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気づいて欲しかった  作者: 咲葵
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33話 あの恋を忘れるために。

 中学生になってから、わたしはどうしてか蒼のことを変に意識するようになってしまって、うまく話せなくなった。話そうとすると、胸が苦しくなって、喉の奥がつかえたみたいになって、言葉が出てこなくなる。……恥ずかしくて、怖くて、距離を置くようになってしまった。

 三人で笑って過ごしてたあの関係を、わたしが壊してしまいそうで――怖かったんだ。

 休み時間になると、いつものように蒼が話しかけに来てくれる。でも、周りの視線が気になって、わたしはつい他の子たちの輪に逃げるようになった。ちゃんと話したいのに、できなくて、罪悪感ばかりが積もっていった。……そんな自分がイヤで、でも、どうしていいか分からなくて。

 気づけば、わたしはうわべだけの女子グループに混ざっていた。誰かが誰かを好きになれば、すぐに噂と妬みが飛び交うような場所。でも、その空気に馴染んでさえいれば、蒼と距離をとっていても何も言われない。わたしにとって、ちょうどいい“安全地帯”だった。

 ある日の放課後も、いつも通りその子たちと街へ出かけた。ゲームセンターで遊んでいたら、一人の子が見知らぬ高校生の男の人たちを連れてきた。その瞬間、わたしの胸の奥に、言いようのない不安がじわっと広がって――。

 ぐらり、と視界が揺れた。

 立ち眩みだった。近くのベンチに座って、額を押さえてやりすごそうとしたけど、みんなはわたしを置いて盛り上がったままどこかへ移動しはじめた。


「まって……」


 思わず立ち上がろうとしたそのとき、もっと強い眩暈が襲ってきて――次の瞬間、わたしの身体は床に崩れ落ちていた。

 ぼやけた視界の中、みんなの背中が遠ざかっていく。誰かと目が合った気がした。




 気づいたときには、見慣れた天井が目に映っていた。病室の独特な匂いがして、ベッドの周りには家族と、それから蒼と香織ちゃんの姿があった。

 病気のことを少しだけ話して、あとはたわいのない話をした。不思議と、そのときは、蒼とも自然に話せた。

 でも、みんなが帰って、部屋が静けさに包まれると――わたしはひとり、ベッドの上で声を殺して泣いた。

 担当の宮野先生は、わたしが中学生を迎えるのは難しいかもしれないって言ってた。けれど、わたしはちゃんと中学生になれた。それだけで、本当はすごいことなのに。

 だけど、どこかで思ってしまう。

 ――ここまでなのかなって。


「……まだ、生きてたいよ……」


 わたしはシーツの中で、ぽつりとこぼした。蒼ともっと話したい。恋がしたい。普通の女の子みたいに、笑って、悩んで、ドキドキして――そんな当たり前みたいな日々を、もっと生きていたいって、心から思った。

 だけど、その夜。わたしは、ひとつの覚悟を決めた。

 ――蒼のこと、好きになっちゃいけない。

 蒼は、ただの友達。きっと、ずっと、大切な“友達”。だって、わたしが死んじゃったら……蒼が悲しむのなんて、絶対にイヤだから。

 だから、わたしの恋は、ここで終わらせる。この胸の奥に、そっと、鍵をかけて――もう、誰にも見つからないように。わたしはそうやって、自分に言い聞かせた。




 病気に打ち勝ったわたしは、高校生になった。何気ない毎日が、あたりまえじゃないって知ってるからこそ、ひとつひとつがすごく大切に思える。――わたし、生きてるんだ。そう思えるようになってから、少しだけ自分に自信が持てるようになった気がする。前よりちょっとだけ強くなれた気もする。

 高校生になって、恋をしてる子たちがすごくキラキラして見えた。ふとした時に、胸がきゅうっとなるような――そんな感情に、わたしもまた触れてみたいって思った。そんなとき、わたしの前に現れたのが、樹くんだった。

 誰が見てもかっこよくて、モテるし、優しくて。だから正直、最初は「どうせわたしなんて相手にされないよね」って、どこかで諦めてた。でも……それでも、わたしはもう一度だけ、恋がしたかった。――生きるって、心が動くことなんだ。

 だから、ちゃんとわたしも心を動かしたかった。ちゃんと恋をして、ちゃんと人を想って、ちゃんと一歩を踏み出したかった。

 深い理由なんてなかった。ただ――「これが最後の恋になるかもしれない」って、ふと、そう思っただけだった。

 わたしは、あの想いから逃げるように、樹くんの後ろをひたすら追いかけた。本当の気持ちに気づかないふりをして、ただ前だけを見て走った。

 あの恋を忘れるために。


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