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龍Gatメール

 またまた龍之介。

 

 「本日は龍之介様とこうして二人きりでお食事ができるなんて。まるで夢を見ているかのような心地ですわ」


 本当に、夢であったならどんなに良かったか。

 超高級レストランでのディナータイム。

 龍之介は心の中で盛大な溜息を吐きながら、目の前の女性に爽やかな微笑みを返した。


 途端に目の前に居る腰までの艶やかな茶色の髪を伸ばした女性は、全身の骨を溶かされた様に体をくねらせ、ため息を吐く。

 ドレスは真紅で、胸元がばっくりと開いており、いかにも勝負ドレスだ。

 そして女性は日本有数の財閥の娘でもあるので、腕や首には本物のアクセサリーが輝いている。

 さらに容姿もそれなりにいい。どちらかというと高飛車な印象を受ける美人だが、さっきからチラチラと男性客が盗み見するくらい魅力的だ。


 だが、そんなことよりも今この状況で龍之介は胸元にある携帯電話の事がさっきから気になって仕方が無かった。

 会議が終わってすぐ、メールが送られていた事に気が付いた龍之介は飛び上がらんばかりに驚いた。

 メールが送られてくるのはきっと数日後だと高をくくっていたというのもあるが、それよりもメールが送られてきた事に対する喜びが大きかったからだ。

 しかし、悲しい事に龍之介がそのメールを読もうか読むまいかと悩むよりも早く声をかけられる結果となった。


 それが今目の前にいる財閥家の御令嬢

 更科さらしなルミカ(24)。

 龍之介が小さい頃から付き合いのあった、いわば幼馴染と言ってもいいほどの仲だが彼は苦手としている。

 クラスとかではおませな女子グループの女王とかしてそうなタイプ。

 それがどうしたことか、自分に好意を持っている。いや、持っているのではない。彼女は自分よりも地位を見ているのだろう。

 龍之介はそう思っていた。


 (はぁん、微笑をたたえられる龍之介様もステキ。叶うなら満月の下のおしゃれなバルコニーなんかで二人きり、シャンパンなんか持って「これは君と僕だけの秘密だよ」だなんていったりなんかしちゃったりして!そんでもって「実は僕はずっと今まで隠していた事があってね、」なーんていって、「ずっと、実らないであろう恋をしているんだ。もちろん、初恋だよ」とか言われちゃって、あげくの果てには「初めて会った夜の事を覚えている?あの時、僕は君に一目ぼれしたんだ」とか?とかー?きゃー!)


 と実はルミカが目を完全にハートマークにしていることなど知りもしていない。


 ウエイターが持ってきた前菜のホタテのテリーヌをフォークで気付かれない程度に小突きながら、龍之介はそっと話を切り出した。


「それで?大切な話と言うのは一体なんだいルミカ。残念な事にこれから仕事がまだ入っていてね。少しばかりゆっくりしている訳にはいかないんだよ」


 そしてその仕事を早く終わらせてゆっくりメールしたいし、なんて心の中で付け加える。


「その点は御心配いりませんわ、龍之介様。わたくし、実は龍之介様をお食事に誘おうかとおもってましたの。ああ、ただのお食事ではないんですのよ。

 お父様もおじい様も龍之介様と狩りをご一緒したいとおっしゃっているの。ほら、いつだったか私に教えてくださいましたでしょう?

龍之介様は「狩り」がお好きなのだと。それを聞いてお父様方も喜んでいらしたわ。是非、龍之介様と狩りをご一緒したいと」


 その「狩り」はどちらかというとインドア系なんだけどね。と心の中で龍之介は呟く。

 確かにふとした拍子に口から零れていたかもしれない。つまらないパーティ会場の中、ぼんやりとしながら幼馴染と話もすれば、ちょっと気が緩んだ時にでも。


 「狩りをするゲームの話」とやらを。


 実際に更科の会長も社長も「狩り」が好きだとして「狩り」と言われてゲームの狩りなんて思いもしないだろうなぁ、なんて龍之介は遠い目をしながら飲み物を煽った。

 大体、今の時代に原始的な「狩り」をしているとかこっちも普通なかなかない事だよなとは思うが。


「それはそう言ったかもしれないけれど」


「でしたら!」


 ルミカが肯定の言葉に色めきたった。パチンと手を鳴らし、龍之介の側に駆け寄ってこようとしている。

 龍之介はゆっくりとグラスをテーブルに置くと、細いため息を吐きながらこう思った。


(あー、帰りたい)


 家に帰って思いっきりベットに飛び込みたい。そしてふかふかのクッションを抱きしめて「ああああああ、疲れたーぁああああ!」って叫んで悶えて、人心地ついたらおもむろにテレビなんかつけちゃってニュース見て、しばらくしたら「そうだ、今日はあのゲームをしよう」と思い立ってゲームしたい。

 そして明日仕事があることなんか忘れて徹夜覚悟でもむもむと「するめいか」なんか噛み締めながらゲームに没頭したい。


 あ!それよりも今日はメールという楽しみがあったんだった!一体何が書いてあるんだろうなぁ。ジャンルがある意味違うのは残念だけれど、これは大きな一歩だ。

 ぶっちゃけ(天下御免の)店長とメール交換していたりするんだけれど、あの人はいつも軍事関係のメールしかしてこないから正直、読んでいて荒んだ気持ちになる……。


と、龍之介が盛大に遠い目をしながら現実逃避していると「龍之介さまっ!」という声に我にかえり再び龍之介はルミカの未来計画が盛りに盛り込まれた雑談を聞かされる羽目になったのであった。


☆☆☆


 「おかえりなさいませ、龍之介様」


 ずらりとならぶ使用人達。それらに軽く「ああ、今帰った」と挨拶して龍之介は身支度を整える。


 疲れ切った体は、何をするのも億劫。

 軽くシャワーを浴びて、明日の予定を聞きながら酔いざましにドリンクを飲み、父親に軽く報告を済ませてから部屋に戻る。


 ドアを閉めると表情は一気に腑抜けてからくり人形のように頼りない足つきで数歩進むとそのままベットに倒れ込んだ。


 このまま泥のように眠ってしまいたい……。


 明日の事を考えるとそう言う訳にもいかず、仕方なく体を起こす。

 頭をあげると、はっとしてベストのポケットに放り込んでいた携帯を慌てて取り出す。


 ピッ、ピピッ、ピッ。


 宛先が「江本さん」の新着メールを見つける。


 「わはぁっ……」(至福)


 不思議なことに、喜びで全身の疲れが吹っとんだ。

 そのまま一字一字もったいないように少しずつ目を通す。


 「えーと、件名×日?なになに?その日莉心…さんと海水浴にいきます!?」


 ぽかん、と口を開けて上を仰ぎみる。そのままぎゅっと携帯を握りしめ、ベットに仰向けに倒れた。


 「う、海……。オタ友と海っ!!」


 龍之介は目を純粋な子供のようにキラキラと輝かせた。

 思えば、海水浴なんて龍之介にとっては嫌な思い出しかないのだが小春達との海水浴はとても楽しそうだ、と思えた。かざらない言葉で語り合い、牽制や策略なんて皆無な海水浴。それを想像しただけで龍之介は心が弾んだ。


 「あ、でも海水浴に行く、ってだけだよね。まだ僕の事誘ってくれるって決まった訳じゃないし」


 龍之介は気を引き結んだ。

 最悪「海に行くんだーわくわく」的なメールでも今の龍之介にとっては万々歳なのである。

 それは龍之介の心がそれだけ荒んでいるということでもあるのだが。


 「んんと、よろしければ龍之介さんもッ……ヘヴッ!!」


 余りの幸福にベットでローリングした。


 「海っ海っ!わああああああどうしよう~?何着て行ったらいいのかな~?って、海だから水着だよね。でも、あ~どうしよ~!」


 頬を乙女のように桃色に染めながら龍之介は思うまま部屋中を悶え回った。

 しばらくして部屋にあるバスルームの洗面台に手をついて鏡に映る自分を見る。


 「でも、×日だよね。スケジュールあるかな?」


 冷静に手帳を開いてスケジュールを確認する。

 頭には一応入ってはいるのだが、確認は大事だ。


 「ああ、やっぱりある……。よりにもよってあの親子と……」


 それはさっき約束を取り付けてきた他ならぬ「ルミカ」達との約束だった。


 「ああ、なんてことだ。もし僕があの時メールを先に読んでいたのなら……」


 大変に悔やまれる。しかし、もしスケジュールが空いていたとしても小春達と遊べていたのかどうか。


 「でも、やっぱり僕なんかと海に行くよりその方がずっといいよね」


 小春達は自分よりもずっと年下なのだし、おじさんと海になんてと一人で納得して龍之介はメールを返すことにした。


 宛名 江本さん

 件名 ごめんなさい


 本文

  せっかくのお誘い大変有難かったのですが、残念ながら先約が入っておりそちらに伺えそうもありません。  本当に残念です。そんな僕の分も目いっぱい楽しんできて下さいね。

  もしよろしければまたお誘いくださると嬉しいです。(ニッコリ)


 ※カッコ内は絵文字


 たったこれだけのメールを打つのに、龍之介は百面相をしながら慎重に打った。

 打ち終えてまじまじと読み直すと「絵文字ってどのくらい入れたらいいんだろう」と本気で悩んだ。

 ただでさえメールはビジネスにしか使わない龍之介である。

 可愛らしい絵文字なぞ携帯の中に入ってもいないのでダウンロードしなきゃ、と心に誓った。


 打ち終わると一気に睡魔が襲ってくる。

 明日の予定、明日会う相手。

 小春達の事、新作のゲーム。

 知り合い達との関係、会社の状況。

 それらが頭の中でぐるぐるしながらも必死に身支度を整え、龍之介は眠りに入るのだった。 

 読んで下さり、ありがとうございます!

 

 外伝はおまけとして書いているものなのですが。

 本編の隅っこにくっつけたい衝動に駆られます。


 拍手したら~とかあるみたいですが、残念ながら作者にそのような機能はついてないようです。


 ていうかもしかして龍之介が人気ないのかしら。

 龍之介二連続の言い訳みたいな事を言うと、龍之介は設定を考えるのが少々込み入っていたのでお話が自然発生したのです。

 本編の男どもはそろってモテモテ設定ですのでぜひ読んでみてくださいませ。


 では、また。

 

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