一回戦、待ち受けるは対の兄妹
試合前、カイとルミナスは待合室で待っていた。
ルミナスは、カイの手の震えに気づいた。
「…何?緊張してるの?」
と聞く。
「ああ。あの親子に言った手前だ。勝たないといけないのは分かってる。だが…直前になると緊張しちまってな…」
ルミナスは、水を一口飲み、
「私だってそうよ。でも、そんなんじゃ戦えないわよ。やるからには、楽しまないと」
と言い、待合室を出ていく。
「楽しむ…か」
フッと笑い、ルミナスの後を追う。
会場は熱狂の渦に包まれていた。
ダレンとリーフも見に来ている。
『まだ怒ってるのか…』とリーフが心の中でため息をつく。そして、手に持っていた饅頭を、
「ダレン、僕いらないからあげる」
と手渡す。
ダレンは、
「マジ!?ありがとう」
と嬉しそうに頬張る。
リーフは心の中でガッツポーズをして、ダレンの真隣に座る。そして、カイとルミナスの登場を待つ。
ーー試合開始直前
2人は何も言わず、鉄格子の向こうに見える試合を無心で眺める。しかし、その目には力が宿っている。
歓声が上がった後、頭上の拡声器から、
「ルミナス選手、カイ選手、スタジアム中央へお進みください」
とアナウンスされる。
2人は無言のまま、歩いていく。
スタジアムは、ラ・兄妹一色となっていた。
「完全アウェーだな…臨むところだ」
「この試合が終わる時には、私達がホームよ」
と呟く。
対戦相手の兄妹は、赤と青が対になるように、兄・ヴィルが、髪も瞳も赤、妹・ヴィルが髪も瞳も青色一色になっている。
4人は握手をし、
「準優勝の実力見せてもらうぞ」
「俺達兄妹の実力、見せてやるよ」
「18歳なのね。私と大して変わらないのね」
「えぇ。でも、同い年だからって手加減はしないわよ」
とお互いに声をかけて、離れていく。
そして、お互い向き合って、睨み合う。
「さあ、盛り上がってきましたAブロックも、いよいよラストの勝負となりました!」と実況の声が聞こえる。カイは目を瞑り、精神を統一する。観客の声がだんだんと小さくなり、聞こえるのは、自分の鼓動と、実況の声のみ。「Aブロック一回戦最終試合……ready go!」
ゴングが鳴りひびいた瞬間、4つの魔力がぶつかり合った。
カイとルミナスは、打ち合わせ通り、ヴィルとヴェルを切り離し、カイとヴィル、ルミナスとヴェルで、1v1で戦い、短期決戦で決めることに。
ーーカイとヴィル
ヴィルが、手を振り上げると、カイの足元から、火柱が立ち上がる。
「っ!」
カイは慌てて下がり、火柱を避ける。しかし、その背後にヴィルが回る。そして、カイの背中目掛け、拳を振るうーーもカイとヴィルの拳の間に、見えないクッション状の物ができ、カイまで拳が届かない。
「お返しだ!」
とカイがヴィルに蹴りを入れる。ヴィルは、ひょいとかわし距離を取る。
「お前、操作系だろ?」
とヴィルが問う。
「ん、まぁな。かく言うお前は、火を操る、みたいなことじゃないのか?俺とは相性悪いぞ」
と言う。
「ああ、俺の能力は火を自在に操れる能力、スラッシュフレイムだ。」
とまだいい、火の玉をカイに向かって放つ。
カイは、その火の玉を避け、
「ありきたりだなぁ。そんな能力で俺に勝てるのか?」
と嘲笑う。
しかし、ヴィルは、薄笑いを浮かべ、余裕の表情。
カイが、違和感を抱いたその時ー
「ボォン!!」
と音がする。
「何の音?」
と音の方に振り向くと、
カイの背中に、避けたはずの火の玉に直撃し、苦痛の表情を浮かべている。
「っ!ーーカイ!」
とルミナスが叫ぶと、ルミナスの左手が一瞬にして凍る。
「ーーッッ!」
見ると、ヴェルの周りの空気が冷えて、凍っていく。
「よそ見は禁物よ」
ヴェルが言うと、ルミナスの左手の氷が広がっていく。
「…貴方達、本当に兄妹?能力が真反対の性質だけど…」
「能力なんて関係ないのよ。それ以上の繋がりが私達にあるの」
とヴェルが鼻で笑う。
「そう…なら、私達が、それを上回るしかないわね」
と言うと、ヴェルの視界の左から、火を纏ったカイが走ってくる。
「なっ!?お兄ちゃん、倒しきってないじゃない!?」
「おいおい、よそ見は禁物なんじゃないのかよ!?」
とカイが叫び、ヴェルに切り掛かる。
ヴェルは、一合交わした時、カイの体には、火がついてなく、唯一火を喰らっていたのは、背中部分だけだということに気づいた。カイと火の間には、空気の層がある。
「……あなた、さては、空気を操る能力…でしょ」
カイが、ふっと笑い、
「流石準優勝だな…そう、俺の能力は、空気を自由自在に操る能力…エアーブレイカーだ。」
ヴェルは、後ずさりして、距離を取る。一旦距離をとって、技を発動しなければーー
そう思っていると、いきなり、カイとルミナスが同じ方向に走り出す。その先には、ヴィルがーー。
「お兄ちゃん!!」
ヴェルが叫ぶも、声が届く前に、カイの拳がヴィルの顔に入る。
「お前ら、魔力を共有してるんだろ?喰らってみて分かった。全く性質が一緒だ。それなら…」
「私達2人で、どっちか1人を痛めつければ良いのよ!」
とヴィルに向かって集中砲火。ヴェルが急いで助けに向かう。しかし、共通で使っている魔力が弱まっているため、ヴィルを2人から引き離すので精一杯。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「あぁ…だが、もう持たない…"アレ"で勝つぞ」
ヴィルとヴェルが手を取って立ち上がる。
カイとルミナスが身構えると、二つの魔力がぶつかり合う。
炎と氷ーー普通起こり得ない事象に、空間が歪み、強大なエネルギーが生まれる。カイが、
「流石の俺でも、流石に助からないかもしれねぇ!
どうする…」
と言いかけると、ルミナスが、左手に、日本刀のような剣を持って、前に出る。
「は!?アレにぶつかれば助からねぇぞ!良いのか!?」
ルミナスはあっちを向いたまま、
「私の能力が味方したの。この勝負、私たちの勝ちよ」
と言う。
「何言って…」
とカイが言いかけると、ルミナスが続ける。
「私の能力は、光の粒子から、武器を創り出す。何が出来るか私には分からないし、どんな能力が武器に宿っているのかもわからない。でも、今回は…」
とまだ言うと、居合い切りの姿勢をとる。
「私達!」
「俺達の!」
『全力を喰らえッッッ!!』
とラ・兄妹が叫び、強大エネルギーが剣の形となってカイとルミナスに飛んでいく。
ルミナスは、エネルギーが目の前まで来た瞬間、
刀を振り抜く。
エネルギーは、真っ二つになり、カイの横へと吹き抜けていく。
「どんなものでも斬ることができる、古来の刀」
とルミナスがカイに向かって言う。
カイは、ただ、あんぐりと口を開けて見ていた。
ーー試合後
「お疲れ!2人共!」
とダレンが言って、2人の背中を叩く。
「とりあえず、二人が勝って、僕安心したよ」
とリーフも、息を吐いて言う。
「背中は痛いんだけどな…」
「私はまだ左手が上手く動かない…」
と、口々に言うカイ達。
「でも、最後はぜーんぶルミナスに持ってかれちまったな、カイ」
とダレンが茶化す。
「ウルセェよ」
とカイがこづく。
4人は、そのまま、観客席に座る。会場の熱気は、冷めやむことなく、試合が進行している。
「さあ、試合もいよいよ本日ラストゲームとなりました!Bブロック、第一回戦最終試合、ライ、アレンコンビ、対するは、般若、朱雀コンビ!」
最終試合にして、会場の熱気は最高潮。
『二人がここで負ける…わけねぇか』
とカイが心の中で呟く。
ゴングが鳴り響くと共に、ライと朱雀が前に出る。
耳をつんざくような声援。鎬を削り合う音が、スタジアムに響く。隣に座るダレンの声が聞こえない程だ。
「まだ両方、能力を発動させて無いね」
リーフがカイに言う。
「能力ってのは、トランプのジョーカーと一緒だからな。切り札だから、あんまりバンバン使ってくもんじゃない。」
とカイが答える。
見ていると、ライが、徐々に朱雀を詰めて行く。
一歩一歩詰めていくごとに、歓声が湧く。
「よし。そのまま押せ」
カイが無意識で呟く。
「よし、もう一息だ!」
観客が叫び、ライが剣を振り上げた時、ガチッ、と何かがはまる音。
「う、動かねぇ…」
ライがうめく。
「見ろよ!あれ!」
観客が叫ぶ。見ると、巨大な青い火で生み出された龍がレンの剣を咥えている。
「懐がガラ空きだぞ」
朱雀がその隙に、ライの腹目掛け、剣を突く。
観客が悲鳴を上げる。
「ぐっ…剣を離すわけにはいかねぇ…ならッ!」
と叫び、ライは、左に身を捩る。剣先はライの脇腹を掠めて、空を切る。そして、剣を放し、朱雀を蹴って、距離を取る。
「チッ。剣を渡しちまったな。」
とライが悪態をつく。
朱雀が、ライに近づきながら、
「私の名前は朱雀。他の青龍、玄武、白虎を創り出すことができる。貴様には避けることも防ぐこともできない」
と言う。
ライは、傷を押さえながら、
「ふん。面白くねぇな。わざわざ自分から能力を開示しやがって。勝ったつもりか?」
と悪態をつく。
朱雀は、
「舐めているわけでは無い」
と返す。
ライは、
「舐めてるだろうが…」
と小声で言い、
「なら俺だって教えてやるよ」
と大声で言う。
そして、髪を掻き上げた後、
「動くな」
と言う。
すると、水に打たれたかのように、朱雀の体が動かない。
「なッッーー」
「びっくりしたか?俺の能力は、言葉の具現化と事象への干渉。俺のこの舌から放たれた言葉一つ一つに、俺が魔力を流し込めば、俺の言葉が本当になる。そういうことだ。だが、良いことばかりじゃねぇ」
とまで言うと、自分の左胸を指す。
「たまーに俺の心臓にピキッてダメージが入ってる感じがする。血を吐いて倒れて、数日気を失うことだってしばしある。まあそういう恐ろしい能力だ。
と言うことで……"眠れ"」
とまで言うと、朱雀が倒れ込む。
「ゴホッッゴホッ……悪いな。出番短くて」
と言い、アレンにタッチ。
「やっと僕の出番だね!」
と元気よく良い、飛び出す。立ち向かうのは面を被った般若。
「小僧が、私に勝てるとでも?」
と嘲笑い、アレンの拳をあえて素手で受ける。
すると、
「バチッッ!」
と大きな音を立てて、般若の手の平が焼ける。
「あんた、僕のこと舐めてかかったでしょ。僕、"天才"だけど、大丈夫?」
と笑う。そのまま、般若を蹴り飛ばす。蹴られた部分も、音を立てて焼ける。般若の体は、スタジアム中央から、端の壁にぶつかる。歓声が上がる。勝負あったかと思われたが、般若は立ち上がる。
「なるほど…炎の能力か…」
と呟き、腰に刺す刀を手に持ち、剣道のように構える。その体から、魔力が溢れ出る。
「ふふん。ここから全力だね」
と、鼻歌混じりに呟く。
そして、中央で、剣と刀が混じり合う。観客から見ると、残像と火花のみが見えるだけ。
十合、二十合、三十合ーー
さっきまで叫び、応援していた観衆も、カイ、リーフ、ダレン、ルミナスも、固唾を飲んで見守っている。
ライも、何も言わず、ただ見ている。
3分ほど経った、その時ーー
アレンの剣が、魔力を帯びた刀に折られる。
「私の能力は刀に魔力を帯びさせ、その魔力もまたチェーンソーのように刀を回っている。つまり、どんな固いものでもぶった斬ることができるということだ」
とまで言うと、刀をアレンの首目掛け、振り抜く。
観客が悲鳴を上げる。
カイも、
「アレン!!避けろ!!」
と大声で叫ぶ。
だが、アレンは、折られた剣の柄を構えると、光の剣身が生まれる。
「あんた、僕の能力が火の能力だと勘違いしてる?
違うよ。全く違う」
と言うと、ジャンプして下がる。すると、べっと舌を出す。そして、
「動くな」
と呟く。すると、朱雀と同じように、動きが止まる。その隙にアレンが説明する。
「俺の能力は、俺が今まで会ってきた人達の模倣した魂を降霊させる。つまり、口癖、性格、そして能力が俺の肉体に一時的に刻まれる。ほら、ライ兄の魂を降霊させたから、一人称が"俺"でしょ?」
と言う。観客が、ざわつき始める。
「え?降霊って…」
「そんなの最強じゃね?」
「どんな奴でも太刀打ちできなくないか?」
アレンはそのまま続ける。
「…でも、ライ兄と一緒で、僕の能力にも欠陥があって、相手の能力とか、性格とか、どれだけ熟知できるかによって、魂の精度も変わるんだ。だから、初対面のあんたの魂を降ろしても、能力は特には使えないね」
と言い、動けない般若に近づく。
「…あんたら二人揃って、ライ兄の能力よく聞くんだね。面白いくらいだよ。じゃあ…"眠れ"」
と言うと、般若もやはり、倒れて眠りこける。
その瞬間、試合終了のゴングが鳴る。
観客が歓声を上げ、アレン、そしてアレンを担ぐライを祝福する。カイも、立って、拍手している。
やがて、遠くにいるカイに気づいた、ライが、
「やったぞ」
と言う代わりに、カイを指差す。カイも、拳を突き出す。二人の間には、強く、また、確かな友情が芽生えようとしていた。




