第1章5話〜お侍さん〜
俺は鮮血兎の足を2人から返して貰うと、再び腰へと身につける。
ま、自己紹介なんて、こんなもんで良いだろ。
「さて。んじゃ、そろそろレベリングするか。弟くんは、ジョブは魔法使いで良いんだな?」
「はい。申し訳ないんですけど魔法使いです。そこまでガチでやる感じじゃなかったんで。今からでも別ジョブに変えてきましょうか?多分10前後のジョブ他にもあったと思います。」
「いや、変えなくていい。俺だってオーガの僧侶だしな。お互い様だ。」
「タロちゃんが魔法使いだと、何かまずい事ってあるんでしょうか?」
先ほどからユカちゃんは、レンタロウの事をずっとタロちゃんと言い続けている。おそらく家でもそう呼んでいるのだろう。
「あー、ドワーフは魔法を使わないジョブであれば、どれも最強クラスのステータスを持ってるんだけど、魔法を使うジョブは苦手なんだ。でも、俺もオーガで僧侶だし、適正はあんま良くねーから、お互い様って事。」
「俺みたいに実名系のプレイヤーネームしときながら、種族に合ってないジョブ選んでると、クソプレイヤー認定されてもおかしくないすからね。」
弟君は、実名系が痛いって言う自覚はあるらしい。ここの自覚あるなしは大きいと思う。無自覚だとマジで嫌われるからな。このゲーム。
「そこ触れてもいいやつなんか?あえて言わないでおいたけど。」
「大丈夫です。俺1年前にこのゲーム始めたんすけど、その時はよく分かってなかったんで、流石に年数経つと、あぁ、これ名前で避けられてるなぁ、と思う事何回もありましたし。」
「だろうな。それでも、ドワーフだから緩和されてる感あるだろ?ドワーフのプレイヤーは、俺の中でプレイヤースキルも高くて現実世界でもイケメンってイメージあるわ。」
「あ!それ、あってます!リアルのタロちゃん。かっこいいんですよ。」
「まぁ、話聞いてたら、多分このアバンダンドでは珍しい、まともな奴なんだろうなってのは、伝わってくるぞ。」
「どんな偏見だよそれ!俺は別に普通だよ普通。」
その普通になれねー奴が、当たり前にいるのがこのアバンダンドなんだよなぁ...。
「余談だが、見た目の話で言うと、このゲームにおいて、現実でブサイクが一番多いのはエルフ使ってる奴らだな。ただ、超美人と超イケメンも多いから二極化が激しい。現実世界で顔が良い奴は、自分に似てるって事でエルフを選ぶし、現実の造形がよろしくない奴は、美形に憧れがあるから、エルフを選ぶんだと俺は踏んでいる。」
「アンタ、エルフ使ってる全プレイヤーにぶっ殺されるぞ!!!!!」
今の俺の発言が誰かに聞こえてやしないかと、弟君は慌てて周りをキョロキョロ見渡してる。気にしすぎじゃないか?
「別に俺は他のゲームでエルフ使ってる奴の事までディスってないぞ。あくまで、このゲームのエルフ使いは、ブサイクか超イケメン超美人が多いって言ってるだけで。」
「アンタほんと2度と口開くのやめとけ!!」
「ま、まぁ。その発言の真偽はおいときましょう。ただ、そう言えるだけの何かそういう経験があったのですか?」
「まぁ、俺もギルマスやってたからな。オフ会とかリアルイベントなんかも企画した事あんぞ。まぁ、来たのはメンバーの3分の1もいなかったけどな。あとは公式で開かれたリアルイベントで交流のあった他ギルドとかと顔合わせとかな。そういう機会はあったな。」
「アンタはオーガ使ってるけど、アバターに似てるんか?」
「いや、期待応えられなくて申し訳ないが。残念ながら俺はかなり男前だ。俺はナルシストだからな。自分にしか興味ねぇ程度にはイケメンだよ。」
「嘘くせぇ...。」
「まぁ、若い時は名前間違えて失敗するなんて、よくある事だ。痛い名前つけれるのも若さがあっていいと思うぞ。俺が知ってる奴にも、変な文章みてーな名前つけてる奴もいるしな。」
「さっきから、若い時、若い時って、もしかしてあんたって、結構年齢いってんの?」
「まぁ、多分10くらいは違うんじゃねーのか。」
この姉弟を10代後半くらいなんじゃないかと、判断しての答えだが。
「へぇ。アンタ、おっさんなんだな。」
「ははは、言葉に気をつけろクソガキ。」
「ほらほら、喧嘩しないの2人とも...。まったくこれから数時間一緒にレベル上げをするんだから。」
ユカちゃんが、「はいはい。これでおしまいおしまい。」と場を納めると、「そういや。俺達、何狩るんだ?」と弟君が尋ねてくる。
「ゴブリンだな。一体一体はそこまで経験値も多くないが、薄利多売。まぁ、数多く倒して稼いでるやり方してた。」
「なるほど。了解」
俺の回答に頷く弟君に対して、ユカちゃんが、「あ!」と、何か思い出したかのように声を上げる。
「そうだ!タロちゃん、範囲魔法って使える?これからレベリングするんだし、パーティプレイするにあたってアタッカーなら必須だよ?」
俺はその彼女の言葉に思わず感動してしまう。数時間前まで何も分かっていなかった彼女が、範囲魔法の大事さを学んでいる。
「範囲魔法...。まぁ、魔剣士が使える魔法は魔導書で契約してるから、多分魔法使いでも使えるのあるとは思うけど、ちょっと見てみるよ。えーと...。あ、レベル10以上あるから使えるよ。氷魔法のやつだ。」
ただ、弟くんはどうも納得できないようで、怪訝な表情で続けて言う。
「ただ、範囲魔法って、あんま使わなくないですか?レベリングで使ってる魔法使いって見た事が無い気がする。それに、普通の魔法よりは威力高いけど、巻き込みやすいからコスパ悪い気が...。」
やはり熟練のプレイヤーになればなるほど、範囲魔法の危険性もよく知っている。威力は高くてもその攻撃範囲を間違えると、他の多くの敵を巻き込み全滅してしまったなんて経験も少なからずあるのだろう。その意見はもっともだ。
「大丈夫大丈夫。モノーキーさんのやり方を信じなさい!モナーキーさん、3人になりましたし、さっきよりレベル高い方が良いですよね?」
ユカちゃんが俺に尋ねてくる。
この子、かなりこのゲームのセンスがあるような気がする。1を言えば、ちゃんと1だけで終わらず、3も4も拾おうとしてくるところは好感が持てる。
「そうだな。レベル10くらいなら、もういけるんじゃねーかな」
「ん?そんな弱いの狩ってたの?2人ならレベル13くらいの倒せそうだけど。まぁ、慣れてないなら、そんなもんか。よくそれで12まで上げれたね」
「ふふふ、凄いでしょ。んじゃ、なんにしても引っ張ってきますね。」
そう言って、ユカちゃんは得意げな顔をして遠くへ走り出す。弟君は走っていく自身の姉の背中を不安そうな目で見つめている。
「大丈夫ですかね。引っ張ってくるのって、かなり難しいんですけど。初心者の姉ちゃんに出来んのかな。」
まぁ、見てろって 弟くんよ。君の姉さん、ユカちゃんの進化具合を。
「一体あんたは姉ちゃんになに教え込んだんだああああ!!!!!」
「ん?盗賊の立ち回りだけど?」
遠くの方でユカちゃんが笑顔で、ゴブリンを20体近く引き連れているを見て、弟君は叫んでいる。
おお、すげぇユカちゃん、もはや超余裕じゃん。成長速度がやばい。
彼女の呑み込みの速さに、俺は舌を巻く。
「なわけあるかあああ!範囲狩りは、普通にマナー違反だからな!!?モンスター1体1体戦っていくのが基本だろうがっ!!」
「まぁ、こまけーことは気にすんなって。見ろよ。ユカちゃんの勇姿を。攻撃全部避けながら、目につくモンスター全てに石ぶん投げてるぞ。ゲームセンスありすぎる。」
笑顔で石を全弾命中させながら、駆けているユカちゃんを俺は指差しながら言う。
「あんな事やってる盗賊なんて、今まで見た事ねーよ!おっさんふざけんなよ!周りの人からしたら害悪プレイヤーじゃねえか!」
「まぁまぁまぁ、落ち着け。範囲狩りの件は、俺もちゃんと考えてる。そりゃ、高レベルの奴が荒らしてたらマナー違反だけどよ。普通にガチレベリングでやってんだし、何の問題もねーよ。範囲狩りは別に運営から禁止されてるわけじゃない。モンスターは誰のものでもない。皆のものさ」
「独占して狩ってる奴の言うセリフじゃないからなそれ!?姉ちゃんが変な奴らから目をつけられたら、どうすんだよ!」
「大丈夫大丈夫。まぁ、見てろって。1週間もあれば、君のお姉さんをこのエリアで見かけたら、誰もが恐れをなして自主的にモンスター全部譲ってくれるようにしてやるからよ。」
「誰がそんな事をしろといったあああ!!!ただの厄介認定されてるだけじゃねぇか!」
「ははは、まぁ、こまけー事は気にすんなって。オンラインゲームのモンスターの取り合いは、取れねー奴が悪いんだよ。ほら、そう言ってるうちにユカちゃん来るぞ。俺達とゴブリンが交差する瞬間に攻撃当てるから、そろそろ魔法の準備しとけよ。」
「嫌だ!!俺はこんなのやりたくないからな!?」
弟君は首を何度も横に振って、俺の提案を拒否している。
強情だなぁ。んじゃ、こう言えばやってくれるだろう。
「やらなくても良いけど、俺の薙ぎ払いじゃ、一撃で倒せないからユカちゃん立ち止まった瞬間死んじゃうぞ?」
ニヤニヤと目を細めながら、俺は弟君の肩をポンと叩いて言う。
「あんたクソ過ぎんだろ!!」
「ははは、毎日言われてる。ほら、来るぞ。」
俺は金砕棒を構えて、薙ぎ払いのスキル発動の準備をする。
「ああもう!ちくしょう!しょうがねえ。」
ヤケクソ気味に弟くんも呪文を唱え始めている。
そうそうそれで良いんだ。よしよし。
1分後、ゴブリンの集団を範囲攻撃で倒し終わると、隣にいるユカちゃんと弟君は神妙な顔で呟く。
「...経験値超うめえ。」「...美味しすぎますね。」
結局、姉弟揃って、効率プレイに落ちていた。
だから、俺はずっとそうだって言ってんだろ!
1時間ほど狩りをすると、俺はレベル12、ユカちゃんは14、弟君は13になっていた。あまりの効率の良さに弟くんも感動していたので、俺はまだ夜エリアは3時間残っているし、更に効率の良いゾンビ狩りがある事を俺は伝える。
弟君は俺の提案に乗ったようで、ラスト1時間はそのゾンビ狩りをしたいと言い出し、ユカちゃんが絶句している。完全に経験値に心を奪われてしまっているようだ。ユカちゃんは激しい抵抗を続けていたものの、オーガとドワーフに両手を掴まれ、墓場へと引き摺り込まれる美少女の図となっていた。完全にエロ漫画の構図である。
俺達が墓場まで歩いて行く途中で、侍が颯爽と馬に跨り、俺達の横を通り過ぎていく。その迫力に、ユカちゃんは おおー!と歓声を上げている。しかし、そんなユカちゃんとは対照的に、しまったと俺は後悔していた。
...あいつは、ラビッツフットだ。そういや、ここの墓はユニークが湧くのか。忘れていた。
侍は俺達が目指していた狩場の手前で黒馬から降りると、黒馬を横に携え、巨大な刀を帯刀している。
「凄いですね。お侍さんですよ。初めて見ました。超カッコ良いですね。」
目を爛々と輝かせながら、侍に近づこうとするユカちゃんの腕を引っ張り、俺の元へと引き寄せる。
「おわっ、な、何ですか。モノーキーさん。」
「近づくな。これ以上あいつに近づいたら死ぬ。」
Warabimochi
こいつはラビッツフットで、俺の直属の部下だった。荒くれ者の多いラビッツフットのメンバーの中では、比較的穏やかな性格をしているものの、ユニーク狩りに関しては、非常に凶悪な存在となる。
俺はボイスチャットを切り、パーティチャットへと切り替えて、キーボードから文字を打ち込む。
『VCを切れ。あいつは危険だ。ここで狩りをするのは中止だ。ここを通り抜けるのは諦めた方が良い。』
俺のただならぬ雰囲気を感じたのか、ユカちゃんも即ボイスチャットを切り、口に手を当てながら、コクコクと頷いている。
「おい、おっさん、ビビりすぎだろ。別に目をつけられないようにここで狩りすれば良くな」
弟君の首が飛んだ。文字通り、彼の頭部が宙を舞う。胴体は地面にただ倒れ込み、頭部も胴体も光の結晶となって消えていく。俺達はまだ蘇生魔法を使えない。だから、すぐに初期の街へと帰ることを弟くんは選択したのだろう。
...だから、声を出すなと言ったんだ。
ユニークモンスターを狙っているプレイヤーは、その占有権を取る為に、集中力を極限まで高めている。大平原は初心者エリアであるものの、PvP解禁エリアでもある。つまり、初心者狩りも、運営からは公認されているのだ。だから、蕨餅の行為自体は規約違反でも何でも無い。物音ひとつ立てれば、モンスターのリポップと勘違いされて、あいつに攻撃されてもおかしくないのだ。
ボイスチャットを切っていたおかげで、ユカちゃんは悲鳴を出しても気づかれる事はなかった。しかし、あまりの惨劇に彼女は動けないでいる。俺は震えているユカちゃんの手を引き、何とかこの場所からの脱出を図るため、ユカちゃん宛に、パーティチャットに書き込む。
『いいか。物音さえ立てなければ、あいつは襲ってこない。ゆっくり行けば大丈夫。』
ユカちゃんは盗賊だ。他の職業と比べても足音が立てにくくなっている。俺のキーボードチャットにユカちゃんはコクコクと頷き、ゆっくり立ちあがろうとした瞬間、ユカちゃんは目が大きく見開く。俺とユカちゃんの目の前に他のゾンビ達とは明らかに雰囲気の違う、鎧を身に付けたゾンビが湧いたからだ。
Nobody レベル25 ユニークだ。
俺達と比べても、レベル差がある敵だ。剥き出しの骨となった手で、俺達を引っ掻こうとしている。
クソ...。襲われるとはついていない。
占有権を取られると思ったのか、蕨餅は、居合で一瞬で俺たちの前まで移動すると、ユカちゃんの首を俺の目の前落としてきた。パーティチャット欄に、『ごめんなさい。』とユカちゃんからメッセージが送られてくる。
「何してんだ!この野郎!!!クソがっ!!!」
俺は蕨餅へと金砕棒を叩きつけるが、蕨餅は俺の攻撃をいとも容易く刀で弾き返してくる。
クソ...。レベル差がありすぎる。
俺の攻撃を弾き返した後、蕨餅はユニークモンスターであるNobadyの占有権を居合で奪い、一撃で倒している。
...今の俺じゃ、勝てるわけはねーが、最低一撃ぶちこんでやる。
ユニークモンスターを倒した蕨餅は、再び俺へと向き直り、居合の構えを取っている。蕨餅の刀が抜かれた瞬間、俺は思いっきり頭を前に振った。
首を切りに来るのは、分かってんだよ。どうあがいても避けれねぇなら、これしかねーわ。
俺の頭が胴体と切り離されるのと同時に、頭を振った為、その勢いで俺の頭が、蕨餅の兜へと直撃する。
はは、ダメージ1くらいは、これで与えられただろう。
蕨餅はよほど頭に来ているのか、クソッ!と叫んでいる。悔しいだろうな。レベル12のプレイヤーにダメージ喰らわせられてよ。俺もこれやられたら一週間はマジギレしてる自信ある。
悪ぃが、人の嫌がる事にかけては、俺は知り尽くしてっからな。でもよ、こっちも仲間やられてんだ。おあいこさ。
俺は上空に浮かぶ"一番最後に立ち寄った町に戻りますか?"との項目にカーソルを合わせると、俺の視界は光に包まれた。
これがギルド、Five leaf cloverの初めての全滅であり、Rabitt's footと俺達のギルドの邂逅となった。
お読みいただきありがとうございます。
面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。
よろしくお願い致します。