番外編14〜ギルドの運営費を決めようかと思います。〜
『ギルドの運営費を決めようかと思います。』
ユカちゃんが俺達五つ葉のクローバーのメンバー全員に向けて、こうギルドチャットに書き込んできた。
...なんてことだ。いつの間にこのギルドの財政事情はそんな切迫していたのだろう。領地すら持っていない五つ葉のクローバーでは、領土防衛戦もしていないから、ポーションや矢などの消耗品をそこまで必要とはしていないはずだ。...となると考えられるのは、
『メズ、横領は良くねーぞ。さっさと返しな。』
『アルゴ。アンタ、マジで超ムカつく。』
俺のギルドチャットへの書き込みに対して、秒でメズから返信が来た。
なんて冗談の通じない女だ。
今日はギルドメンバーがそれぞれ違う場所で活動をしている。
『まったく、モノーキーさん変なこと言わないでください。横領なんかされてません!ちゃんと現時点で財政的には余裕あります。とはいえ、ギルドメンバーも増え、これからゴールドもかかってくる事も多くなると思いますので、そろそろ決めておく必要があるのかなと思いまして。』
だから、この言葉を書き込んでいるユカちゃんの表情は簡単に予想がつく。いつも通りに俺とメズが煽り合いをして、それを見たユカちゃんとレンタロウは呆れ顔を浮かべている。ソロで黙々と狩りをしながら、会話の内容追っているササガワ。そんな日常だ。
『姉ちゃん、いくらぐらい出せば良いんだ。急に言われても金出せるか分かんないぞ。』
レンタロウは自身の姉であるユカちゃんにギルドチャットに書き込んで尋ねている。すると少し間をおいて、再びレンタロウが書き込んでくる。
『あー、1万Gらしい。』
俺は何故ユカちゃんが何も反応していないのに、レンタロウが運営費を分かった事に一瞬頭にクエスチョンマークが浮かんだが、すぐにどういう事か理解した。恐らく、ユカちゃんはレンタロウへの返事をリアルで行ったのだろう。ギルドチャットに書き込むより、同じ家の中にいるなら直接声をかけた方が早いからな。家族で同じオンラインゲームやってる奴なら、こういうのってあるあるなんだろうな。
『このくらいの額であれば皆さんにも負担もかけないと思いますので。大丈夫でしょうか?』
ユカちゃんはギルドメンバー全員に向けて書き込みをしてくる。
まぁ、一万Gなら負担なく払えるし、確かに良い額だと思う。
『了解。』と、俺が書き込むと、他のメンバー全員も俺に続いて、『了解。』と書き込んでくる。
『あと、明日このギルドに見学者が来るので、皆さんマトモな対応してくださいね。良いですか、マトモな対応ですよ。絶ッッッッ対に引かれるような真似しないでくださいね。』
おお、怖え...。
ユカちゃんは俺達がバカな事をしでかさないように圧力かけている。最近のユカちゃんはかなり強くなったように感じる。出会った頃はあれだけ、大人しかったのに今や完全に俺たちのリーダーとして振る舞っている。少しの期間で人は成長するもんだ。
―――
その後、学生であるユカちゃんとレンタロウがログアウトしてからも、俺とメズとササガワはプレイをし続けている。いつもの時間が無限に有り余っている三人である。
『早くアルゴさん。アカウントの停止解けるといいですね。』
ササガワは高レベルの墓場エリアである古代の王の墓で、アンデットモンスターを狩りながら雑談を振ってくる。
『まぁ、もう少しだな。アルゴに戻れれば運営費払うのも、こうやって雑魚狩りで素材狩りなんかしねーで、高レベルのユニーク狙いに行くのに。』
『そうよね。雑魚狩りで素材集めだと1万G稼ぐのに2、3時間くらいかかるものね。』
メズが俺に同意しながら『大変ねぇ。』と書き込んでくる。
『低レベル帯だと1万Gとは中々の額だな。ま、時間は腐るくらいあるから払えねーって事は、まずねーけど。』
『昔のアンタはどこに行っちゃったのよ...。あんだけ、昔は仕事仕事だったのに。』
『そんな奴は知らん。仕事なんか二度としたくねぇ。買ってすらねーけど、宝くじでも当たんねえかなぁ。」
『ゴミク⚫︎ねぇ。』
『お前らは良いよな。高レベル帯で狩り出来るし。俺みたいな金策しないで済んでよ。』
『まぁ、私とササガワくんは、そもそも金策しなくても、それくらい払える財力あるのは事実よね。』
『んー。僕はメズさんみたいに財力はないですが、基本プレイがソロでのレベリングなので勝手に素材は独り占めで貯まっていくので、1万Gなら余裕ではありますね』
そんな会話をしながら俺達は、その日はプレイし続けた。これもまたいつもの光景である。
―――
『こんにちわー。今日はギルドを見学しにきてくれましたー。』
ユカちゃんがログインするなり、ギルドチャットに書き込んできた。ユカちゃんに続いて見学者さんも書き込みをしてくる。
『よろしくお願いします。』
俺達もギルドチャットで、『よろしくー。』と返事をする。来てくれた人を少し調べると、レベルは低めな感じのプレイヤーだ。きっと、ユカちゃんが野良パーティで組んで仲良くなった人なのだろう。こういう時、メズはとても気遣いを見せて、見学者さんに沢山話しかけている。
おお、さすが元ナイトアウルのリーダーであり、聖女とまで言われた女だ。ジョブは何やってるの?やら、いつから初めたの?などめちゃくちゃ話しかけて過ごしやすいように振る舞っている。
俺がギルマスをやっていた時のラビッツフットの時の新人が入った時の会話は、
「お前仕事は?」「してない。」「よし!二十四時間戦えるな!」 みたいな会話だった気がする。いやぁ、ラビッツフットは良いギルドだったなほんと。
それから、俺はたまにはモノーキーのレベリングでもするかぁと、レベリングパーティ参加希望システムに登録すると、すぐに他のレベリングパーティから俺の個人チャットに誘いがきた。流石僧侶は人気ジョブだ。待ち時間なんて一切ない。
『こんにちは。僧侶さん、パーティいかがですか?戦法海暗です。』
戦法海暗とはパーティメンバーが、戦士、魔法使い、海賊、暗殺者ですという事を表している。
悪くない構成だな。
『よろしくお願いします。』と、俺は誘ってきた人に個人チャットで返信を打つ。
さて、こっからレベリングをするとなると、ちょっと長い間自由に動けなくなるな。
パーティプレイを始める前に俺は宅配サービスをしているNPCにギルド本部宛に一万Gを送ったあと
『ユカちゃん、運営費1万G宅配でギルド本部に送っとくわ。』とギルドチャットに書き込む。
『はーい。了解です。』
すぐにユカちゃんからも返信が返ってきた。
これでよし。
俺は誘ってきた人のパーティに入りながら、ギルドチャットを眺めていると、
『運営費ですか?』と、見学者さんが尋ねてきた。
それに対してユカちゃんは、『あ、運営費貰ってるんですよ。大した額じゃないんですが。』と見学者さんに返している。
こういった人の会話をただ見ているだけでもオンラインゲームは面白かったりする。丁度、ユカちゃんはギルド本部で見学者対応していたらしく、俺にもユカちゃんから、
『はい。1万G。確かに受け取りました。』と、ギルドチャットで返信が来た。一万Gは既に届いていたらしい。
『んじゃ、明日もユカちゃんログインしてきたら、渡すわ。』と、俺が書き込む。すると、何故かユカちゃんは、『はい?』と返してきた。
どうしたというのだろうか。
『あ、ユカユカちゃん。私はめんどいから一ヶ月分一気に渡して良い?』と、メズも書き込んでくる。
『はい?』
『ボクもいつもダンジョンにこもってる事多いんであんまり町に行けないから分割じゃなくて一括で良いですか?」と、書き込むのはササガワである。
『あのお三方、先ほどから何を言っているんですか』
『だって、毎日1万Gで月30万Gだろ?」と、俺は書き込む。
『30万G...。すみません!そんなに払えないので私ちょっと合わないのでギルド抜けますね」
見学者さんが慌てたように、俺達にギルドを抜ける旨を書き込んできた。
『違うんです!待ってください!』
ユカちゃんがこの言葉を書き込んだ時には、既ににギルドを抜けました。とのログがギルドチャットに流れていた。
『何であなた達は!そうなのですか!初めてこのギルドにまともな人が来るはずだったのに...!月30万Gなわけがないでしょう!!!』
ユカちゃんの怒りの声がギルドチャットに悲しく鳴り響く。
『姉ちゃん、こいつら超弩級のネトゲ廃人達なんだから、普通の常識通じないんだって...。』
レンタロウがポツリとギルドチャットに呟いた。
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