小春の乙女的休日
登場人物……江本 小春
乙女ゲーをこよなく愛する自覚の無い廃人ゲーマーな女子高生。
非日常の中の日常……本編に出てくるゲームソフト。
朝
ピピッピピッ
「こーら、もうそろそろ起きないと。いくら休みだからってずうっと寝てちゃあだめだぞう☆こいつぅ!……起きないとイタズラ、しちゃおうかなぁ……」
ピッ
(声)ちょっと(?)シスコン気味の血の繋がっていない再婚相手の連れ子のお色気お兄ちゃんの目覚ましボイスで起床。
ス、スイスイスイッ
SNSゲーム(もちろん乙女ゲー)の経験値をおもむろに貯めておくのも忘れない。
朝食後
二日酔いのサラリーマンが新聞をチェックする様に目をしぼませながら攻略ノートを読んで確認する。
スリープさせておいた携帯機器の乙女ゲーをなんとなく進めておく。
今日はがっつりゲームをしようと思うので、そのための部屋の片づけとセッティングをする。
飲み物と軽食を用意して攻略スタート
☆☆☆
私が姫で魔法使い!?
主人公……(名前変更可)名前を読んでもらえる機能と主人公自身のボイスはない。突如異世界に飛ばされた平凡(当社比)な女子高生。体に刻まれていた紋章(普段は見えない)から某国の姫と認定される。自らの不思議な能力を使って問題ごとを解決することで魔法の能力が開花し、その能力の為に世界を巡る争いへと巻き込まれて行く。性格は乙女ゲーらしい特にこれといった特徴の無い性格。だが、幼馴染でよくからかってくるライドの前ではどうしても意地っ張りな態度をとってしまう。
私は、今だに慣れない豪華な庭園のベンチに腰をかけると、
ようやく落ち着く事が出来た。
「ふうっ、こういう雰囲気今だになれないわ……」
「なーに言ってんだよ、一国の王女様が」
見ると、そこにはいつもよりピシッとした騎士の格好をしたライドが
私を見下ろしていた。
ライド……最初から主人公に付き従っているいわば「幼馴染ポジションキャラ」意外にも攻略しにくいと評判で骨のあるヤツである。髪は緑色で戦士ショート。ガタイはいい方だがやっぱり(乙女的な問題で)どちらかというと細身。戦士で熱血タイプなので例によって恋愛にはうとい。まさかの初恋で自分の感情に戸惑っている。
「ライド……!」
「シケタ顔しやがって。そういうの、お前には似合わねーよ。……なんつーかその…、
ッとにかくっお前はいつも見てーに生意気言ってる方がお似合いってことだ!」
「なによそれ、ちょっと……」
私がむくれると、ライドはいつもの様にクックッといじわるく笑った。
「そうそうそれ!お前はそうやって元気にしてる方が……俺はす…」
選択肢出現
「す?」
「悪かったわね、すっとこどっこいで」
「スペンサーなら、さっき居間にいたわよ」
スペンサー……青い髪でパッツンで釣り目の嫌味秀才魔法使いキャラ。もちろん攻略は可能だがライドとの仲がすこぶる悪い。ので彼を攻略する際にはライドが、ライドを攻略する時にはスペンサーが邪魔になる。同じように主人公を好きになると言う事は、心の奥では気が合うのかもしれない。
迷うことなく「す?」を選んだ。
「……っ、すげぇ笑えるって言ったんだ!ばーか!」
攻略は間近だ。
☆☆☆
莉心から電話がある
「ん?こっち?こっちはあいかわらずだよ。……うん、…うん。えー、そりゃ大変だね。そうなんだー」
さらさらと攻略メモに攻略情報をメモりながら会話をする。
一、二時間話した。
昼
「お嬢様、お嬢様!」
「騒がしいわよ、一体何の騒ぎなの?」
「お嬢様、お父上様が……!」
「何ですって!?」
ちょっと(?)ヤンデレ気味の忠誠心の厚いハイスペック執事ボイスのアラームとちょっとばかしお嬢様ごっこをする。
用意していた昼ご飯を食べる前についでにSNSの経験値を貯めておく。
昼ご飯を食べながらPCで乙女ゲー情報をチェックしておく。
☆☆☆
「ぐ、ぐはっ……」
私の目の前で槍に突かれたライドが、雨でぬかるみになった地面に崩れ落ちる。
私は駆け寄ってライドを抱えると、胸から血がとめどなく溢れているその傷口を見て思わず目をそらしてしまった。
「ふ、ふふ。ちょっと無理し過ぎちまったかな……」
「馬鹿、しゃべんないでよ。傷口が開いちゃうでしょ」
「こんくらいの傷、今さらどうってことねえよ。……それよりも聞いて欲しいことがあるんだ。
随分、遅くなっちまったがな」
「そんなことより、今衛生術師(回復が専門の魔法使い)を……」
一枚絵表示
ライドが主人公の腕を引き、必死な表情で引きとめている。
「……ッ!そんなことじゃ、ねぇッ。いいから聞いてくれ。俺は、どうしてもッ……お前に伝えなきゃ、いけねぇことがあるんだ。俺はっ、お前の事が……」
SE)ちゅどーん、ちゅどーん
「……っきゃあっ!」
「小春っ!」
残念ながら、主人公の名前だけオフボイスである。
敵が唱えたメテオスオームが私のすぐ近くにまで降ってくる。
ここは危ない。私がなんとかしてライドを守らないと。
「何を……しているんだ?」
「決まってるでしょ、仕方ないから、あんたを背負ってあげるの」
「ばっ……そんなこと、誰も頼んじゃいねえよ!いいから、お前だけ逃げろ!もうここは……危険だ……」
「あんたこそ何を馬鹿な事いってるの!放って置くなんてできるわけないじゃない!」
「お前って、そういう奴だよな……。だから、俺は……。いいからもう行け!お前の顔なんかみたくもねえよ!」
「ライド!あんたって奴は!」
選択肢出現
何も言わずにライドを背負いあげる
「あんたが嫌でも私が好きなの」
「私だって、あんたのことが嫌いよ」
小春はライドの性格を見切って「私だって、あんたのことが嫌いよ」を選択した。
そして、私はライドを有無を言わせず背負う。
「おい、嫌いなんだろ。だったらなんで……っ!」
「あんたのことなんて嫌いよ。大嫌い。そうやって軽口叩いたり、大見栄切って痩せ我慢したり、いっつも私の事からかったりして……。でも、そんなあんたが……。
あんたがいなくなると、張り合いなくなんのよ。……そんな世界に私一人残ったって仕方ないじゃない」
「……小春」
「いいからついて来なさいよ。この大魔導士小春様が、あんたも含めてこの世界を救ってあげるんだから」
「……ばっか、お前。自分で大魔導士と言う奴があるかよ」
エンディングはすぐそこまで来ている。
☆☆☆
ここまで既読率、複数の選択肢、セーブデータを駆使しながら小春はゲームを進めてきた。
ライドのパートはスペンサーの横恋慕イベントがあったりしてなかなか複雑であった。
今まさにフィナーレを迎えようとしている。小春は欠伸をした。ちょっと根を詰めすぎたか。
気分転換に他のゲームをする。
☆☆☆
非日常の中の日常 体験版
「あ、あれ……?」
私は一瞬歪んだ景色を見たはずなんだけど。
そこにはいつもと変わらない景色。通学路のままだ。
「気のせい、だよね。」
疲れているのかもしれない。そう思って私はまた家に帰ろうと一歩踏み出したところだった。
「ッ!夢枕先輩っ!」
私が見たのは、今まさに右の角を曲がろうとする先輩の姿だった。
私の声に気付かなかったみたいで、先輩はそのまま角を曲がって行ってしまう。
「あ……」
仕方ないと思い、そのまま先輩が行った道の前を通り過ぎようとした時だった。
「え……?」
グオングオングオーン!
突然左の方からものすごいエンジン音が鳴り響く、振り返るとクレーン車が私に向かって猛走してくる所だった。
「きゃ、……きゃぁあああ!」
私はなすすべもなく、その場にうずくまる。
その時だった。
「何を呆けている、この凡人が!」
「せ、先輩?」
顔を上げると夢枕先輩が迫りくるクレーン車の前に何かを持って立ちはだかっていた。
「フンッ!」
ガギャアアアアン!
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薄紫の長髪をたなびかせた夢枕先輩がクレーン車を蹴っている。
まさに衝突するであろう時、先輩は臆することなくクレーン車に向かって思い切り蹴りだし、クレーン車は10メートル先に吹き飛ばされて行った。
「え、……一体何が起こったの?」
呆然とする私をよそに、先輩は何事もなかったかのようにその場を立ち去ろうとする。
「せ、先輩っ」
「なんだ?凡人」
「あ、あのっ。助けていただいて、ありがとうございましたっ」
私はあわてて立ち上がり、お辞儀をする。
「別に?……あの程度の事なんということでもない。それよりもボーっと突っ立ってお前は何をしていたんだ?迷惑だ。即刻その場から消え去れ。以上だ」
「せ、先輩。すみません」
なんだか先輩がいつもと違う感じがする。
先輩が手厳しいのはいつものことなんだけど……。どうしてかな?
「あ」
私は、違和感の正体が先輩の得物が原因だったことに気付いた。
「先輩。それ、どうしたんですか?」
「ん?これか?…何を言っている。一個人一トンファーは世界の常識だろうが」
「はぁ……」
もしかして、さっきのクレーン車を退けてくれたのはそのトンファーのおかげなのかな。
思い切って聞いてみる。
「先輩、そのトンファーって」
選択肢
「いい物干し竿になりそうですね」
「それよりいい天気ですね」
「だが断る」
小春はすごく悩んだ。
どれも余すところなくひっかけにみえる。
仕方が無いのでクイックセーブをし、「だが断る」から潰していくことにした。
「言うようになったではないか。よし、ついてくるがいい」
なかなかの好感触に不思議を覚え、好感度を確かめる。
35%増えている、だと?
正解だったのかよぉおおおお!と小春は心の中で叫んだ。
さすが問題作といわれてるだけのことはある。
☆☆☆
その後も順調にゲームをクリアしていった。
アラームが鳴った。
「おーぅい!メシだぞう!飯メシィッ!あーもうなんっか腹減ったなぁ。早く来ないと、お前の分、くっちまうぞー!へへっ」
わんぱく系幼馴染の声で小春はもう六時になっていることに気付いた。
「おーぅい!」ピッ
夕食をとり、寝る支度を整え、攻略具合を確かめる。
もちろん、SNSの経験値を貯めておくことも忘れていない。
明日の準備もろもろを終えて、さあ再会といくことにする。
そういえば、とPCのメールをチェックしてみる。
「スラッシュラブファンタジー御予約の皆さまへ」
え?一体何があったのだろう?メールを開く。
ご好評により、システムの拡大のために発売延期とさせて頂くことになりました。
発売を楽しみにしていた皆さまには誠に申し訳なく……。という内容だった。
小春は訳知り顔で「はっはーん」とにやにやした。
きっといくらフィギュアのおかげとはいえ、思わぬ人気で制作者側がびびっているのだ。
ここまでの人気があるにもかかわらず、もしゲームの内容が伴わなかったら……と。
これは、思わぬ良い知らせが入ったものだ……。
小春の顔には悪者の親玉の様な笑みが広がっていた。
☆☆☆
私が姫で魔導士!?
「おやおや、せっかくの晴れ舞台だと言うのにあの方たちは……あいかわらずですね」
結婚式だと言うのに、言い争いをしている二人をみてスペンサーはため息をつく。
小春とライドは周囲を囲む人々が困惑するほど激しい口げんかをしながらも顔は幸せそうに微笑んでいた。
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白い花が舞い散る教会でウエディングドレスに身を包んだ主人公と白い結婚用の騎士服を着たライドが額を合わせて笑っている。
私は、この世界で生きていく。
この、ちょっと乱暴でお調子者のこの騎士様とね。
fin 大恋愛END
☆☆☆
「終わった……」
小春は背伸びをして時計を見ると夜中の一時を指していた。
これはやばい、と即座に布団にもぐりこむ。
すぐに睡魔が襲ってきて、小春は夢の中へと誘われて行くのであった。
読んで下さり、ありがとうございました。
まさか2作品目が外伝になるとは思いもよりませんでした。
章分けすると、最新話を投稿しても最終投稿日にならないんだぜ……!
「この作品は○ヶ月以上の間…」が出るのが怖かったので分離。(多分出てた 4月某日)
そしてせっかくなのでおまけを第一話に掲載しました。
こっちから本編を読もうと思っている方もいるかもしれないから(検索にひっかかる的な意味で)あとちょっとだけ。
こっちが面白いと思ったら本編も読んでみてね!
では、また。