1 恋愛って何ですか?
物語の主人公という奴は、憎たらしいことによくモテる。同級生、後輩、幼馴染。それぞれ顔、性格、スタイル千差万別、十人十色、選り取り見取り選び放題だ。
だが、残念ながら俺はそういったモテ期なるものに突入しているわけじゃない。
「あそこだ!撃て!撃てぇぇ!!」
物語の主人公という奴は、羨ましいことに才能に溢れている。勉強、運動、容姿。まさに、才色兼備だ。
しかし、残念ながら俺にそのような才能があるかと聞かれたら、NOだ。
俺について端的に例えるなら……そうだな。量産型の人間だ。
「死にやがれ!!ガスマスクやろ――」
こちらに銃口を向けながら、走ってくる男の脳天を撃ち抜く。
「うるせぇ」
失礼。話を戻すが、俺は才能や出自が全てだなんて思っちゃいない。何もしなくても、何でもこなせる人間は稀にいるが、そんな例外知ったこっちゃない。
鍛錬、研鑽、経験を積むという努力をすることで、人は己が能力を高めていく。
「どこに行った?奴はどこに――」
暗がりの廊下。銃声が鳴り響いた壁には、いくつもの弾痕が刻まれている。銃を構えた敵兵達は焦りと恐怖で辺りを見回す。
その直後――俺は暗天井から背後に、音も無く降りる。
「クソッ……クソがぁぁぁ!!どこにいる!!」
男の頭に鉛弾がめり込み、背中からバタンッと崩れ落ちる。
もう一人の方には、心臓に銃弾を叩き込んで、終わらせる。
「終わりかな」
創作が好きだ。想像力が掻き立てられ、胸が躍る。さっき拾ったこの黄貝英雄著、「曼荼ラブラブ」なる恋愛漫画。
陰陽師の少年に一目惚れした主人公の女の子が、好きな彼と即身仏になるまでを描いた物語らしい。
こう聞くと、あれだが内容はかなり面白い。主人公が両親の反対を押し切って、坊主になり、寺の修行僧になるシーンは、感動ものだ。
「恋愛か…………」
ご生憎、俺は彼女なんてできたことがない。別に躍起になるほど、彼女が欲しいわけでもないが、こういう恋愛に憧れるのも事実だ。
「ハァ……ぐっ…………!余裕ぶってられるのも今のうちにだぞ」
「!驚いた、よく生きてるな。能力か何かか?」
確実に心臓を撃ち抜いたはずだが、死んでいない敵に思わず尋ねる。
「まだ俺たちには、ワイアットさんがいる……!あの人の能力ならお前は終わりだ!!」
「それ、あれじゃね?」
少し離れた先を指差すと、丁度よく、月明かりに照らされ、壁に力無くもたれ掛かっている髭面で角の生えた男が見える。
「…………あの人ですね」
漫画をパラパラとめくりながら、頭を撃ち、とどめをさす。
もう気づいてるかもしれないが、これは俺を中心に取り巻く、ラッキースケベ上等の甘酸っぱい青春イチャイチャ系ラブコメではない。
そう、この世界には、ファンタジーで出てくるようなドラゴンも吸血鬼も、今みたく、心臓を撃たれても死なない化け物も存在する。
ただ、この世界は言ってしまえば普通だ。サラリーマンは電車で通勤し、家電量販店はこれでもかと冷房が効いている。大半の人間が持っているのは、特別な能力でも魔法でもなく、スマホだ。
「続きは何巻出てるんだ?」
とどのつまり、何が言いたいのかというと、これは、化け物退治が得意な俺の話。
恋愛、青春、日常とは、ほどほど縁遠い俺が。戦場という非日常にいる俺が、そんなロマンティックにあこがれて、近づくため奮闘する。
――戦いの物語だ。