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ゴリ王子とダサドレス

「またここか……」


目が覚めると、また同じシャンデリアの光がまぶしく目に飛び込んできた。豪華なベッド、豪華なカーテン、そして窓から差し込む朝日。うんざりした気持ちで私はベッドに座り、目の前の鏡に映る自分を確認する。


「……嘘でしょ、今度は何これ?」


ドレスがまたさらに悪化していた。今度は、全体的に鮮やかなピンクで、腰には謎の巨大なリボンがドカンと鎮座。しかもスカートの裾には、意味不明なポンポンがついている。もう何を言っていいのか分からない。


「これ以上はないと思ってたけど……次元が違うわね。」


毎回、ループするたびにドレスがダサくなっていくのはどうして?誰がこの悪意のあるファッションデザインを担当してるのか、問い詰めたい。これじゃ、もはや「悪役」じゃなくて、ただの道化役よ。


「お嬢様、今日も舞踏会の準備が整いました。」


(『今日も』って、この子ループに気づいてるんじゃないかしら)


メイドのローラが静かに部屋に入ってきて、いつもと同じように私を見つめる。彼女には何も違和感がないのだろうか。このダサすぎるドレスにも。


「ローラ……ねえ、今日のドレス、これどう思う?正直な感想を聞かせて?」


ローラは少し戸惑い、恐る恐る微笑みを浮かべた。


「とても……お似合いですわ、お嬢様。」


「……うん、ありがとう。分かってたけどね。」


ため息をつきながら、私は舞踏会に向かう準備を始めた。どうせまた同じ展開だろうけど、今回はどう切り抜けようか。何か新しいことを試さないと、また追放エンドが待っている。


** 


舞踏会の会場に到着すると、いつも通り、貴族たちは優雅に踊り、笑顔で談笑している。私はその中に何とか紛れ込んで、ドレスの裾をつまみながら軽やかに歩くけれど、どうしても視線が釘付けになるのは、中央にドッシリと立つ王子レオンハルトの姿。


「……またゴリゴリ化してる……」


今回のループでも、王子の筋肉は更に進化を遂げていた。ちょっと前まではジェイソン・ステイサム風の渋めの肉体で、ギリギリ貴族っぽさも保っていたのに、今回はもう別次元。

肩幅が尋常じゃなく広がり、スーツがパッツパツなのよ!


「……これが乙女ゲームの王子様って、誰が信じるのよ。」


乙女ゲームの王子様って言えば、甘い微笑みでキラキラ輝く目とか、優雅に差し伸べられる手とか……なのに、ここにいるのは――もはや『ラオウ』。

貴族たちの優雅なダンスの中に、なんか一人だけ"ラスボス"が紛れ込んでるじゃない。いまにも「うぬは…」とか言い出しそう


(一体、どこで鍛えてるのよ……その筋肉、世界を支配するためなの?)


エリザベスはため息をつきながら、王子の胸筋がまたピクッと躍るのを見つめた。


「エリザベス……今夜も美しいな。」


王子の声は以前よりも低くなり、まるで筋肉の重みがそのまま喉に乗っているかのようだ。しかも、私を見つめるその目には、いつもの優雅な輝きがなくなり、ライザップのトレーナーのような真剣さが感じられる。


「ありがとう、レオンハルト様。でも、今日は少し違った話をしたいの。筋肉の話ではなくてね。」


私はなんとか微笑みを保つ。どうせまたこの後、マリアが登場して、同じセリフを繰り返し、追放されるのだろうけど…今回は少し工夫してみようか。


しかし、次の瞬間、どこからともなくあの声が響いた。


「エリザベス!あなたは王子に相応しくないわ!」


「……ああ、また来た。」


いつものヒロイン、マリアの登場だ。

彼女は何故かいつも風が吹いているかのように、その金色の髪を舞わせ、キラキラとした笑顔で私を非難する。毎回同じセリフ、同じ流れ。


ん?でも、今回は何か違う。よく見ると、マリアのドレスも徐々におかしくなっている。前回はまだ上品だったのに、今回はどうだろう?ゴールドのドレスに羽根が付いて、肩には無駄に大きな宝石がぶら下がっている。


「……マリア、その肩の宝石……重くない?」


私は半ば呆れながら聞いたが、彼女は気づいていないようだ。もはや彼女すらもこのゲームのループに巻き込まれ、変化している。


「エリザベス!嫉妬に狂ったあなたには、この王国にいる資格はないわ!」


「うんうん、聞き飽きたわよ。それに、嫉妬してないし、王子、ちょっとラオウだし。」


私が淡々と返すと、王子が一瞬眉をひそめたが、何も言わなかった。どうせ、また同じ展開になるのだ。追放宣言が待っているのは分かっている。


「エリザベス……君にはこの国を去ってもらうしかない。」


まただ。この展開、もう何度目だろう。王子レオンハルトの冷たい声が耳に響くたび、私は無意識に次のセリフを口に出してしまう。


「ええ、分かってるわ。どうせ追放されて、崖から落ちて、死んで……またこの瞬間に戻るんでしょ?」


レオンハルトの美しい眉がピクリと動く。毎度この追放宣言のタイミング、彼はちょっと眉をひそめて、完璧な王子然とした顔で言葉を吐くのがルールらしい。


「エリザベス、お前の行いは許されない。すぐに城を出て行け。次に会うときは——」


「ええ、どうせ次は、私はもうどこかで転落してるわ。……でも、結局こうして、またお会いすることになるのよ!」


私は目をぎらつかせて、王子の顔を睨みつけた。どうせ、また同じ展開になるんだもの。分かってる、もう何度も繰り返しているのだから。


レオンハルトは戸惑いの表情を見せるが、結局はいつも通り、無言で私を見送るだけだ。後ろでうるさいマリアが、「エリザベス様、私の邪魔をするなんて、なんて酷い方なんでしょう!」とか言ってるが、もう彼女に構ってる暇なんてない。だって私は、また死ぬ運命にあるのだから。


城の外に放り出された私は、意気消沈しながら一人歩く。ああ、また死ぬのか。何が起きるのかも全部知ってる。崖を歩いていると、足を滑らせて……


ズルッ!


「あ、来た来た!これでまた死んで……」


ゴンッ! 身体が岩にぶつかり、あっさりと意識を失った。



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