第6話 魔法のレクチャー
冒険者ギルドに併設されている酒場に場所を移した。
大学でも会社でもそうだが。
大学なら、講義のノートと過去試験のデータなどがある。
会社ならマニュアルだ。
いきなり見せてくれは不味い。
おごったりして、見せてもらうのが、良い手段。
痛い出費だが、無駄にはならなかった。
そういう選択は間違ってなかったと思う。
「飲み物と、軽い食べ物をおごるよ。好きに頼んでくれ」
高そうな料理がないのは、壁に貼られた料理名と値段で確認済み。
「やった! お姉さん、果物のジュースと、バタートースト!」
「俺は、お茶!」
「はいよ!」
料理と飲み物が運ばれ、魔法のレクチャーが始まった。
「言っておくけど、あなたは大した魔法は使えない。理由はこれから説明するね」
「あまり期待してない」
「魔法の威力と効率を決めるのは呪文に使う魔法言語の神秘性と、規則の複雑さと、表現の多様性」
「なるほど」
「順番に行くよ。神秘性はその魔法言語をある程度、熟知してる人間の数。少なければ少ないほど良い」
「理解した」
「規則の複雑さは、文法などの複雑さよ。物の個数とかの数え方は物によって変わったりするでしょ。そういうのも含まれるの。複雑になるほど威力と効率が上がる」
「理解した」
「表現の多様性は、とにかく名詞や動詞が多い言語ほど良い。他にもあるけど、だいたい解るでしょ」
「まあな」
「だから、薪に火を点けるぐらいなら、シャール語でも十分。ただし、1流魔法使いが使う魔法言語の50倍は魔力を使うけど。やりかたはスキルの発動と一緒。魔力を込めて唱えるだけ」
「分かった、スキルで感じを掴んでみる。【文字置換】」
――――――――――――――――――――――――
文字置換スキル
┌──────────┐ ┌──────────┐
│ ▼│→│ │
└──────────┘ └──────────┘
[☆]
ここに入力または貼り付け ▼
[♯]
置換
――――――――――――――――――――――――
問題なく発動したな。
「これって、フェアフェーレンにも見える?」
「スキルのメッセージとかは他人には見えない。スキルや魔法を使っても無理。思考を読むのはできるけど」
見えないのか。
メモ代わりに使えると言ってたな。
秘密の文章を保存できるのは覚えておこう。
――――――――――――――――――――――――
文字置換スキル
┌──────────┐ ┌──────────┐
│あいうえお ▼│→│かきくけこ │
└──────────┘ └──────────┘
[☆]
んんんあいうえおかかかかかかか ▼
[♯]
置換
――――――――――――――――――――――――
思考入力は便利だな。
『[♯]』これが変換開始らしい。
ぽちっと押したいと念じる。
――――――――――――――――――――――――
文字置換スキル
┌──────────┐ ┌──────────┐
│あいうえお ▼│→│かきくけこ │
└──────────┘ └──────────┘
[☆]
んんんあいうえおかかかかかかか ▼
[♯]
んんんかきくけこかかかかかかか
――――――――――――――――――――――――
表示のあいうえおの文字がかきくけこに変わった。
問題ないな。
さて次だ。
「【点火】。あれっ駄目?」
「魔法言語登録しないと駄目よ。神に魔法言語登録を願い出るの。魔法言語登録ってスキルを唱えるみたいにやったら良い」
「【魔法言語登録】」
――――――――――――――――――――――――
魔法言語登録
┌────────────────────┐
│登録魔法言語名 │
└────────────────────┘
✒
※魔法言語はひとり1種類までです。
――――――――――――――――――――――――
うん、1種類までか。
――――――――――――――――――――――――
魔法言語登録
┌────────────────────┐
│シャール語 │
└────────────────────┘
✒
※魔法言語は1人1種類までです。
――――――――――――――――――――――――
で決定と思われる『✒』をぽちっと。
――――――――――――――――――――――――
魔法言語登録
審査中です・・・
――――――――――――――――――――――――
「結構掛かるでしょ」
「ああ、長いな」
「戦闘中に切り換えるのは無理だから」
10分ほどで認められた。
「【点火】。ごっそり魔力が減ったな」
ロウソクの炎ほどの大きさの火は点いたが、みるみる魔力が減る感覚が感じられた。
「でしょ。日常会話を魔法に使うのはそんな感じ」
「魔法言語を教わるのはどうしたら良い?」
「無理ね。だって、神秘性の問題があるからね。どこの門派もコネと、大金を積まないと。解るでしょ」
「まあな」
「門派に入っても、魔法言語のほんの一部を教えてもらうだけで、大金が要るのよ。かといって討伐依頼なんか行くと、ライバルに先を越されて破門よ。破門になると契約魔法を掛けられて、教えてもらった魔法言語は一言も口に出せなくなる」
「世知辛いな」
「裏技もいくつかあるんだけどね。呪文をなんとか盗み聞きして解析する。ただし、ばれたら門派に殺される」
「ありそうな話だ」
「魔法言語解析はダンジョン攻略みたいなもの。絶対に最奥に到達できるようになってる。それが、魔法言語の絶対的ルール。解けない魔法言語はない。ただし、かなり大変」
「そうだろな」
「自分で魔法言語を作る。これもかなり大変よ。規則と表現が少ない言語だとシャール語の方が何倍もまし」
「解析も新言語創造もどっちも手間と時間が掛かるってわけだ」
「最後に警告よ。3大門派のミステル、ハンフ、シュトゥルムフートの呪文を盗もうと思わないことね。そういう、意識を向けただけで、警戒魔法に引っ掛かるのよ。最悪殺される。他の門派も間抜けではないから、そういうのはやめた方が良いわ」
ちょっと、試したいことがある。




