エピローグ①〜蛇足としか言いようがないそんな話〜
これは誰にも話す事のない、俺だけが知っている物語。大団円でアバンダンドを引退していったテレスの蛇足としか言いようがない、そんな話。
"アルゴちゃん、ナイトアウルをよろしくね。"
この言葉を俺に残し、この世界から引退したはずのテレスが何故かヴォルトシェルにいた。俺の目の前にいる彼女は引退した日と全く変わらない装備と姿で俺に話しかけてくる。
「こんにちは、アルゴさん。あなたの事を探していました。」
しかし、その声、その立ち振る舞い、彼女から発せられる何もかもが明らかにテレスのものではなかった。まるで、質の悪いホラー映画だ。
「アルゴさん。あなたに伝えなければならない事があります。」
彼女の姿をした人物の只事ではない雰囲気に、何かを予期した俺の背筋が凍りつく。そいつはテレスの姿で俺にゆっくりと語りかけてくる。そいつが話した事はあまりにも荒唐無稽で馬鹿馬鹿しい内容だった。だから、俺がそいつから話された言葉なんか絶対に信じる事はないし、未来永劫誰にも言う気はない。
話が終わると、そいつはあの時引退したテレスと同じように静かにこの世界から姿を消していった。大勢のプレイヤーが行き交うヴォルトシェルで残された俺は、これから俺がしなければならない事は頭で理解しつつも、長い時間一人逡巡したあと、メズを呼び出した。
「どうしたのよ、アルゴ。私を呼び出すなんて。なーに柄にもなく不安になっちゃったのかしら。大丈夫よ。私があんたを支えてあげるから、ギルマス頑張りなさいって。最後にテレスからアンタの事頼まれたのよ。ま、私とあんたの二人なら、これからもなんとかなるっしょ。」
メズは優しく俺に語りかけてくる。テレスは俺とメズでナイトアウルを運営していくのを願っていたのだろう。...けれど。
「悪い、メズ。俺はナイトアウルを引き継ぐのは、辞めた。俺は自分のギルドを作って出て行く。」
これは俺に彼女の悪意を向けさせる為の言葉だ。
瞬間。メズは大きく目を見開き、驚いたような顔をするが、みるみるうちにその顔は今までにないほど憎悪に満ちた目へと一変し、俺を睨みつけてくる。これで良い。
激しく俺を責め立てる言葉がメズの口からとんでくる。勝手な事を言ってるのは分かる。責められて当然だ。それでも、俺にはナイトアウルを引き継ぐ事は出来ない。
俺はあんな奴の言葉なんか信じてはいない。間違いなく、それはその通りなはずなんだ。けれど、ここにはテレスとの思い出があり過ぎる。ここにいる限り、呪いのように、あいつの言葉がずっと俺の前に立ちはだかってくる事だろう。ずっとここにいたら、俺がいつの日かテレスを信じられず、あいつの言葉を信じてしまう日が来るかもしれない。
...あいつから話された言葉を、いつの日か誰かにポロリと口走ってしまうかもしれない。だから、俺はここにいてはいけない。俺がナイトアウルを辞めたら、メズがナイトアウルを引き継ぐはずだ。けれど、メズはどう見てもリーダーに向いてはいない。恐らく、相当な苦労をかけてしまう事になる。失敗だってしまうだろう。重圧に押し潰されてしまうかも知れない。それを分かったうえで、俺はメズ、...沙耶にナイトアウルを押し付けていく。
悪いな。ただ、その代わりに俺はあいつの語った言葉だけは誰にも引き継がせはしない。俺の中で留めておくから。
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