第3章6話〜選挙してみようか〜
「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど。何でアルゴがサブマスになってんのよ。普通サブマス選ぶなら、私かレグルかミラからじゃないの?」
ユニーク狩りのトレーニングを終え、ナイトアウル本部に戻ってきた俺とテレスに、メズは不貞腐れた様子で尋ねてくる。俺がサブマスに昇格した事に釈然としないらしい。
「...んなもん、俺が知りてぇよ。」
これは完全に本心だ。レグルやミラリサ、そしてテレスの最側近であるメズを差し置いて、新参者の俺がナイトアウルのサブマスターに就任する気などさらさらない。
「...やりてーなら、メズに変わってやるよ。お前やるか?」
「ほんと!?」
俺の言葉を聞いたメズは嬉しそうに声を上げ、不満顔から一転、笑顔に変わる。
「やるやる!私、立候補するわ!...ねぇ、テレス、アルゴじゃなくて私がサブマスに立候補しても良いでしょ?」
メズは手を挙げて、立候補の意志を示しながら、テレスに顔を向けて、少し遠慮気味に是非を伺っている。
よくぞ言ったメズ!これで俺がサブマスターになる事はないだろう。そんなめんどくさい事俺はやりたくないんだ。是非やってくれ。
テレスはメズの申し出に少し顔を上げて、「うーん。」と唸り声をあげ、頭を悩ませる素振りを見せる。それから、俺とメズを順々に見比べると、
「えっと、じゃあ、あ、アルゴちゃんとメズちゃんでサブマスターの選挙してみよっか。それなら、皆納得するだろうし。」と言って、何故かテレスは俺を巻き込んでの選挙案を出してくる。
俺はサブマス辞退するって言ってるのに意味が分からない。そもそも、選挙したらテレスの最側近であるメズの圧勝に決まってんだから、わざわざ選挙なんて七面倒くせー事する必要ないのにな。
「ええ、いいわ!選挙よ。選挙!アルゴ、私絶対負けないからね。サブマスターの座は私のものよ。」
メズは俺に対して、勝ち誇った笑みを浮かべ、宣戦布告とばかりにビシッと指差しをしてくる。
「...勝手に持ってってくれ。」
俺は半ば投げやり気味に呟くが、ギルド本部はそんな事はお構いなしに、初のサブマスター選挙という事もあり、うおおおおと大盛り上がりしている。俺の声など誰の耳にも入っていない。
まぁ、どうせ負けるから良いんだけど。ただ、メズに大差で負けて、ピエロになるのは少し癪ではあるが。
「じ、じゃあ、今丁度ギルドメンバー全員ログインしてるし、た、多数決とってみよっか。」
テレスはギルドチャットに、『今からサブマスターの選挙を行います。みなさん①か②のどちらかを選んでください』とギルド本部にいるメンバー以外にも伝わるように書き込みをする。
【アンケート:サブマスターに相応しいのは ①Algo ②Mes どちらか選択してください】
テレスがアンケート機能で投票を呼びかけると、選択肢がギルドチャットに流れてくる。当然自分に投票なんかするわけない俺は、速攻で②をタップすると、【アンケート協力ありがとうございました。】とギルドチャットにログが流れた。
当然ながら、誰がどの人に投票したかは分からない仕組みになっている。ま、そんな事分からなくても俺に投票する奴なんてテレスくらいだろうから、俺に一票だけ入ってたらバレバレだろうけどな。
―――
数分後。【Algo 25票 Mes 3票 無回答0】とギルドチャットに投票結果が映し出されていた。
『厳正なる投票の結果、アルゴちゃんがサブマスター就任となりました!』
あまりの酷い結果に、ナイトアウル全体が異様な空気に包まれる中、テレスがギルドチャットに俺がサブマスター就任の辞令公布を書き込んできた。
メズはこの結果に非常にショックだったらしく、「お、おかしいわ。な、なぜ。」と呆然とした顔で立ち尽くしている。
そんなん俺が聞きてえくれえだよ。何で俺が大差で勝ってんだ。意味分かんねえ...。
「メズ、お前人望なさすぎだろ...。」
俺がメズにそう声をかけるも、メズは依然としてショックを受けており、俺の言葉など入っていかないようで、あんぐりと口を大きくあきっぱなしとなっている。
どうすんだよ、この空気...。
「お前ら、何でメズじゃなくて、新参者の俺に投票してんだよ!おかしいだろ!」
俺はナイトアウル本部にいるメンバーに対して叫ぶように言うと、そこかしこから、「いや、」「だって、」「その、」と歯切れの悪い言葉が聞こえてくる。
そんな誰もが言葉を濁らせる中、レグルが幹部である立場上だろう。言いにくそうに今回の結果についての考察を述べ始める。
「...メズがテレスの最側近なのは、このギルドの誰もが認めているけれど。テレスを慕って入ってきたわけじゃないアルゴは、テレスにNOと言えるギルドで唯一の存在だからな。サブマスってのはギルマスの暴走を止めるストッパーじゃないといけない。俺達はテレスの言う事やる事に、反対なんて出来ないからな。」
「うん。メズちゃんは仲良い友達だけど、サブマスターとなるとアルゴかなぁ。ちょっと性格的に難はあるけど、皆を引っ張ってくれそうだし。この中の誰よりもリーダーの素質あるよ。」
ミラリサもそう言うと、幹部二人が俺を支持したという事で"俺もアルゴに入れた。"とギルド本部中からどんどん声が聞こえてくる。
ひでぇもんだ。これでは、いくらなんだってメズが哀れすぎる。
テレスが声と両手を震わせながら、「め、めめめメズちゃん。げ、けげ元気出して、てね。」と言って、メズの背中をポンポンと叩いて慰めている。
...前のラクダにメズが踏まれていた時も声と手をを震わせていたけど、テレスが手を震わせているのって、緊張じゃなくて笑いを堪えてる時らしい。
「い、いいわ。しょうがない、結果は結果だものね...。私もアルゴをナイトアウルのサブマスターとして認めてあげるわ。」
テレスの慰めにより、何とか正気に返ったメズは幹部である立場からか、これ以上落ち込んだ姿を周りには見せないように、ヒクヒクと顔をこわばらせながらも、気丈に振る舞って俺を指差す。
「でも、言っとくけど、もしテレスが体調不良とかで出れなくなったらアンタが、テレスの代役とかするんだからね!サブマスターってのはそういう役割なんだから、アンタこのナイトアウルの顔になる事ちゃんと心しておきなさいよ!」
「興味ねえし、ぜってぇ、したくねぇ...。」
お読みいただきありがとうございます。
面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。
よろしくお願い致します。




