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ゴブリンと留守番

毎度ながら、遅くなりました orz

ワシ……つまりゴブリンの親分の筈であるワシ……は、留守番中である。


目を覚ましてから数日、漸くまともな飯が食える様になった頃、古老様が出掛けるという話を聞いた。

何でも、<魔の森>の重鎮が集まる集会に出席するらしい。先生も付き添うそうで(「この姿とも漸くおさらばよ!」とか叫んでいた)、久しぶりにワシとゴブゾウ、ゴブタの3匹水入らずという事になりそうである。


で、今、ワシの前に積み上がっている本の山がその間の宿題らしい。

魔法に限界は無いが、術者に縛られるという事で、古老様が次々と本を生み出し・・・・・この次第である。古老様曰く、「これらは基礎的な事です。帰って来るまでに読破しておきなさい」とか仰られたが、無理じゃねこれ。

えーと何々……

『勉と学の大冒険』……全32巻。国語算数理科社会

『土いじり』……作物と土の相性やらなんやら

『食材~大自然編~』……冒険手記

『雨と土』……ポエム集

『もののしくみ』……小は「ネジ」から大は「星海」まで。節操が無い

『おしべとめしべの A to Z』……生物図鑑。いろんな生き物のアレやコレについて…… 

『魔法制御理論 さるでもわかる入門編』……でかくて、重くて、分厚い

『土の力』……<地>の活用法

  ・

  ・

  ・ 

  ・

なんだろう。農業に関係しそうな本がやけに多い様な。

……まあ、始めよう。




1週間が過ぎた。本の山は殆ど減っていない。

今は、体験型冒険教科書で死にかけている。読んでる途中で唐突に出題がポップアップしてきて、正解するまで先に進めない。というか、指一本動かせない。制限時間内に正解できないと、ペナルティ有り。魔法は使える様で、メモを取ったりする為には魔法を使って文字を書く必要がある。

初めは<火>を使っていたが、今は<風>に色を付けて使っている。元になる素材がある分、こっちの方が疲れないと分かったからだ。


えーと何々、『その日、勉君は幼馴染の学ちゃんにお願いされ、ドラゴンの秘宝を手に入れる為に山へ……


 トテッ


『……ドラゴンは火を吐いた。急いでどうにかしないと勉君が丸焦げになってしまう!

勉君は炎のブレスを防ぐ為に障壁を張ろうとした。ドラゴンのブレスの温度は3000度。照射時間は5秒。この攻撃を防ぐのに必要な障壁の属性と強度は?』……ええと、<水>属性で全力かの。


ワシの目の前に現れるドラゴンの幻影。今まさに吐かれんとするブレス。半球状の青い膜がワシを覆い、そこに炎の濁流が襲い掛かる。みるみる薄くなっていく青い膜。ガリガリと削られ、あっさりと消え去る。炎の濁流に呑まれたワシは、熱いと感じる間もなく……

『不正回。勉君は燃え尽きてしましました。 ヒント:ブレスの威力を計算してみましょう』


全身が塵になっていく感覚から引きもどされる。魂まで焼き尽くされそうな恐怖。まあ、石化や麻痺や毒に比べれば、体感的には一瞬で済むだけましか。

びっしょりとかいた汗を拭う事も出来ず、再び設問に挑む。


 トテトテッ


……3回ぐらい焼かれた。多分、今の勉君ではブレスを防ぐ事は出来ない。だが、これまでの経験上、それをどうにか証明するまでこの設問が繰り返される。くそぅ、こんな事なら川でもっと育てておくべきだったか。えーと、ブレスの威力は……


『時間切れです』


ギャー!! 直火焼きで丸かじりだとぅ!!!


 カリカリ


!? なんだ? 気配が……


 チゥ


いた。鼠か。小癪な。だがしかし、今は動けん。何もしないなら見逃してやろう。

あ! 止めろ。それはゴブタがワシの為に用意したクッキー。この問題が解けたら食おうと思っていたのに。な!? ジュースまで飲みおった。せ、せめてそのジャムの載ったヤツは~~~~


 カリカリカリカリ


ふ、ふふふ。ゆるさん。ゆるさんぞー!! 捕まえて、晩飯にしてくれるわ。


「テイッ!」


鼠の周囲の<土>を操る。バキバキという音と共に床板を突き破って飛び出す無数に土の杭。これを檻にして鼠を包もうとするが、ヒョイっとかわされる。


 カリカリカリカリカリ……


きゃつの顔よりも大きいクッキーが、アッと言う間に無くなる。


憤怒フンヌっ!」


大気にたゆたう<風>を操り、高さ1m程の竜巻を生む。鼠と一緒にクッキーや本も巻き込んでしまうが、これなら逃げられまい! ……な!? なんだと。

鼠はクッキーをサーフボードに見立て、渦風に乗り、天辺から飛び出した。華麗に着地を決める鼠。

 10点! 10点! 10点!! 


くっ……。ならば!!


『時間切れです』


ギャー!!!



……何度、焼かれて喰われて裂かれて割られて弾けてすり潰されたのか。

ズタボロになったワシを引き換えにして、勉君の物語は今回もハッピーエンドを迎えた。何か毎回、勉君が便利使いされているだけの様な気もするが。学ちゃんの本命は多分……。いや、それはいい。

鼠に集中を削がれながらも、ワシはどうにか教科書が満足する解答を絞り出したのだ。その代償として、今、ワシの魂はぷすぷすと煙を上げておる。

さて、今日の勉強は此処までだ。


竜巻に巻き上げられて部屋中に散らばったクッキーを食い尽し、膨れた腹を摩りながら横になっている鼠。きゃつには、思い知らさねばならぬ。


ワシの中で渦巻く<火>。燃え盛る怒りの炎。集中。イメージ。……掴んだ。


「くくく。死ねい!」


<火>が、ワシのイメージに従って徐々に形を得る。

さあ、きゃつを焼き尽くのだ!

生み出されたのは<炎の猫>。これから始まるのは、死の鬼ごっこ。



  ・・・・・・・・・・



わたくしは、何をあんなに感情的になっていたのでしょうか。見て下さい。今、小屋の中では、鼠さんと炎の猫さんがとても楽しそうにじゃれ合っています。そんな2匹にほっこりと癒されながら思います。


 仲が良いですわね。


穏やかな気持ちでそう思いますの。

あ、鼠さんが壁の穴にかけ込みました。あ、猫さんもスルリとその穴の中に。身体が炎だけあって、穴の大きさ余り関係ないのでしょうか。

ふう、休憩は終わりです。さあ、宿題の続きをいたしましょう。


怒りを<火>に転じて魔法的にすっきりさっぱり吐き出した親分は、死の鬼ごっこ(鼠に若干余裕あり)を見ながら、とても穏やかな気持ちでそう考えるのであった。



  ・・・・・・・・・・



「親分、すいやせん。コイツなんですが、ちぃと見てもらえやせんか」


「どうしまs……どうしたゴブゾウ。どれどれ」


ゴブゾウに声を掛けられ、我に返るワシ。いつの間にやら本の山が少し減っている。こんなに読んだ覚えはないが、読んだという記憶はある。どういう事だ。

……まあいいか。っと、ゴブゾウが持ってきたのは開拓計画か。……G計画ってなんぞ。

えーと、自然に戻った耕作地を再び畑に戻す手間か。新たに開拓するのとあんまり変わらんと思うぞ。何を植えるか? それはゴブタに聞いてくれ。施政方針? 何を言ってるんだ?


 パチパチ


ゴブゾウとの遣り取りを終え、再び本の山に向かう。あー、眠い……



 メラメラ

「・・・・・・・!」

「・・・・・・・・・・・!」


ゴッホ、ゴッホ。咳をして、目を覚ます。

ん? いかんいかん。いつの間にやら寝ておったようだ。どれぐらい寝ていたのか。明るさから見るにそんなに時間が経っているようでは無いか。

しかし、熱いな。知恵熱か?

よいしょっと、背を伸ばし、頭から眠気を払う。ゴブタに冷たい飲み物でも頼もうと思いつつ辺りを確認すると……一面が火の海だった。


 ふぁ!? 何故!!


「おやぶーん!! 何処でやすかー!!」

「おやぶーん!! 何処っすか―!!」


外からゴブゾウとゴブタの声がする。あやつら……。あち、あちち! 


「まさか、まだ中に……」

「そんなっす!」


とにかく、外へ!


「どぅおりゃぁぁぁぁぁああああちちちちち!」

「「!?」」


掛け声と共に小屋から飛び出したワシ。正に火達磨。ゴロゴロと転げ回る。


「「親分!?」」


いいから、火を消してくれ……。


「み、<水作成>っす」


ゴロゴロ転がって火があらかた消えた所に、ゴブタが生み出した<水>がチョロチョロとかかる。ジュワーという音と立ち上る湯気。残った火も程なく鎮火する。


しかし、一息ついたワシの背後では、小屋がゴーゴーと音を立てて燃えていた。




暫くすると、燃える物が無くなったのか、小屋から上がっていた火も治まった。

ぷすぷすと煙が上がる焼け跡で目に付くのは、煤の付いた小屋の骨組。揺らそうとしてもびくともしない。板を張り直せば、そのまま再利用できそうな感じ。

台所は全くの無傷で残っている。あと、謎の扉。位置的にも形的にも古老様の部屋へと続く扉か。

勉強机と、その上の本の山も何故か無事だ。焼け跡に積った瓦礫の中にも点々と、パッと見で無傷の品が散らばっている。


ワシ自身は、小さな火傷が幾つかあるが軽傷で済んでいた。……焼かれ慣れたのであろうか……。


「これは、……ヤバイな」

「ヤバイでやすな」

「ヤバイっすね」

「うわ、大変」


どうにか隠蔽……いっそ逃げるか? 焼け死んだとか思って貰え……


「ヤバイですね」


いつ間にか後ろにいた古老様が、ワシの肩にポンっと手を置いた。


学ちゃん。勉君の幼馴染で教師役。勉君の事は(都合の)良い友達だと思っている。


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