星間交流網に大ダメージが入ったとか。男のロマンの秘密基地的感覚で作ってたのが娘にばれて中央に呼び出されている間に、この辺りはキレた娘のお掃除部隊の手でクリーン大作戦を受けただとか。結局、広域星間文明網は復旧しきれず、この星は今も孤立無援で好き勝手にヒャッハ-状態なのだとか。

……いったい何周したのか。砂浜に打ち上げれ霞む意識の向こうで、白い人が何か話している。意味不明の講釈を子守唄に夢の世界へ旅立とうとしていると……


「……てい」


気の抜けた掛け声と共に振り下ろされる足がワシの頭を掠め、着弾。

感じたのは光。

音も衝撃も意識する間もなく巻き上げられる砂とワシ。

ボロ雑巾の様に華麗に宙を舞い、叩きつけられるような見事な五体投地で着地を決める。


「講義を受ける身で居眠りはいけませんよ」


いつの間にか現れた古老様が、クレーターの中心で足を踏み下ろした姿勢のまま笑顔で告げる。その向こうで苦笑を浮かべる白い人が見えた。

講義だったのか。そんな事を思いつつ、限界を迎えたワシの意識は途絶えたのだった。



お久しぶりです。

いまだにブックマークしていて下さる奇特な方々、お待たせしてすいません。


バイトをく…辞めたり

転職先では試用期間中にく……無職になったり

…………色々ありましたが、なんとか生きてます。


次回更新時期は未定ですが、早めに上げれたらいいなぁと

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ