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気づいて欲しかった  作者: 咲葵
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11話 歩み寄り

 次の日の朝、スマホを確認すると、蒼と香織ちゃんからメッセージが届いていた。

 ——昨日、香織ちゃんに一方的に怒っちゃった……気まずい……。

 そんなことを思いながら、とりあえず蒼からのメッセージを先に開く。

『おーい。里見と喧嘩したんだって?さっさと仲直りしろよな』

 ——違うもん……喧嘩じゃない。ただ、わたしが勝手にストレスを香織ちゃんにぶつけちゃっただけ……。

 そう思いながら、なんとなくモヤモヤした気持ちのまま返信する。

『わかってる!怒』

 すると、すぐに返事が返ってきた。

『おー元気でよかった!』

 ——むかつく。むかつくけど……でも、やっぱりありがとう。

 深いため息をつきながら、今度は香織ちゃんからのメッセージを確認する。

『昨日はごめんなさい。もしよかったら放課後、また話したい』

 画面を見つめたまま、わたしの手がぎゅっとスマホを握りしめる。

 ——……わたし、最低だ。謝らなきゃ。メッセージじゃダメ。ちゃんと顔を見て謝らなきゃ。

 思い立ったらすぐに行動。いつもより早く支度を済ませたわたしは、スマホをポケットに突っ込み、勢いよく玄関のドアを開けた。

 ——絶対に、ちゃんと謝るんだから!

 そう心に決めて、わたしは朝の空気の中を駆け出した。


 勢いよく教室の扉を開ける。

 ——よし、いた!

 朝早い香織ちゃんと、わりと早めに登校している蒼は、すでに自分の席に座っていた。わたしは香織ちゃんの姿を確認すると、迷わず一直線に駆け寄る。

 気配を感じたのか、香織ちゃんが振り返る。わたしは彼女の前で立ち止まり、勢いよく頭を下げた。


「ごめんなさい‼」


 その声は思った以上に大きく響き、教室内のざわつきが一瞬止まった。隣のクラスからも「え、何?」みたいな声が聞こえる。


「ちょっとこっち来て」


 香織ちゃんは素早く席を立つと、短くそう言い放った。そして、椅子を引くと同時にわたしの腕を掴み、すごいスピードで教室を飛び出していく。


「えっ、香織ちゃん、ちょっ——!」


 ほぼ引きずられるように廊下を駆け抜け、たどり着いたのは女子トイレ。個室じゃなくて鏡の前のスペースに入ると、ようやく腕が解放される。


「咲葵、ちょっとあんた声デカすぎ」


 香織ちゃんは息を整えながら、呆れたように言った。


「ご、ごめん……まさかあんなに響くとは思わなくて……」

「それに、放課後って言ったでしょ」


 そう言われても、わたしはその言葉を無視するように香織ちゃんの両手をぎゅっと握りしめた。


「だって、香織ちゃんが謝ることなんて何もないもん! わたしが勝手に怒って、勝手に八つ当たりして、香織ちゃんはいつもわたしのために色々してくれてるのに……それなのに、わたし、香織ちゃんにあんなひどいこと……!」


 自分で言いながら、目の奥が熱くなる。鼻の奥もツンとして、もう少ししたら涙があふれそうになるのがわかった。

 すると、香織ちゃんがそっとわたしを抱きしめて、頭をなでてくれた。


「わかった、わかったから」


 やさしくて、温かくて、懐かしい香りがした。


「ごめんね、本当にごめんね……!」


 涙が止まらなくなって、わたしは香織ちゃんの制服に顔をうずめる。

 ——香織ちゃんは、いつだってやさしい。


「咲葵のためとか……私、そんなにやさしくないよ」


 香織ちゃんの声が、どこか寂しそうに聞こえた気がした。でも、わたしはすぐに首を振る。


「そんなことないもん。香織ちゃんは、やさしいもん」


 香織ちゃんが、ほんの少しだけ、ため息のように息を吐く。

 ——よかった。ちゃんと謝れた。香織ちゃんも許してくれたよね……?

 しばらくして、わたしたちは教室に戻った。ちょうど朝のホームルームが始まる直前だった。

 席に座ると、蒼がちらっとわたしの顔を見て、ニヤッと笑う。


「ちゃんと仲直りしたか?」

「……ん」

「よし、偉い偉い」


 そう言いながら、蒼がわたしの頭をぽんぽんと軽く叩く。


「なにそれ、上から目線」

「はは、まぁな」


 いつも通りのやりとり。でも、それがたまらなく心地よく感じる。

 よし、今日も頑張ろう。


 すべての授業が終わり、いつもの放課後がやってくる。隣の席の蒼が片づけをしながら言ってきた。


「いやー、それにしても朝のあれはすごかったな」

「うるさい、もう忘れて」


 笑いながら言ってくる蒼に、わたしはぷいっとそっぽを向いて返した。


「咲葵は素直だもんな。そこが一番いいんだよ。素直で明るくて、すぐ落ち込むけど、すぐに明るくなって。それも人一倍」


 いつの間にか近くにいた香織ちゃんと蒼が、並んでわたしを見てくる。香織ちゃんは黙ったまま、蒼だけが続けた。


「そこが咲葵の一番の魅力。そこに引きつけられて、俺たちはいつも一緒にいるし、応援してるんだ」

「そう」


 無表情のまま、香織ちゃんが静かに相づちを打つ。


「だから、いつも通りでいいんだよ」

「うん!」


 優しく笑う蒼につられて、わたしもいつもの笑顔を返す。すると、香織ちゃんがふと口を開いた。よく見れば、すでにカバンを肩にかけている。


「咲葵、今日は来るんでしょ?」

「うん」

「準備はできた?」

「あ、ごめん、まだだ。ちょっと待ってて!」


 そう言ってロッカーへ走っていき、急いで荷物をまとめる。


「おまたせー! できたよ、行こ!」


 カバンを持ち、香織ちゃんと一緒にバスケ部へ向かおうとしたその時——。

 ふと、あることを思い出した。


「ごめん、ちょっと待ってて!」


 慌てて振り返り、両手を顔の前で合わせてお願いする。


「いいよ」


 香織ちゃんがあっさりと了承してくれたのを確認すると、わたしはすぐさま教室の奥へと走った。

 驚いたようにこちらを見ている蒼に、わたしは少し小さな声で言った。


「ありがとう。わたしの恋が実ったら、次はわたしが蒼の恋、手伝ってあげる」


 自分で言っておきながら、なんかちょっと恥ずかしくなってしまう。でも、蒼はすぐには返事をしなかった。

 ——あれ? なんか変なこと言ったかな……?

 一瞬、蒼の目がわずかに揺れた気がした。でも、気のせいかもしれない。

 すぐにいつもの軽い調子に戻って、わたしの言葉を流すように笑う。


「……ああ、期待しとく」


 その声が、ほんの少しだけかすれていたことに気づいたけど、気のせいかもしれないし、わたしは深く考えずに微笑んだ。


「お待たせー、行こ!」


 そう言って香織ちゃんのもとへ駆け寄る。

 背後で、蒼が何か言いかけた気がした。でも、振り返らずに香織ちゃんと並んで歩き出した。


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