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プロローグ

人間達が<魔の森>などと呼ぶ大森林がある。

辺境の先にある、広大な人類未踏の地だ。森の奥になにがあるのかを知る人間は殆どいない。ごく一部の賢者や、真理を探求する大魔道士ならば知っているかもしれないが、この世界に生きる人々の多くは、自分の生活に影響しない事にはあまり興味を持たない。

大きな街に住む人間にとっては、時折、「辺境で興った新興国が、<魔の森>の開拓を行っているらしい。」といった話が、噂話に聞こえてくる程度の関係でしかない。


そんな<魔の森>の端の端。新たに人間の<開拓村>が生まれつつある場所の程近くに、「ゴブリン」という大人になっても人間より頭一つは小さい妖精の一種の集落がある。その集落を纏めるゴブリンの親分こそが、この物語の主人公である。


  ・・・・・・・・・・


「親分、大変だ!」


狩りに出ていたゴブゾウが、ワシ……つまり、集落で一番えらいワシ……の天幕に駆けこんで来る。その勢いで、枯れ木と枯れ草を組み合わせて作った自慢の天幕が大きく揺れる。


「騒ぐな! 崩れるだろ。」


慌てて柱を押さえる。ゴブゾウを殴りたいが、手が足りない。


「に、人間だ。人間の村が!」


ゴブゾウの叫び声が決め手となった。天幕が崩る。思わず柱を押し倒したワシのせいではない。

取りあえず拳骨をお見舞いしてから話を聞く。頭を押さえてのたうち回るゴブゾウを吊るし上げ、落ち着かせてから話を聞いた所、森を出て直ぐの所に人間が新しい村を建設し始めたらしい。


……昔は良かった。自他共に認める<魔の森>の最弱種族であるワシらゴブリンは、有力種族の勢力圏が隣合う緩衝地帯にひっそり集落を作って暮らしていた。あっちこっちの種族の逆鱗に触れない様に、殴られようが食われようが頭を低くしてひっそりと暮らしていれば、それなりに生きていけた。

ある時、今よりずっと広かった<魔の森>の、もっと遠くにあった森の端と平原を支配していた<妖精王>が、外からやってきた人間に倒されてからおかしくなった。

集落に流れ込んできた残党共は傍若無人に振る舞い、人間達を押し返すへ為の捨て駒として多くのゴブリンが命を落とした。

人間は<魔の森>を切り開いては村を作り、残党が押し返す。人間と残党は、そんな無駄とも思える行為を何度も繰り返した。徐々に、しかし確実に、人間は残党を駆逐し、森は切り開かれていった。

いつの間にか、残党たちは居なくなった。やっと平和になったと喜んだ。

それから季節が何度か巡り、集落がようやく落ち着いてきたと思ったら、今度は、恐ろしい人間達の足音がこの集落にも届こうとしている。


「ぐぬぬ……。」


弱肉強食はこの世の常。肉になりたくなければ、一刻も早く動かなくては。


「戦か? 戦か?」


さっきまでの慌てようとはうって変わって、ゴブゾウが興奮した様子で問いかけてくる。馬鹿め。反省を促す為の愛の拳を振り上げた所で、集落が炎の嵐に包まれた。


……ゴブゾウ、付けられたな。そんな事を思いながら意識が途絶えた。




…熱い

……ゴブゾウめ。

………全滅かな。

…………次に生れて来る時は、もっと強い種族に生まれたいなぁ……


ゆっさ、ゆっさ。


……だいたい。何で。何が起きた?

どうして?


ゆっさ、ゆっさ。


くっそ。痛い。

まだ生きてるらしい。


ゆっさ、ゆっさ。


揺らすな馬鹿野郎! 痛いじゃないか。

目を開ける。

誰かに背負われている様だ。


「親分。気が付きやしたか?」


ゴブゾウの声が聞こえる。ゴブゾウに背負われている様だ。


「どうなってる。」


「へえ。どうやら、人間の仕業のようで。集落は、あの一撃で壊滅。運よく生き残った奴らも、散り散りになったようでっさ。」


ゆっさゆっさと揺れる背で、ゴブゾウの報告を聞く。

集落は壊滅。

ゴブゾウは、偶然、ワシが盾の様になったので軽傷ですんだらしい。……ゴブゾウめ、親分であるワシを盾にするとは。


「親分のお陰で命拾いしやした。このご恩は忘れやせん。」


などと言っていたが。まあ、見捨てずに背負ってくれているのだら、良しとしておこう。

ワシらと一緒に行動しているの、ゴブタだけか。すばしっこくて目端の利くゴブリンだったから、運よく生き延びたのだろう。後で聞いたら、嫌な予感がしたので集落から離れていたらしい。感のいい奴だ。


「今、ゴブタの奴が状況を探ってやす。親分は、もう少し休んでいてくだせえ。」


「……よし、頼んだ。」


どうにか、生き延びたようだ。ゴブゾウの背中に身を委ね、再び眠りに落ちる。


  ・・・・・・・・・・


この世界の各地には、神の怒りに触れて滅びたという古代文明の名残が残っており、そこから得られる遺産や技術や知識は、様々な恩恵をもたらす。そしてそれらは、人間には、とても魅力的に写る。

<魔の森>は、古代文明の中でも有数の都市の跡地に広がっており、莫大な量の遺産や、さらにはその古代文明を滅ぼした神の神秘の一端が眠っていいると言われている。

<開拓村>は、人間が、<魔の森>を開拓する為に作った村だ。現役や引退した冒険者を積極的に斡旋しており、その戦力は、砦に匹敵する。


「どうだった?」


<開拓村>に戻ると、パーティを組んでいる男に声をかけられた。

彼女達は冒険者で、<魔の森>を探索をしていたらゴブリンを見掛けたので、仲間を<開拓村>に戻して警戒するように伝え、森での活動に長けた彼女が単独でゴブリンを追跡し、発見した集落を殲滅してきたのだ。


「かなりの規模だったけど、所詮はゴブリン。」


「そうか。じゃあ、もう大丈夫か?」


「ええ。けど、いくらかは逃げ出したようね。2~3日は様子を見た方がいいかも。」


「分かった。後で、詳しい話を聞かせてくれ。」


通常、ゴブリンは多くても十数匹で群れを作る。

しかし、あのゴブリンの集落は、少なくとも100匹以上は住めそうな規模だった。別の種族に隷属しているのかなっと思ったけれど、ゴブリン以外の種族は見当らない。<魔の森>だからかな? ……うーん、ロード種でもいたのかもしれない。

追跡したゴブリンは、真っ直ぐにゴブリンの集落に向かっていった。あの規模のゴブリンの群れが<開拓村>にちょっかいを掛けてきたら、ちょっと厄介だった。一撃で殲滅出来たのは僥倖だったと思う。


「ちょっと、無謀だったかな?」


ちいさく呟いて、くすりと笑う。

彼女の故郷でもある<魔の森>は、人間達の世界と違い、マナが濃いおかげで<魔術>が使い易い。とはいえ、あの規模の<魔術>はそうそう放てるものではない。

<魔の森>で暮らしていて頃には手が届くとは思ってもいなかった高度な<魔術>を行使する事で、自分の成長を、母たる<魔の森>にちょっと自慢したかったのかもしれない。

まあ、炎に多少、むら・・があったものの、ゴブリンを駆除するなら十分な威力のはず。


そんな事を頭の考えなら、「今晩は何を食べよう」と、彼女は<開拓村>に一軒しかない酒場に足を向けるのだった。


  ・・・・・・・・・・


一晩もすると、歩ける程度には回復した。

それから数日の間、ワシとゴブゾウの2匹で、<魔の森>を、当ても無く彷徨っていると、ゴブタが追いついてきた。


「追手は居ないみたいっす。」


「そうか。これで一息つけるな。」


その辺りで柔らかい葉や木の実、茸や昆虫といった食料を調達し、休憩をとる。


「親分、どうしやす。」


「そうだな。まずは、落ち付ける場所を見つけたいが……。」


「まあ、これ食ってから考えるっすよ。」


天然の素材をそのままに、無心で口に運ぶ。

久しぶりに、落ち着いて食える。これは、生きている事を実感させてくれた。

ただ……


「喉が渇いたな。」


「水場を探しやすか。」


「あっちから水の匂いがするっす。」


ゴブタを先頭にして、水の匂いのする方へと移動する。

森が開け、広場が現れる。広場には草が生え、中央には、巨大な木が一本生えていた。

その木の近くの空間から、ちょろちょろと水が湧き出て、小さな水溜りを作っている。


「水はあったっすが、これは……」


「何とも摩訶不思議な水でやすね。」


水は、水だ。尻込む2匹に構わず、湧き出る水をむさぼる様に飲む。

癒される。

これまで味わった事も無いような、澄んだ水だった。


「さっすが、親分。豪胆っす。」


「大丈夫そうでやすな。」


ワシの様子を見て、ゴブタとゴブゾウも水を飲む。

一息ついた所で、木を観察する。木を見ているだけで、気が静まり、心が安らぐ。不思議な気配を纏った木だ。これは……。


「これが、<守り木>か……。」


「「まもりぎ?」」


ゴブゾウとゴブタが何の事だと首をかしげている。


「<魔の森>でも秘境に生えるという、不思議な木の事だ。昔、噂を聞いた事がある。」


「さすがは親分。物知りだ」


「そうっすか。この木は、食えるんっすか?」


「詳しい事は、ワシも知らん。下手に触らん方がいいだろう。」


一息ついた事だし、移動しようすると……


 さわり


……風が吹き抜け、<守り木>の姿が掻き消えた。


気付くと、広場は荒れ果てていた。先ほどまで生えていた豊かな草は無くなり、<守り木>のあった場所を中心にして、むき出しの土地が歪な円を描いて広がっている。まるで、この広場を避けるように木が生えており、この場所が<魔の森>の中にある事を示していた。水溜りのあった場所からは、チロチロと水が湧き出し、流れ出た水は、大地に吸われて消えている。


荒れ果てた広場に、ポツン一軒の小屋が建っていた。だが重要なのは、そこではない。

なんと、その小屋の回りにだけ草が生えているのだ。あれは、人間達が作る畑というものに似ている。畑には何故か、食べられる草だけが生えているのだ。

それも、信じられないぐらいに旨い草だ。


ごくり。


誰ともなく、いや、誰もが喉を鳴らす。

他の者を見る。ゴブタとゴブゾウと視線を交わし、頷き合った。


初めまして。

小説、始めてみました。

初作品ですよ、奥さん(誰?)。

…続くと、いいな……。

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