13 都市伝説 口裂け女は実在した
学校が終わると、俺は真っ直ぐ家に帰るのではなく、スーパーへと歩みを進めていた。理由はもちろん。キャンプに持って行く菓子類を買うためである。
結局のところ、友人関係を作らなければ学園に入った意味がない。冷静に考えれば、彼女だって友人から徐々に関係を深めるのが一般的だろう。
今回のキャンプ。同性、異性、両方の友達を作ることが最優先だ。
「小学校か……」
小学校。俺は通ったことがないが、名前の通り、高校より小さいな。柵だって、すぐによじ登れそうだが、子どもにとっては、大きく見えるものか。
小学校を眺めているうちに、屋上が目に入る。そういや、昨日の件どうするか……
キャンプがあるから余計なことに首突っ込みたくないが、あの魔法陣が消えたってのは妙だ。自然消滅したというより――
(あの後、何者かが消しにきたってのが、一番ピンとくるな)
クソッ。こんがらがってきたな。そもそも、あれにどんな効力があって、何を企んでいたんだ?
あの変態者共を取り仕切ってた奴がいるのは確定だとして。フランツが言ってた変態者と関係あるのか?
「ねぇ…………」
「ん?」
小学校を通り過ぎて、少し歩いた先で女性に話しかけられる。長い髪で俺より背が高いが、顔を覆い被さるほどのマスクをしている。
「私…綺麗?」
「………………」
いきなり、話しかけてきて聞いてくるのがそれかよ。しかも、マスクのせいで顔なんか見えねぇし。
「悪いが、急いでるんで」
一応、断りを入れるとその場からスッと去る。変なのに絡んでるほど暇じゃないんだ。ポテチは何を買うか。塩、コンソメ……帰国子女アピールで、サワークリームオニオン……
「私……綺麗?」
女は俺の後をついて来て、同じことを尋ねてくる。やばい奴ってどの国にもいるんだな。
「私……綺麗?」
「うるせぇな!!綺麗って言やいいのか?」
あまりにしつこいので思わず、大声で吐き捨てると、女は俯いてしまう。何で俺が悪いみたいになってんだ、この女。
「そう…………じゃあ――これでもぉぉ?」
女はマスクを外すと、耳辺りまで裂けた口が露わになる。
事故かなんかの後遺症か?そこはいいや。頬骨が目立つが、それ以外は特段大丈夫だろ。
「傷がコンプレックスなら医者に相談しろ」
第一、マスクのせいで肌が荒れて――ん?ハサミ取り出した?
「なるほど……不審者の類いかと思ったが、変態者なのね」
女は俺に向かってハサミを突き刺そうとしてきたが、難なく回避する。しかし、女が踏み込んだ地点を見ると、コンクリートの地面がえぐれてしまっている。
「速さは……昨日の蜘蛛よりはマシか」
力特化というよりは、バランス型かな。ハサミは市販の物?あの口には何かあると見ていいか?
「まぁ…………」
「!!」
素早く懐に入り込むと、持っているハサミを奪う。裏拳を一発、顎に当てたあと、奪ったハサミで女の両目を突き刺し、視界を奪う。
「い゙や゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」
「うるせぇっつってんだろ!!」
女の顔面に全力の一撃を入れ、ハサミを破壊する。
にしても、あの蜘蛛どもといい、張り合いがなさ過ぎる。あっても困るが。
そういや、小嵐が言ってたのに特徴が当てはまるな。口裂け女、だったか?その後のショックで忘れてたけど。
都市伝説の類いとして広まってる種類の変態者か。吸血鬼や雪男に近いものだな。
「女の子だろ。強く立ち上がれ!」
拘束はめんどくさい。あと2、3発ぶん殴って気絶させてから、Z.M.Zに連絡を……
「恐怖を以て……憎悪を以て……恥辱を以て、闇より壊し給え」
「あ?」
何、ブツブツ言ってんだ?と思っていたが、様子が違う。口裂け女が何かを呟き終わると、両手に半透明の青白い炎のようなものを纏い始める。
「何だ、あれ?」
炎かと思ったが、違う。揺らいではいるし、立ち昇ってもいるが、メラメラとしていないと言ったら伝わるだろうか。見た感じ、炎の質感じゃあない。
だが、電気とかのエネルギーでもない。
「どんな能力だろうが、まともに作用する前に潰せば……」
口裂け女は拳を振りかぶると、地面に狙いをつけて、一撃、殴りを入れる。結果は先程の踏み込みの比ではない。コンクリートの地面は抉れるどころか、派手に割れて衝撃波が俺の頬を乱雑に響き渡る。
「なっ……!!」
なんつー力だ。あの女。まともに喰らったら、ヤバいな。だからこそ、攻めあるのみ、だが。
「次はどこを仕留めるか」
あの派手な一撃で瓦礫と砂埃が宙に舞っている。視力が封じられた牽制に見せたんだろうが、裏を返せば……
「再生能力はそこまで高くないってことだろ」
思った通り、奴は未だに瞼を閉じている上に、俺が殴った時の傷も完全に癒えていない。
「次はその頬骨、砕いてやるよ!」
口裂け女に聞こえるように、デカい声と足音を鳴らしながら、走り出す。
わかりやすく反応したな。俺の声の方向に構えやがった。このまま、顔面を取りにいく?ナンセンス。腕?危険だ。低位置からの足?及第点。なんなら、奴も予測してる可能性がある。
狙うなら…………!!
「ワタ、ワタシ……ワタシワタシワタシワタシ」
口裂け女は壊れた機械のように、ブツブツ言いながら、向かってくる紫電を迎撃するため、準備をする。視力は未だ、戻っていない。そんな中、研ぎ澄まされた感覚を以て、彼女は両手のエネルギーを右足に集中させる。
顔、腕、胴、足。考えられる攻撃パターン全てに対処するため、口裂け女は足元のコンクリートを抉りながら、瓦礫そして衝撃波を交えた蹴りで迎撃する。
蹴った先は、コンクリートの破片が飛び舞っているが、仕留めた手応えがない。
「脳天直撃…………!!」
口裂けが蹴りを行う前に、俺は上へと飛んでいた。蹴りもとい、衝撃は空振り。
視界が無いことに加え、全力の一撃後の硬直。これらを加味した上で、防御無しの脳天への踵落とし!!
「顔より、性格直せよ。アホが」