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12 甘味か苦味か


「なかった?配電盤の中だぞ?」

 

 昼休み。俺はZ.M.Z(ザムザ)から昨夜の件について電話で受けていた。

 曰く、屋上に残っていたのは、変態者2人の遺体だけで、紫電が見た魔法陣のような謎の物は見当たらなかったという。


「……切るぞ」


 クソッと電話を切った後に吐き捨てるが、軽く深呼吸をして冷静を保とうとする。


「あれ?無名(むみょう)くん、食堂行かないの?」


 通りかかった小嵐風音(こがらしかざね)が声をかけてきた。


「いや、今行くところだよ、小嵐さん」


「ハハハハ!そんな畏まらなくていいよ。呼び捨てでオケ!!」


 両方の手で丸を作ると、口元に添えてニコッと笑みを浮かべる。まさにjkって感じだ。


「了解した。そういや、小嵐。この学園って何か都市伝説とかあるのか?」


「えぅ!?いやぁ……私、怖い話とか苦手だからさ…………」


 そういや、幽霊苦手とか言ってたな。


「でも、有名なのだと口裂け女とかは?」


「何それ?」


「うーんと、学校の帰り道に話しかけてくるおっきいマスクした女の人」


「それ不審者……」


 いやいやと小嵐は首を振って説明する。


「ハサミ持ってずっと追いかけてくるんだよ!私なんか小学生の時、怖くていつもべっこう飴持ち歩いてたもん!」


「へぇー」


 よくわからんが、あの魔法陣に関する情報はなさそうだな。


「と こ ろ で!無名くん、今週末空いてる?」


 話題を変えたいのか、小嵐はパンと手を合わせて予定を聞いてくる。


「特にないけど」


「!じゃあさ!小鳥と雲雀(ひばり)秋水(しゅうすい)も合わせた大勢でキャンプに行くんだけど無名くんも来なよ!!」


「キャンプ?」


「うん!キャンプって言っても、泊まるのはコテージだけどね」


 男女混合でのキャンプ……良い。

 蜘蛛になる変態の相手した上によくわからん物体を発見したせいで、イラついてたがようやく青春らしいイベントがきたぞ。

 そういや、魔法陣(あれ)がなくなった影響か?昨日、感じた不愉快な違和感が今日はないが…………まぁ、今は置いておこう。


「俺は何を用意すればいい?」


「必要な物はみんな準備し終わってるから、特に大丈夫だよ!あっ、でも……」


 小嵐は手を口元に当て、目を細めるとニッ!とした笑みで囁く。


「お菓子とか持ってきてくれたら、私喜んじゃうな〜」


 神よ…………

 これまでの人生。戦いに明け暮れ、変態者だの何だのを倒し続ける日々。今、思うとクソみてぇな思い出だな。

 だが、ようやく報われる時が来た。


「なら、余分に買っとくよ」


 といっても、女子と会話して、ちょっと優しくされてぐらいで好きになる程、俺は単純じゃない。確かに明るくてスタイルの良いモデルのような子だが、そんな勘違いはしないぞ。

 が、それはそれとして彼氏いるのかくらい確かめよう。もちろん純粋な疑問としてだ。


「おっ!風音、噂のエリートともう仲良くなってんのか?」


 1人で勝手に感極まっていると、何というかいかにもな正統派イケメンが話しかけてくる。

 こいつ確か資料で見たな。名前は――


「無名くん、このバカは……」


「バカって何だよ。ゴホンッ!俺の名前は上条駆(かみじょうかける)。よろしくな!!」


 上条は、心なしか笑顔がキランと輝いて見えるくらい、清涼感の溢れる雰囲気を醸し出している。


「無名紫電だ」


「雲雀の従兄弟なんだってな?俺たち、あいつと幼馴染なんだよ」


「そういえば、無名くんにはまだ言ってなかったけ」


 幼馴染……生まれながらの勝者のみが賜れるというあれか。俺がこの先、悪魔に魂を捧げようが、実質手に入れることのできない代物…………

 羨まし死ねとはよく言ったものだ。


「そうだ、駆。無名くんも今度のキャンプ一緒に行くことになったから」


「おお!そりゃ、楽しくなりそうだな!!」


「どうも。続きは食堂でしないか?」


「あー、悪い。先約がいるんだ。また今度ってことで!このバカ女頼むわ」


「はぁぁ!?バカ女って何!バカ女って!!」


「お前もさっきバカって言ってたろ。コイツ昔からこうなんだよ」


「この!」


 小嵐が上条の腹を軽く殴ると、上条は小嵐の髪をワシワシと動かす。


「ったく……俺もう行くからなー」


 上条が去ると、小嵐の表情はどこか拗ねているような感じになっている。


「もぉぉ……勝手に髪触るなっての…………」


 ブツブツ文句を言っているが、別に嫌ではなさそうだ。というかむしろ…………


「付き合ってんの?」


「?!!イヤイヤイヤイヤ!!ないないない!!ただの幼馴染!家が隣同士で……それで…………その腐れ縁だから!!!」


 小嵐の顔は一気に真っ赤になると、全力で否定し始めるが、言わずもがなである。

 神よ…………何故、こんな仕打ちをするのです。

 ここまで精神的外傷(ダメージ)を負ったのは、お気に入りの飯屋の店主がゾンビになってた時以来か。


「そう……見えた?」


 小嵐は頬を赤く染めながら、上目遣いで聞いてくる。


「まぁ……何となく…………」


 答えると小嵐はパァァ!とした表情になる。例えるならひまわりのような笑顔だ。


「えへへ……えとね、私の片想いであの3人も知ってるんだけど、無名くんから見て、どのくらい()()()()かな?」


 純粋な子どものような期待した目でさらに尋ねてくる。

 俺は一瞬、言葉を選んだが――


「あの感じだと、全然あるんじゃねぇの?」


 逆に考えろ。これもある意味では青春の一つだ。ちょっといいなーと思ってた子にいい感じの男がいる。思春期の男子の大半がおそらくは通る道だろう。


「!そうかな!?なんか自信湧いてきた!!」


「そいつは良好」


「ありがとね。無名くんのこと誤解してたかも。あとでジュースとか奢ってあげちゃう!」


 いや、もう苦汁飲まされたんで大丈夫だ。

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