第3章4話〜一番人として〜
「...何だそれ。厨二病か何かか?」
俺は呆れたように白けた声で言うと、テレスは慌てて、「違うよ!本当なんだよ!」とかぶりを振って、俺の言葉を強い口調で否定する。
って言われてもねぇ。急に私は宇宙人ですなんて言われて、そうなんだ!と答えられるほど、俺は頭がおかしくはない。
「んじゃ、何をもって宇宙人と主張してるんだ?とりあえずは聞いてやるよ。」
俺は半信半疑ではあるものの、一応テレスの言い分を聞いてやるかと、俺はテレスに答えやすいように質問してやる事にする。
「えーと、そうだなぁ。」
テレスは顔を少し上げ、顎に指を添えながら、「んー、」と呟く。
「そだなぁ。私ね、集中すると肉体的な疲れって全然感じないんだ。ね!凄いでしょ。これが宇宙人である証拠。」
うーん。イマイチ、凄さが分からない。第一それは宇宙人の能力なんだろうか。ただ体力があるだけのような気もするが。
「それって凄いのか?それを活用した何か分かりやすい例をくれよ。」
俺がそう聞くと再びテレスは、「そうだなぁ。」と顎に指を添えて考え込む。今度は先ほどと違い、大分時間がかかりながらも、テレスはゆっくりと口を開く。
「私ね、他の人が疲れたり、飽きちゃうような事でも、何の苦もなくずっと同じ事続けられるんだ。二十四時間アバンダンドにログインしっぱなしも余裕で出来る。だから、全ジョブ55にも出来たんだ。」
テレスは俺にそう言うと、「凄いでしょ!」と、ドヤ顔で自信満々に薄い胸を張っている。
「ネトゲ特化の能力とか酷すぎる宇宙人だな...。あー、でも、運動とか勉強とかにそれが向けば凄い力になんのか?」
「うーん。運動や勉強が私にとって興味向くジャンルだったらそうだったのかも。でも、私特に勉強も運動も、もうそんなに興味ないから、この能力使えないんだ。」
「ガチでロクでも無さすぎる能力だな...。」
「ほんとだよね、私もそう思う。あ、そうだ。人の言語も分からない!これも私が宇宙人である証拠だ!」
「今日本語喋ってんじゃねえか!」
思わず突っ込んでしまった。漫才してんじゃねえんだぞ。
俺がでかい声を出した事で、通りを歩いていたプレイヤーが俺とテレスに視線を向けるが、アバンダンド随一の嫌われ者である俺と最強と評されるプレイヤーであるテレスという事に気づいたのだろう。直ぐに視線を元に戻し、何事もなかったのかのように歩き出している。悪名もたまには役に立つものである。
「ふっふっふ。それはね、実はちょっとの会話だったら、宇宙人とバレない程度には人間のフリが出来るからなんだ。」
「設定がめちゃくちゃ過ぎだろ...。」
秘密を話してくれているのにデカい声を出して注目されてしまった反省もあり、俺は先程よりも声をボリュームを落としながらテレスに言う。
「あはは。そうだよね。設定盛り過ぎだ。でも、いっぱい話せば話すほどね。皆と同じ言語なのに違くなるの。そこは本当。不思議だよね。」
そう話すテレスの声色は、どうも嘘をついているものではない。多分彼女の中では本当なのだろう。俺は自分の事をかなり察しの良い人間だと思っている。だから、ここまでテレスと話せば彼女が何を言いたのかは、多分分かっているつもりだ。
俺はテレスに一つだけ質問をする事にした。重くなり過ぎないように、軽い口調で彼女に聞く。
「宇宙人は、この世界にいる人間の事が嫌いか?」
「大っっっ嫌い!皆消えてなくなって欲しい。...だけど、羨ましいとも思う。そして、本当に嫌いなのは自分。でも、この世界の何もかも全部嫌い。」
俺の質問にテレスはゾッとするほど冷たい目で答える。それはまるで、自分自身を含んだこの世の全てを軽蔑しているかのような眼差しだ。
「そうかい。そりゃ大変だな。」
「うん。」
俺が労いの言葉を彼女に投げると、テレスは静かな笑みを見せる。
...何故、彼女は俺にその話をしたのだろう。俺はハッキリ言って一番の新参だ。それに、ナイトアウルの他の皆はこの事を知っているのだろうか。
「...メズ達は、その事知ってんのか?」
「知らないよ。この事話したのはアバンダンドではアルゴちゃんだけ。」
俺はテレスの目の奥を見つめ、俺にだけ秘密を打ち明けた意図を探ってみるけれど、彼女の漆黒の瞳からは何も読み取れない。
ち、しゃらくさい。
かなり繊細な部分ではあるものの、俺は正直にそこまで突っ込んで、テレスに聞いてみる事にする。
「んじゃ、何で俺なんだ?言っちゃ悪いが、俺は新参も良いとこだろ。それに、性格も自分で言うのもなんだが良くもねーし。」
「うん。だからだよ。アルゴちゃんが、ナイトアウルというか、アバンダンドで、一番人としてカスだと思ったから話したんだ。」
「ぶっ飛ばすぞ。」
酷過ぎる。俺が彼女に選ばれた理由を色々考えてみたけれど、一番最低な理由が返ってきた。いくら俺でも面と向かって、女からこんな事言われたら傷つくぞ。こう見えても俺は打たれ弱いんだからな。
「あはは、ごめんね。違う言い方するなら、アルゴちゃんが一番人の事を興味ないからと思ったからかな。アルゴちゃんって、基本的に自分にしか興味ないじゃない?」
「まーなぁ。俺に迷惑かけなきゃ、他人が死のうがどうなろうが、知ったこっちゃねえし。」
「でしょ?だから、アルゴちゃんなら、私がなんかトチ狂った事言ったり、重度のメンヘラであっても、ふーん、興味ねえわって言って、別に付き合い方変えないでしょ?」
「まあな。普通にドン引くかもしんねえけど、それで今までと付き合い方変えるってのはしねーな。」
「でしょ!私の見立て通りだ。この話をアルゴちゃんにしようと思ったきっかけはね。メズちゃんが死にかけてるのに一切助けずに煽りまくってるの見たからなんだ。うちのアイドルのメズちゃん相手にあれが出来るなら、本当に誰が相手でも付き合い方変えない人なんだなって。」
「あんなクソみたいな煽りで、評価するのなんてテレスくらいだぞ。おかしいだろ。」
「いや、だって、本当に最高だったし。あのプライド高いメズちゃんにあんな事するなんて、あの時笑いを堪えるの必死だったよ。だ、だってさぁ。あのメズちゃんが、」
そう言って、テレスは口元に手を当て、声を震わせながら、大笑いしそうなのを堪えている。
「...俺が言うのもなんだが、アンタ大分嫌な性格してるな。」
「そ、正解。実は結構嫌な人なんだ。アルゴちゃんなら気づいてたと思うけど、実は私普通に喋る事も出来るんだ。」
テレスの言う通り、俺はその事は何となく分かってた。いや、本当にそういう喋り方をする人もいるのは分かるが、テレスの喋り方はあまりにもやりすぎなくらい露骨で相当な違和感があった。
「ああ。ただのポーズなんだろ?」
「うん。あーいう喋り方すれば、私が多少変な行動しても皆許してくれるだろうからね。自己防衛策ってところ。」
「気弱そうなのも演技か?」
「ううん。気弱なのは本当だよ。周りの反応見て生きてきたら、いつのまにかこんな性格になっちゃった。私って性格悪いと思う?」
「まぁ、良くはねー思うが、俺個人としては性格の悪い女は好みだから、むしろ好感が持てる。」
俺がそう言うとテレスは、「キャー。」と両手で紅潮した頬を押さえ恥ずかしそうにしている。
「好みだなんて照れちゃうな。あ、これ。みんなには内緒だからね。絶対に喋っちゃダメだよ?」
俺も頭がおかしくなったのかもしれないが、普段のテレスよりも嫌な性格だとバラしたテレスの方がずっと魅力的に思えてしまった。
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