第4章11話〜仲良いね〜
《アンタ、仕事は?》
昼過ぎにログインしてきたメズから、俺に個人チャットが送られてくる。俺はメズとフレンド登録しているわけではない。恐らく、ギルドメンバーの覧から俺がログインしている事を確認して、書き込んできたのだろう。
《今日は休みだ。》
レベリングパーティの真っ最中で、あまり長文では返せない為、モンスターを攻撃してる合間に端的にメズへと返信する。
先日の大型バージョンアップにより、新ジョブ、新装備、新エリア、新モンスター、新コンテンツが実装され、平日だというのにアバンダンド中どこもかしこも活気に満ち溢れている。
《今日も、の間違いでしょ。アルゴ、昨日も会社休んでたじゃない。》
細けぇ事を指摘してくる女だ。急に有給取ったわけでもないし、事前にちゃんと申請してんだから、バージョンアップ後くらい休みまくっても、今までクソ真面目に仕事してきたんだ。何も問題なんてあるわけがない。けどまぁ、こうやって休みを多く取っていると、いかに仕事に行かないのが楽かって痛感してくるな。いっそのこと、金も貯まってきてるしよ。仕事を辞めて、貯金がなくなるまでアバンダンドプレイし続けるのもありなんじゃなかろうか。んで、金なくなったらまた働くって感じの生き方も悪くねーんじゃないかと思う。ま、こんな事を考えたところで、実際する勇気はないけどな。何だかんだで俺は根は真面目なんだ。社会から逸脱するような真似なんて出来やしない。
《はぁ、アルゴの変な演説のせいで、ギルドに誰もいないじゃない。寂しいわね。》
《んじゃあ、寂しさ埋める為にメズもレベリングしとけ。レベル低いと幹部であっても、容赦なくネームドのメンバーから外すぞ。テレスの側近だから、自分は無条件でネームドメンバーに選ばれるなんて高を括ってんなよ。》
レベリングは一パーティ五人で組むのが基本だ。しかし、ユニークやネームドなどの強敵と戦う際は最大三パーティ、計十五人までが一つの部隊として組む事が出来る。つまり、今回のネームド狩りに参加出来るのは二十九人いるナイトアウルのメンバーの中、ほぼ半数の十五人までしか選抜されないという事だ。
残り半数のメンバーはネームド狩りで手薄となった防衛拠点が他のギルドに襲われる事も考慮し、領土防衛戦に専念する事になる。
《分かってるわよ。だから、就活終わって速攻で、アバンダンドに来てんじゃない。さっきまでスーツ姿よ。まったく。》
《...メズ、お前。まだ内定決まってなかったのか。そろそろ決まってねーと、ヤバい時期だろ。》
《うるさい、黙れ。》
顔採用がうんたらとは俺もあまり言う気はないけれど、あれだけモデル並、いや、それ以上にビジュアルが整っているのに、就職が決まらないのはメズの性格に難があるとしか思えない。
《面接で何やらかしてんだよ。メズの見た目で落ちる事とかあんのかよ?見た目だけなら、メズより上の奴なんてまずいないだろ。》
《私は何もやらかしてないわよ。問題なのはあっちよ、あっち。下心ありまくりで近づいてくる人事や採用担当多過ぎて嫌になるわ。裏で個人的に連絡先交換してこようとする奴のいる会社なんて、こっちから願い下げよ。》
《へー。マジであんのか、そういうの。美人は美人で大変なんだな。》
《ええ、余裕であるわよ。逆にそういう事しないマトモな会社は優秀な人しか取らないもの。私のように大した大学でもない人は、そもそも相手にされてないから、普通に書類選考で落とされるし。ほんと就活なんてクソよクソ。アルゴ、あんたの時はどうだった?》
《俺の時か。多分30社以上は受けたんじゃねーかな。人並み程度には就活やってるぞ。落とされると俺という人間を否定されてるようで、辛く思う事もあったけど、逆に結構面白かった事もあったな。》
《就活で面白い事なんてあるわけないじゃない。マジ狂ってるわ。ね、アルゴ。参考までに、一体どんな時に就活で面白いなんて感じたのよ。》
《就活で好きだったのは、そうだな。今でもグループディスカッションとかやってんのか?あれは超好きだった。喋れてねぇ奴に対して、なになにさんはどう思いますか?とか言って優しさを人事にアピールしつつ、突然の話題振りで攻撃しかけたりよ。司会とか書記とかタイムキーパーとか色んなロールあって、どうやってこいつら出し抜いてアピールするか、蹴落としたりするかの超戦略ゲーで面白くね?あれだけはもう一回やりてーな。》
《●ね、カス野郎。マジ最悪。二度とアルゴと話したくない。あんたみたいのいるから、私落とされるのよ。》
....どうやら地雷を踏んだらしい。メズとの個人チャットにフィルター処理され、文字化けしたお怒りの言葉が俺に送られてくる。
こいつGDで落ちてんだな。一対一だと普通に喋れる奴でも、集団になると話すタイミング掴めなくて途端に話せなくなる奴っているしな。メズはそういうタイプか。
俺は目の前にいるゴブリンにパラリシススティングを打ち、麻痺を入れつつ、メズに返信する。
《誰か言った言葉をそのままオウム返ししてりゃ良いじゃねぇか。私もまるまるさんと同じ意見で、どうこう思います。みてーな事適当に言ってりゃ良いだろ。とにかく、クソみてーな事でも量こなして発言してりゃ、それなりにGD通るだろ。》
俺がそう送ると、何分経とうがメズから一切反応が返って来なくなる。
...こいつ、俺の個人チャットブロックしやがったな。
『メズ。俺の個人チャット、ブロックすんじゃねぇよ!』
俺はメズに対して、ギルドチャットに書き込むと速攻で返信が返ってきた。
『ギルドチャットで言ってくんじゃないわよ!私が性格悪いように見えるじゃない!』
『個人チャット封じられたら、ギルドチャット以外他に伝える方法がねえだろうが。』
『まったく、うるさいわね。ほら、解除したわよ。これで良いんでしょ。』
ははは、ざまあみろ。口で俺と勝負して、メズが勝てるわけねーだろ。リアルでキィイイと金切声で発狂してるメズが目に見えるようだ。
《ふーん。アルゴちゃん、裏でメズちゃんと個人チャットしてるなんて仲良いね。》
...今度はメズではなくテレスから個人チャットが飛んできた。勢いに任せてギルドチャットに書き込んだのは失敗だった。ギルドチャットにテレスがいない事なんてないのは分かりきっていたというのに。
《結局、アルゴちゃんは美人の明るい子が良いんだよね。引きこもりのインキャメンヘラクソ女より、絶対にそっちのが良いもんね。》
この自己嫌悪モードに入ってしまったテレスは、かなりめんどくさい。ひたすら"私なんて"というメンヘラじみた内容の個人チャットが送られてくる事になる。
《やっぱり、私はアルゴちゃんと固定組むべきだったな。そうやって一人にさせてると、すぐ浮気する。》
そう書き込んでくるテレスのレベルは既に64になっている。現時点ではグレイトベアのザラシと並んでアバンダンドの世界最高レベルだ。仕事を休んでまでやりこんでいる俺がまだ58である事から、そのヤバさが分かるだろう。ただ、ナイトアウルにはテレス以外にも、レベル64のメンバーが他に四人いる。彼等はテレスと同様に二十四時間プレイ出来るプレイヤー達だ。普段テレスはこの四人と一緒に固定を組んでレベリングパーティをしている。俺も最初はテレスに固定でやろうと誘われたが、俺は休みを取るのにも限界がある為、テレスのプレイ時間を縛るわけにはいかない為に断っていた。
結局、このゲームはパーティプレイが基本で、ソロプレイでは経験値を殆ど稼ぐ事は出来ない。それでも、ソロでプレイをしたいと要望も少なからずあった為か、今回のバージョンアップで死霊使いという新ジョブが追加された。こいつはモンスターを使役する事で、一人でで擬似的にパーティプレイが可能らしく、ソロプレイでも多少は経験値を稼ぐ事が出来るようだ。ただ、俺はやはりMMORPGでまでソロプレイする気になれず、あまりこのジョブに興味はそそられない。
ゴブリンと戦いながら、そんな事を考えていると、個人チャットのログにテレスから更に何通もメッセージが送られてきているのに気づく。
《私の誘いを断ったのだって、メズちゃんと一緒にレベリングパーティ組みたいからでしょ。絶対そう。浮気だ。浮気だ。浮気だ。》
...このまま放置しておくと大変な事になりそうだ。このお姫様は本当に一人で頑張っていけるのだろうか。
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