11 魔に導かれると書いて魔導
「それじゃ、解散やな。お前ら、気をつけて帰れよ」
「真夜中とはいえ、信号は守るんだぞ」
「みんな、また明日ね」
「ちょっと!!待って!!」
雲雀、秋水、小鳥の3人が口々に別れを告げることに風音は待ったをかける。
「みんなで帰ろうよぉぉ!!」
風音は腕をピンと伸ばしながら、半べそをかいている。
「冗談だよ!風音ちゃん」
「にしても結局、化け物なんておらんかったし、骨折り損やったな」
「いないという証明にはなったろう?」
「まぁ、そうやな…もう遅いし、風音送って、ささっと帰るぞ」
雲雀は風音の頭をつつきながら、帰るよう促すが、小鳥は校舎を見つめながら立ち止まる。
「あれ…………?」
「?どうした、小鳥遊」
小鳥は屋上を指差しながら呟く。
「あそこに誰かいたような…………」
「きゃあぁぁぁぁ!!!」
風音は泣き叫びながら、雲雀に抱きつくと、腰を抜かしたようで足に力がなくなってしまっている。
「ムリ!ムリィィィ!!!」
「このどアホ!幽霊なんておるわけないやろ!!」
「小鳥遊、見えたのはあの屋上か?」
「う、うん」
「あそこの屋上は立ち入りが禁止されている。この距離に加えて、小嵐に当てられて見間違いしたんじゃないか?」
「そうだよね…………」
秋水に諭され、小鳥は半ば納得して歩きだすが……
「腰抜けちゃった……雲雀、おぶってぇ…………」
「お前なぁ…………」
そのやり取りを――屋上からひとり、紫電は見下ろしていた。
屋上の風は夜気を孕み、肌を刺す。紫電は柵越しに見える四人組の騒ぎを、羨ましげに眺める。
「何アレ、羨ましい」
雲雀におぶられると、その背中にひしっと抱きつく風音を遠目から見て、紫電は思わず呟く。
「Z.M.Zも呼んだんだ。雲雀が着く前に俺も帰るか」
最後にチラッともう既に息絶えた変態者2人を見て、屋上から飛び降りる。
――少し前まで遡る。
「俺の勝ちだな。情報吐け、殺されたかねぇだろ」
2人は一度、目を合わせると口を開く。
「僕たちがお前に話すことは何もない」
「私たちは屈しない」
紫電はため息をつきながら、逃げられないよう足を折るため、2人の元へと歩く。
しかし、変態者達の目や鼻から突如、血が流れ始める。
「!!」
「真糸」
「…………うん」
2人はお互いの手を握る。真糸と呼ばれた少年は少女の口元に手を当てる。両者ともに一瞬だけ微笑むとその場に倒れ、起き上がることはなかった。
「チッ!自決とはやられたな」
紫電は倒れた2人の死亡確認を終えると、Z.M.Zに後処理をするよう連絡する。
「バーカ。死ぬくれぇなら、女連れて逃げろよ」
少年に向かって吐き捨てると、配電盤を見つめる。
「口塞ごうが、何かはあるんだろ?」
トントンと人差し指で配電盤の蓋を叩きながら、耳を当てる。
「罠の類いはないな」
安全を確認し終えると、紫電は蓋を開ける。しかし、中から出てきたものは――
「何だ、これは………………」
配電盤を開けると、機械や武器などの物の類いではない。赤く輝く円が宙に浮かび、その内側には複雑な紋様――魔法陣と呼ぶほかない図形。
紫電は最初、ホログラムだと思い、手を通そうとするが、それにはちゃんと実体がある。
「どういう理屈だ……触れるってことはホログラム…じゃない。発生源はどこだ?」
周囲を探すが、それを発生させている機械のような物は何一つ見当たらない。
「これ単体で独立してるのか?エネルギーを高密度に集めているだけにしても、媒介がないんだ。能力でもないよな……ありえねぇぞ」
紫電の頭に1つの可能性がよぎるが、己が持つ知識がそれを否定する。
「魔法なんて存在しない」
コンッと魔法陣を叩くと、これの対処について考える。
「破壊は可能……だよな?というか、これで何をしようとしてんだ」
携帯で写真を撮ると、ぐんっと伸びをして、愚痴を吐く
「ハァァァ…………休暇中にどうしてこうなるかね……」