第8話 敗北
今日はグリフォン討伐。
相手は空から襲ってくるから、上の方を見ていた。
特に500メートルぐらい先の壁になっている岩場。
「ぐがっ!」
いきなり腹に一撃を食らった。
もちろん、宿を出る時に防御魔法は掛けてある。
地面を転がり、そして止まった。
「殺す気で攻撃したのにな。しぶとい奴だ」
男の声。
なんとか立ち上がる。
みると、蛇みたいな雰囲気の奴が、立っていた。
「レスティガー、やめて!!」
フェアフェーレンの知り合いらしい。
どんな関係かは知らないが。
「婚約者にたかるハエを潰そうとしただけだ。ああ、飛べないから、うじ虫か」
こいつは敵だ。
「【レーザー】。 やったか?」
レーザーの光は速いから、目では追えない。
レスティガーはレーザーで穴が開いたり、火や煙が出たりしていないようだ。
ノーダメージという奴か。
「俺に敵うと思ったのか? お前の魔法言語はイサム言語だよな」
イサムってことは勇か。
日本人を知っている。
異世界転移者が俺だけだと思ったのが間違いか。
「ニホン語だ」
「そうだな、ニホンはイサムの故郷だったよな。1000年ぐらい前の人物だが、シャール語の元となった言語を伝えた人物だ。知る奴はほとんどいないが」
くそう、過去に異世界転移者がいたんだな。
どうりで日本語の言語戦闘力が低いはずだ。
異世界で日本語を俺しか知らなければ、3大門派より言語戦闘力が高くなる。
3大門派の門下生の数はそれなりにいると推定できる。
「フェアフェーレンとどんな関係だ?」
「婚約者だよ。もっとも、フェアフェーレンは生贄妻だがな」
生贄の言葉は看過できない。
「何だそれは?」
「門派同士の取り決めだよ。不戦協定を結んでる」
「人質という奴か」
「ちょっと違うな。技術交流のひとつだ。フェアフェーレンはうちの門派が使えない秘術とも言える魔法をひとつだけ知っている。他の秘術魔法は知らない。俺とフェアフェーレンの子供達にフェアフェーレンはその秘術魔法を教える。教えたら用済みだ」
その後にどうなるかは考えたくない。
「許さん!」
「俺に勝ててからほざくのだな【……】」
レスティガーが小声で詠唱。
俺の腹が燃え炭化した。
「ぐわっ!」
時間差で激痛が襲ってきた。
レーザーを撃たれたようだ。
「殺すつもりだから、べらべらと教えてやったんだよ。次は手足だ。徐々に削ってやるよ」
「レスティガー、止めは私が刺す。シゲ、ごめん。苦しまないようにするから。【魔薬生成】」
シャール語だから、フェアフェーレンのスキルだな。
俺は倒れて動けなくなった。
だが、死んでない。
レスティガーが俺の脈を取る。
「ふん、心臓が止まっているな。生贄妻でもフェアフェーレンは門主の娘だな。妾の子とは言えな。足掻くために新しい魔法をいくつか作り出しただろう。結婚したら、みんな搾り取ってやる」
「私が新しい魔法を開発したってなんで知ってるのよ!」
「生贄妻はいつも逃げたがる。だから、どの門派の生贄妻も似たような行動を取る。そういう新しい魔法も嫁入り道具のひとつだ。秘術魔法とは比べ物にならないだろうがな。門下生の褒美にそういうのはちょうど良い」
「くっ……」
レスティガーとフェアフェーレンはどうやら立ち去ったようだ。
足音が遠ざかるのが聞こえた。
俺って死んでるのか?
アンデッドって訳か。
まあ、良い。
フェアフェーレンを助けるチャンスができるのならな。
どうやったら動けるんだ?
喋ることもできない。
瞬きさえ無理だ。
呼吸もしてない。
痛みとか苦しさはない。
そして、半日。
冒険者が俺を見つけた。
「まだ温かいぞ! 街まで運んでやろう!」
そして、治療院らしき場所に運ばれた。
「死んでいるが、生きている。不思議な患者だね。腹の炭化した箇所も治りつつある。体温も問題ない。これはどこかの門派の秘術かな。このまま放置だね」
眠ることはできるようだ。
何日か経った。
目蓋が動く。
手足はこわばっている。
「あぁぁぁ」
「患者さんが、生き返りました! 心臓も動いてます!」
今なら分かる。
フェアフェーレンが助けてくれた。
魔薬生成のスキルで仮死状態にして、腹の傷の回復もしてくれたようだ。
情けない。
守ると言っておきながら、この体たらく。
涙が出そうだ。
門派の幹部みたいな奴はあんなに強いのか。
しかも、1000年前の古代語の知識もある。
魔法言語は魔法の肝だから、研究に手は抜かないのだろうな。
言語のあらゆる文献を読んでいるに違いない。
そうか、シャール語の元は日本語か。
そう言えば思いつくことがたくさんある。
ひらがな、カタカナと同様の文字の文字数が一緒。
感じみたいな物もある。
日本語にはない物もあるが、重なる物は多い。
発音と文字の形が違うだけだ。
恐らくシャール語はイサムが日本語を元に作ったのだろう。
日本語を隠すためにな。
シャール語を教えたか、盗まれたかして、広まってしまった。
昔は魔法言語として、活躍したのだろうな。
全て、想像だが、そんなに違ってない気がする。
日本語は駄目だ。
日本語を呪文にしたのでは、レスティガーとその門派に勝てる気がしない。
どうせ、当分、リハビリだ。
考える時間は腐るほどある。
フェアフェーレンのことを思うと焦るが、焦ったら駄目だ。
門派の結婚ともなると、噂が聞こえてくるはず。
レスティガーの情報も調べないと。
門派の幹部なら、名前ぐらい知られているだろう。
敵を知らなければ戦えない。




