番外編15〜何の話してたか聞いても良いですか?〜
「皆悪い!姉ちゃん、今親父に捕まって、ちょっと遅れそう。皆にごめんって言ってる。」
レンタロウが五つ葉のクローバーのギルド本部にログインしてくるなり、こう述べた。今日はユカちゃんのメインシナリオを進めようと言うギルドでの活動予定があったのだが、本人が来れないんじゃどうにも進めようがない。
まぁ、ユカちゃんの大体の年齢は察しがつく。その年代の女の子が毎日勉強はきちんとしてるとはいえ、毎日夜遅くまでオンラインゲーム三昧では、親も小言の一つくらいは言いたくなるのだろう。仕方のない事だ。
俺もメズもササガワもその程度くらいで腹を立てる事などない。オンラインゲームをしてりゃ、約束の時間に来れないなんて、日常茶飯事な出来事である。しかも、身内のレンタロウを除いた俺達三人はほぼ無限に時間が有り余っているのだ。別な事でもして、来るの待ってりゃ良いやくらいにしか思わない。
「了解。んじゃ、ユカユカちゃん来るまで、私ミルファでアイテム整理してるわ。良い?」
メズは待ってる時間を有効活用するべく、俺達に右手を挙げて、提案してくる。
「あいよ。んじゃ、ユカちゃん来たら、ギルドチャットに流すか、個人チャットするわ。」
「さんきゅ!んじゃアカウント切り替えてくる。」
メズはそう言って、手を振ると、五つ葉のクローバーのギルド本部から姿を消す。
ふと、周りを見渡してみると、当たり前だがギルドにいるのは俺、ササガワ、レンタロウの三人しかいない。
つまり、ここのギルドには今野郎だけしかいない。結構こういう状況は珍しい気がする。メズはかなり多くの時間アバンダンドをプレイしているし。ササガワも常にダンジョンにこもりがちで中々町に戻って来ない。だから、こうしてギルドに男三人だけが揃うってのは初めてかもしれないな。
現地でボイスチャットして、ギルドチャットで会話しない限りはメズにバレる事もないな。
「女達がいない間ぶっちゃけた話でもしようや。」
俺は二人に話題を振る。少し驚いたような表情のササガワとレンタロウだが俺が何を言いたいのか分かったようで、その誘いに乗ってきた。
「たまにはそういうのもいいですよね。」と、ササガワ。
「話題振ったんだから、おっさんから話せよ。」と、レンタロウである。
うーむ。俺から話題振ったは良いが、何も思いつかん...。
「そういや、レンタロウは親父さんから引き止められなかったのか?」
「んー。俺は特に捕まる予定ないし。親父もたまには姉ちゃんと話したいだけだしな。」
「そういう事か。」
「まぁ、姉ちゃんが最近バイト情報誌見てるから、それをきっかけに話ふっかけたんだろうな。」
レンタロウが顎に指を添えて、そう話し始めたので、俺は驚きの声を上げる。
「おいおい...。働くとか正気かよ。」
「良い歳になっても働かないおっさんの方が、俺は正気じゃないと思うぞ。」
顎を下げ、真顔でレンタロウが俺に向かって言ってきた。
なんて失礼な事を言いやがる。クソガキごときに何が分かる。...と言おうとしたが、こいつは学生やりながら、アルバイトまでこなしている奴だ。世間的には働かずゲームをしている俺より、バイトをしているレンタロウの方が格上だ。クソ、何も言い返す事が出来ない。
「ユカユカさん、バイトするんですか...。バイト先で恋人とか出来ちゃいそうですね。付き合ってるわけでもないのに、何だかNTRされた気分になりますね。」
ササガワはササガワで目に濁った光を灯らせながら、トチ狂った発言をしている。
こいつ頭の中大丈夫かよ。
「ササ。お前の発言もおっさん並に大概狂ってるな。」
レンタロウがササガワの発言にドン引きしている。まぁ、確かにササガワの発言には俺も賛同出来ない。
「ササガワ、それは違うぞ。」
俺は力を込めてササガワを嗜めるように言う。
「お前の言ってるのはNTRではなく、BSSだ。いわゆる僕の方が最初に好きだったのにという、何一つとして、意味のない惨めすぎる主張だな。ちなみに俺はNTRよりBSSの方が趣きがあって好きだ。人間らしくて良い。」
「さすがアルゴさん参考になります!」
ササガワが拍手しながら俺の主張を褒め称えている。
やはりこいつと俺は年が離れているとは言え、気が合うな
「お前らの脳みそほんと湧いてんじゃねぇのか」
それはそうかもしれない。
「ま、親父は姉ちゃんにバイトさせる事はねーだろうな。心配性だからな。変な奴が近づいてくるの危険視してるし、こづかい上げる程度で終わるんじゃないかな。」
「お前はバイトしてて良いのか?」
「まぁ、男だしな。割とそこら辺は心配じゃないんだろ。」
ふーん、と俺は鼻を鳴らす。
まぁ、当たり前だが家庭も人それぞれだなぁと思う。
この話題がひと段落したところで、「次は、僕から話題いいですか?」とササガワが話題を振ってくる。
「あぁ、どうした。」
「アルゴさんやレンタロウさんはどういう人が好みですか?僕は、皆さん知っての通りメズさんのファンなんですが。」
恋愛話か...。また微妙な話題だな。
レンタロウも、「女子会かよ...。」と呟き、俺はその話題はパスと言っている。
しゃあない。年上の俺は話してやる事にするか。この年代だと好みとか話すのも抵抗あったりするだろうしな。俺は素直に自分の好みを答えてやる事にする。
「俺の好みの女は、俺の生き方を否定しない人が良いな。あとは、ルッキズムと言われるかもしれないけど、ルックスが良いにこした事はない。」
「...おっさんのその生き方肯定してたら、人生終わるぞ。」
「うるせぇよ。俺の人生において一番大事なところなんだから、絶対に外せねぇポイントだな。あとはそうだな。ここも重要だ。」
俺のその言葉に二人の視線が俺に集まる。
「俺は俺を養ってくれる奴が良い。何もしないで生きていきたい。」
「...絶対そんな事言うと思ったよ」
―――
「んじゃ、最後は俺だ。おっさんとササガワは何部に入っていたんだ?」
最後はレンタロウが俺たちに二人に質問をぶつけてくる。
良い話題だ。俺は、すかさずその質問に答える事にする。見栄張ったってしゃあないしな。
「俺は帰宅部。」
俺の部活動を聞いて安心したのか、少し躊躇いがちだったササガワも俺の後について言う。
「お忘れですか?僕はそもそも学校に行ってません。」
俺達二人の回答にレンタロウは悩ましげにこめかみに手を当てている。
「おっさん達に聞いた俺が馬⚫︎だったよ...。」
んだよ、別に部活してなくたって良いじゃねえか。そういう青春もあんだろう。帰宅部の中には勉強してるやつもいるだろうしな。まぁ、俺は勉強なんて一切せず、ゲームと漫画と動画に青春を費やしたわけだが。
「んじゃ、そういうお前は何部だったんだよ。」と、俺がレンタロウに聞くと、「弓道。」と端的にレンタロウは答える。
「あー、良いね。弓道。なぁ、ササガワ。」
「確かに弓道部は確かに良いですよね。アルゴさん。」
良い部活選ぶじゃねえか、センスあるなと、二人して大絶賛している。多分ここら辺はササガワと俺は共通認識だと思う。運動部の中で、俺達が認めるのは弓道部と陸上部である。
「...おっさん達に高評価だと、なんかロクでもない部活のような気がしてきたんだが。」
「んだよ。真っ当な理由だからな?何故高評価かというとだ。俺の持論だが陸上部と弓道部は運動部のくせにオタクが多い。」
俺が胸を張って自信に満ちた態度で答えるのと対照的に、レンタロウは冷めた目を俺へ向けてくる。
「どうせ、そんなところだと思ったよ...。しかも、別に何かソースがあるわけでもなく、ただのおっさんの持論かよ。」
「まぁ、聞けって。」
確かにあくまでも俺の持論だが、結構当てはまってると思うんだよなぁ。
「だってよ。俺の高校時代、オタク趣味なんて皆無だった奴が陸上部と弓道部に入部したんだが、卒業時にはオタク丸出しになってたからな。部室の中でお前ら一体何やってんだよ...。」
「弓道部を怪しい部活のように言うんじゃねえ!別に普通に活動してっからな!?...まぁ、あのゲームやアニメの主人公弓道部だから憧れて入ったとかいう奴は正直結構いる。否定はしない。漫画とか貸し借りしたりする事もある。」
「やっぱいるんだな、そういうの。」
なるほどな。確かに弓道部のアニメやゲームのキャラクターって言うと結構思いつくかもしれない。オタクと親和性良いのかもしれない。
「んじゃ、陸上部はなんでオタクになってくんだろうな。陸上やってる二次元キャラクターなんてパッとは出てこないぞ。」
「何でなんでしょうね。現実で僕はアルゴさんくらいしか友人いないんで聞けません。」
「レンタロウ。お前学校行ったら、聞いてきてくんね?お前友達いっぱいいんだろ?」
「んな事、いきなり言ったら俺の頭がおかしくなったと思われんだろうが!!!」
そうレンタロウが叫ぶと同時に、ギルドに光と共にユカちゃんが現れた。
「すみません!遅れました!ごめんなさい!ってタロちゃんなんで叫んでるの!?私が遅れたから?」
自分が現れると同時に、弟が怒鳴っていりゃそりゃびっくりもするよな。
「あぁ、全然違うから安心しろ。遅れた事も誰も気にしてないから大丈夫。気にするな。」
俺は手と首を横に振り、ユカちゃんに違うと否定し、
『おーい、メズ。ユカちゃん来たぞ。』
ギルドチャットでメズの倉庫キャラクターであるミルファへと書き込む。
『了解。メズに戻るわね。』
メズも俺の書き込みにすぐ気づいたらしく、返信を送ってきたのを見て、ユカちゃんはメズにも謝罪の書き込みをした。
『ごめんなさい、メズさん。突然父に捕まってしまって。なかなか抜けられませんでした。』
『良いのよ。気にしないで。家族は大事にしないとだもの。じゃ、今から行くわね。』
「本当皆さん、すみません。大分待たせてしまって。」
真面目な性格のユカちゃんだ。俺達に何度も何度も頭を下げている。そこまで謝られると馬鹿話で盛り上がってたこっちもなんだか申し訳なくなってくる。
「本当に気にすんなって。こっちはこっちで、結構盛り上がってたからな」
ユカちゃんは俺の言葉に意外そうな顔を浮かべ、俺達三人に目を走らせる。
「そうなんですか?何の話してたか聞いても良いですか?」
「それは駄目だ。男同士の密談だ。」と、俺はかぶりを振る。
「訳がわかりませんね...。怪しすぎますよ。」
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