番外編17〜この日以来〜
皆、皆、死んでしまえば良い。私は毎日呪詛のようにそう願っている。クラスメイトも教師も全員死んでしまって欲しい。病気でも事故でも、何か不幸な出来事が起きて、死んでいって欲しい。この世界から消えてしまって欲しい。ひたすらこんな事を願う私を世の中の【良い人】とやらは、そんな事言っちゃ駄目と言うのだろう。
...綺麗で正しくて反吐が出る。
人生が上手くいってる奴らの言葉だけが、この世界では正しいとされている。私のように、この世界に適応出来ない人の言葉は間違いなのだろうか。人と上手く会話出来なくて、人と同じ事が出来なくて、無視されて、虐められてしまう私の言葉はこの世界では悪なのだろうか。
自分で言うのもなんだが、それなりに私は真面目だと思う。この頭の良い学校では私の順位は低いけれど、勉強だって最低限はしている。そもそも、世間的に見たら、この学校に通ってるだけで私は十分優等生だろう。
性格だって優しい。人を傷つける言動なんてしない。そりゃあ、私だって人間だ。人を傷つける言葉を内心では思う事はある。でも、それを外に出した事なんて一度もない。なのに、私が何故こんなに苦しむ事になるのだろう。...いや。私は努力家でも真面目でもないのは実は分かっている。
勉強だけ出来て、優しければ真面目というわけじゃない。体育が苦手なら、運動もしっかり頑張る事が真面目。コミュニケーションが苦手なら人と話せるように、こっちから相手に近寄って沢山話しかける事こそが努力。私は真面目なように見えて、ただ努力から逃げているだけなのだ。きっと、この苦しみは努力不足な私への罰なのだろう。
いつも、私は苦しみから逃げる事だけを考えている。今日も校舎を歩いている時、ふと、窓を見た瞬間にそれが頭に浮かんでしまった。それをしたのなら、この苦しみが消えるんじゃないかと。何も考える事が無くなり、楽になるんじゃないかと。そんな考えが俄かに頭によぎってくる。私はいつもこの苦しみを終わらせる事ばかり考えているのに、未だにそれをしないのは私の事を大事に思ってくれる人がいるから。ただそれだけ。その繋がりだけが私をこの最悪な世界を繋ぎ止めている。
学校から帰り、家族と夕飯を食べ、バラエティ番組やニュース番組、テレビドラマを見る。きっと、この姿だけは、どこにでもある幸せな学生の姿だろう。家族の前だけは私は普通の学生でありたい。
「じゃ、私部屋に行くね。おやすみ。」
両親から、「おやすみ。」と返事が返ってくると、私は軽く手を振って、微笑む。
部屋のドアを開け、すぐに鍵をかけると、無造作に置かれていた部屋のリモコンを手に取る。つけっぱなしにしていた部屋の明かりを常夜灯へと切り替える。窓の外はもう真っ暗だが、遠くには他のマンションや一軒家の生活の明かりが目に入る。
私は開けっぱなしにしていたカーテンを閉めると、ベッドに入り、布団と毛布に包まる。考える事は一つだけだ。朝が来るのが怖い。布団の中で私が考えるのは、たったそれだけ。
あと八時間後には学校に行かなきゃ行けない。
あと七時間後には学校に行かなきゃいけない。
あと六時間後には...。
学校に行くまでの時間の事だけしか考える事が出来ない。だから、私は眠るのが怖い。寝てしまったら、一瞬で時が飛んでしまう。起きたら、私はまたあの地獄のような学校に行く為の準備をしなきゃいけなくなってしまう。それが怖くて私は眠る事が出来ない。
結局この日、私は一睡もする事が出来なかった。何があっても学校には行く。それだけは心に決めていたのに。ダメだ。睡眠不足もあってだろう、頭と体が鉛のように重い。今日は行ける気がしない。
親に駅に送ってもらった後、私は携帯端末からオンラインで学校へ欠席届を出す。これで今日は私は学校に行かなくて済む。ただ、これだけでは家に確認のために、電話がかかってくるかもしれない。
念の為、私は携帯端末から学校に電話をかけ、クラスと、出席番号と担任の名前を告げ、自分の母を装う。熱があり、体調が良くない為、娘は今日欠席しますと教師に伝える。
「お大事に。」
教師から心の底から全く思っていないであろう返事が返ってくる。私の声に気づかない時点でこの教師は私に興味などさらさらないのだろう。こんな稚拙なやり方だ。きっと、いつかは親にバレる日は来るだろう。でも、今は学校に行かなくて良いんだという事に私は心の底からホッとしている。それだけが今の全てだった。
この日以来、私は二度と高校に行く事はなかった。
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