またループか、もう飽きたわ
今日もまた、私の人生を台無しにしようとするあの女主人公・マリアが目の前で大演説を始めた。
長い金髪を風に舞わせながら、キラキラと輝く瞳で私を見下ろしている。
ええ、分かっていますとも。これが、乙女ゲーム『花咲く恋の騎士たち』の定番のシーン。私はその悪役令嬢、エリザベス・フォン・シュバルツシュタイン。王子を取り合うマリアと毎回対決し、最終的には追放される運命なのだ。
だが、今日はちょっと事情が違う。
「またそのセリフ?いい加減飽きない?私はもう飽きたわ。」
そう、私はすでにこの世界の"悪役"設定に気づいている。だが、何故かシナリオ通りに進まないと、この世界はループするらしいのだ。しかも、ループするたびに服が微妙にダサくなっていく。
前回はドレスがレースの洪水みたいだったし、今回も背中に謎のリボンが10個も付いている。これ以上、ファッションにダメージを受けたくない。私だって悪役令嬢としてのプライドがある。
「エリザベス、あなたは王子に相応しくないわ!王子は私と運命の恋を…」
「うん、知ってる。毎回同じこと言ってるけど、運命ってそんな便利な言葉じゃないから。あと、そのドレス、どうしたの?フリル多すぎない?」
マリアの顔が一瞬ひきつったが、すぐにまた劇的なぶりっこポーズに戻った。
そう、この女はいつもこうだ。全てが大げさで、まるで自分が世界の中心にいるとでも思っているかのように振る舞う。
だけど私は知っている。彼女が夜中にこっそりチョコレートをむさぼる姿を——完璧なヒロインなんて存在しないんだ。
「エリザベス!あなたは嫉妬に狂っているのよ!」
「嫉妬?いやいや、別に王子に興味ないんだけど。ていうか、王子、ちょっと眉毛濃すぎて微妙だし…」
後ろで王子が咳払いをするのが聞こえるけど、もう慣れたもの。
彼も何度もループするたびに、だんだんゴリゴリのマッチョに進化してきているのが正直恐ろしい。もはや乙女ゲームの王子というより、戦士じゃないかしら。
「そうよ、エリザベス!あなたは王子を——」
「またそのセリフ?ねえ、そろそろ新しい展開にしない?このままだと、次のループでは私、トゲ付きのドレスとか着る羽目になる気がするんだけど。」
もう何度もこのシナリオを繰り返してきた。
私は悪役令嬢で、ヒロインはマリア。私は追放され、死ぬ。
でも、このループの中で、もしかしたらもっと自由に生きられる方法があるんじゃないか。私はこの「役割」に囚われ続けているけど、少しぐらい勝手に動いてもいいんじゃない?
「マリア、ちょっと提案があるんだけど。」
「提案……?」
私はにっこりと微笑んだ。どうせまた次のループでやり直しになるなら、一度ぐらい好きに生きてみてもいいでしょ?悪役令嬢だって、もっと自由に生きられるはずよ。
「というわけで、マリア。今日から、私は悪役令嬢を辞めるわ。好きに生きるの。まずは、王子も捨てて、もっと楽しい人生を——カフェでも開こうかしら。あなたもスイーツ好きでしょ?最初のお客様にしてあげるわ。」
「えっ……?」
マリアの驚いた顔は、最高のエンタメだった。彼女がどう反応しようと、もう関係ない。どうせまた、ループでやり直しになるんだから。
「悪役令嬢として生きるのもいいけど、もっと自由に……そう、自分の人生を楽しむために生きるってどうかしら?」
そう言い切った瞬間、突然背後から冷たい声が聞こえた。
「エリザベス……君にはこの国を去ってもらうしかない。」
「……何ですって?」
振り返ると、王子レオンハルトが凛々しい顔をして私を見下ろしている。……またこれか。
「エリザベス・フォン・シュバルツシュタイン、君の行いは許されない。今すぐに国外へ去れ。」
ああ、やっぱりか。追放エンドね。
結局、どんなに好き勝手に生きようとしても、私はこのゲームの「悪役令嬢」という設定から逃れられないらしい。
「……わかったわ。行くわよ、どうせまたやり直しになるんだしね。」
私は肩をすくめながら、城の外に向かって歩き出した。追放されるたびに思うけど、これで終わりじゃない。また、どうせループして戻ってくるのだ。次はどうやってこの運命を変えようかしら——。
その瞬間、いつものように、視界がぼやけて、世界が再びリセットされる。
「……またか……もう飽きたわ。」