第4章6話〜デートは楽しかった?〜
『それで、どうなったんだよ。』
俺のオフ会報告に、レグルがギルドチャットに書き込みをしてくる。
『それから、ちょっとベンチに座って、飯食いながら話して終わりだ。ひでぇ弁当だったが、値段とってるだけあって、味はまぁ悪くはなかったぞ。』
『ふーん。んじゃ、さっき見たそのダサいTシャツがステーキ弁当の特典なんだな。』
『おう。』
先ほどヴォルトシェル五層の大通りですれ違った時に、レグルが俺の姿を見て、「何だ、そのダサい格好は...。」と唖然としていた。
そう、今俺が身につけているのは、あのクソダサいTシャツと同じデザインの胴装備である。ステーキ弁当が目的だったとはいえ、特典としてDLコードも貰えたのだから、Tシャツを手に入れないのも勿体ねーからな。それに、なんだかんだいって、このTシャツはリアルイベントに参加しない限り、絶対手に入らないアイテムという事もあり、大人の財力をアバンダンド中に見せびらかしているというわけだ。
『こんなクソみてぇな服をリアルで着る度胸は無いが、ゲームでなら余裕で着れるな。現地に行ってリアルマネー払わない限り、手に入らないレア装備だし、皆羨ましそうにめちゃくちゃ見てきて、気分良かったぞ。』
『...サブマス、それ私とメズちゃんがリアルで着てて、恥知らずって言ってるんだよね?』
聞き捨てならぬと、ミラリサが静かに怒りの混じった文をギルドチャットに打ち込んでくる。
『そうは言ってはない。』
俺は多少慌てながらミラリサに返答するも、『んじゃあ、どう言う意味かいってごらん。』とドンドン詰め寄ってくる。
チッ。サバサバしてるようで、ミラリサも案外ねちっこいところがあるな。どう返信したもんかと考えていると、メズもこの話題に乗っかり書き込んでくる。
『てか、私とミラはリアルで一回着ただけで済んでるけど、アバンダンドでそれ着てると、リアルイベントに参加して、わざわざあの超高い弁当買ったんだ、この人ってアンタ思われてるわよ。そっちのがよっぽど恥ずかしくない?』
...なるほど。悔しい事に、その言葉に得心してしまうところもある。
『アルゴ、さっき皆羨ましそうにめちゃくちゃ見てくるって嬉しそうに書き込んでたけど、多分それ2000円以上出してTシャツ買ってる浮かれたアホと思われてるだけだからね。』
現地ではメズやミラリサの前で、運営に思考停止で搾取されてる馬鹿多過ぎだろとか思ってたけど、結果的には、俺も運営に洗脳された普通にいいお客様らしい。こう言われてしまっては、何だか急に着てるのが恥ずかしくなってきた。
『メズ、お前このTシャツ欲しいか?破格値で売ってやろうか?レア装備とかお前も好きだろ?』
『...いらないわよ。てか、それ取引販売所で売買出来ないどころか、譲渡すら出来ないし、もっと言えば、捨てる事も出来ないわよそれ。』
『...マジかよ。売ることもどころか捨てることもできねえとかロクでも無さすぎだろ...。』
―――
『他には何かないんか?』
レグルはナイトアウルの幹部なのにリアルイベントに参加しなかった事に引け目があるようで、珍しくギルドチャットに絶えず書き込みを続けている。かといって、俺もこれ以上話す事なんて殆どない。
『これくらいしかねーな。あとは時間になったら会場の中に入ってチケットに記載された座席に向かったけど、メズ、ミラリサ、ザラシとは席も離れてたから、入り口でさよならしたしな。それでイベント見て終わりだ。』
イベント自体は運営の人達のこれからのアバンダンドの方向性の話や有名ゲーム配信者達が次回バージョンアップで追加される新規ユニークモンスターと戦っているのが巨大モニターに映し出されてたり、何かよう分からん外国人の歌手を呼んで、このゲームのメインテーマをジャズ風に演奏したり、歌ってもらったりと、思ってたよりは結構面白かった。
ただ、レグルは俺の話に何となく納得いかないようで、オフ会の話を更に広げようと、俺に矢継ぎ早に質問してくる。
『それで終わりって...。なんかこうグレイトベアとのギルド同士の確執みたいなのねーのかよ。俺達の領土をいついつに奪いにいくとか。』
『んなもんねーよ。ザラシもただのおっさんだったしな。そんな抗争の宣戦布告みたいのなんて漫画やアニメの見過ぎだな。』
...ザラシは自分が生粋のニートだという事も容姿の事も別に周りに話しても良いとは言っていたが、一応ザラシ本人の名誉の為にその事は伏せておいてやろう。つーか、それバラしても良いとか、ほんとメンタル強すぎるだろ。何でニートなんかやってんだ。あの強靭なメンタルがあるなら、余裕で働けるだろうに。正直、仕事なんてメンタルさえ強ければどうにでもなるからな。人に迷惑をかけても動じない心の強さがあれば、いくらでもやっていけんだろ。
...しっかし、何ていうか今日はギルド全体がそわそわしているように感じて、落ち着かねぇなぁ。
誰もその事について敢えて書き込みはしては来ねーけど、メズ、ミラリサ、あと一応俺の容姿の事について聞きたいという雰囲気がひしひしと伝わってくる。女性プレイヤーの数が元々少ないアバンダンドだ。例によってナイトアウルも女性の比率はかなり少ない。そういう意味では、テレス、メズ、ミラリサの三人はこのギルドの華である。この三人のうち二人がリアルイベントに参加したと言う事で、ギルド中が気になっているようだ。なんだかんだいって、こいつらもネトゲ廃人の割にはリアルの事に興味があるらしい。ま、俺はそこらへんの事は、ぜってえ話さねぇけどな。知りたきゃ、自分で参加しろってんだ。
『もうっ!サブマス、他にも色々あったじゃん。それだけだと、超つまらなさそうに聞こえるって!ほら、フォトスポットとかあったから、並んで係の人に写真撮ってもらったりしたでしょ。』
『あぁ。そういやそういうのもあったな。』
俺自身はあんま写真とか興味ないから、すっかり忘れてた。人気モンスターの着ぐるみを着た人と一緒に写真が撮れるって事で並んだな。一応SNSには自分達の写真あげるのは良いけど、俺の写真はあげんなよとは二人には忠告しておいた。メズは、「言われなくても、あげるわけないでしょ!」と怒っていた。
そんな事を思い返していると、ギルドメンバーの一人である男ドワーフ族を使用しているカペラがギルドチャットに書き込んでくる。
『じゃあ、アルゴさんは、メズさんと一緒に写真撮ったんすか?』
いきなり何を言い出すんだこいつは。
俺が、んな、わけねーだろと返信するよりいち早くメズがギルドチャットに参加し、『なーんで私がアルゴと写真なんか撮らなきゃならないのよ。普通にミラと二人で撮ったわよ。』と書き込んでくる。
『いや、だって二人って仲良いし、オフ会ついでにデートしてきたんじゃないんですか?』
...いくらなんだって直球すぎる。俺も良い歳だ。こいつらの言いたい事を察するくらいは出来る。俺とメズの関係をそういう風に勘繰って見てくるメンバーが、少なからずいるのは何となく感じていた。
幹部同士という事もあって、何となくテレス、メズ、ミラリサ、レグルとは共に行動をする事も多い。特にギルドチャット上でもよく言い争いをしている分、メズとの会話量はかなり多い。だから、こういう目で周りから見られるのもしょうがないのだろう。
『するわけないでしょ。この変なオフ会関係なしに元々ミラと私はこれに参加する予定だったんだから。アルゴが来るのは後から決まった事だからそんなわけないじゃない。前からちょっと変な疑りの目で見られてるの分かってたけど、そんな事は一切ないからやめてくれる?アルゴにも悪いわ。』
やはり、俺同様メズ自身もそう感じていたところがあるようだ。ハッキリと否定の言葉をギルドチャットに書き込んでいる。かなりバッサリと冷たさすら感じられる言葉ではあるものの、俺とテレスの事をメズは知っている。だから、変な誤解を生まないようにこうやって一刀両断に切り捨てるのは、メズなりの優しさなのだろう。
けど、二人でいる時間で言えば、メズよりも遥かにテレスといる方が長いんだけどな。そう思われないのは、普段からのテレスの言動が影響しているところが大きいのだろう。演技しているとはいえ、いつもあわわわわわと、挙動不審な返答しかしていないテレスでは、恋愛とかそういうイメージが全くないのだろうな。
そんなある意味蚊帳の外となっているテレスが、俺達の会話を聞いて何をしているかと言うと、
《アルゴちゃん。現実のメズちゃんは可愛かったでしょ?》
テレスはギルドチャットの裏で、ずっとこんな内容の個人チャットを俺に飛ばしてきている。
この女、俺の事を振ったくせに、そういうところは気になるらしい。...とりあえず、ずっと無視しているが、あまりにもしつこ過ぎる。
『そういうことだ。だから、俺が写真を撮ったのはザラシとだな。』
《可愛いメズちゃんとのデートは楽しかった?》
『草 おっさん二人だけで写真撮って何が楽しいんだよ。せめて四人で撮れよ。』
《絶対ミラ達と解散したあと、裏で二人でツーショット撮りにいったでしょ。そのあとレストランで食事とか、小洒落たバーに言って口説いた後、絶対ホテルでえっちな事してるでしょ。私そういうの分かるんだ。》
『うるせぇな。俺もそうしたかったが、メズとミラリサは二人だけで撮りたいとかぬかすから、気を利かせてやったんだよ。』
《おーい。反応しろ。》
『当然じゃない。アンタと写真撮るとかあり得ないし。つーか、あれ超笑えたわよ。ザラシとのツーショットで、アルゴのあの超嫌がってる顔見ただけで、行った価値はあったわね。』
《私に告白しておいて、速攻二股とか終わってるよね。》
延々とテレスから、うんざりするほど電波じみた怪文書のようなメッセージが俺の個人チャットに送りつけられてくる。何がしたいんだよこの頭のおかしいメンヘラ女は。
《浮気者。》
...自分からメズやミラリサとファンイベ行ってきたらと、俺に勧めてきたくせに、いざ行ったとなると被害妄想垂れ流しとは、一体どういう神経してんだ...。
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