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第2章10話〜消し去りましょう〜⑤

『261』


 ギルドチャットに数字の書き込みが流れてくる。数十秒後、俺も敵が落とした鳥肉を地面から拾い上げながら、『262』とギルドチャットに書き込む。ご察しの通り、これはアバンダンド中に散らばったギルドメンバーが、鳥肉をドロップした際に数の確認と報告の為のギルドチャットへの書き込みだ。


 チッ、目の前でメズがラクダに踏みつけられてるのに一切助けず、煽りまくったのは流石にやりすぎだったか。テレス以外の幹部が俺に向けてくる視線の冷たい事ったらありしゃない。まぁ、その怒り狂っていたメズは思う存分俺をボコボコに出来たおかげで、溜飲を下げ、今は大変ご満悦の表情を見せている。とりあえず、これで俺の禊は済んだらしい。


 結果的だが、俺もこの鳥狩りの戦闘に参加してやる事にした。まぁ、このパーティでなら、戦ってやっても良いとは思っている所もあるからだ。ただ、それは俺がこのギルドに対して愛着のようなセンチメンタルな気分を感じたわけでもなければ、メズに対しての申し訳なさからする罪滅ぼしというわけでもない。単純にこのパーティであれば、PvEでのデスペナを食らうリスクが限りなく低いと感じたからに過ぎない。


 デスペナルティ。通称デスペナとはプレイヤーが戦闘不能時に負う経験値ロストの事だ。戦闘不能で失う経験値の量は決して少ないとは言える数字ではない。PvE。つまり、対モンスター戦でプレイヤーが戦闘不能となった時と比べて、PvPはプレイヤーが戦闘不能になる事が前提なので、PvPでの経験値ロストに関してはかなり軽くなっている。だから、PvPにだったら、俺も参加してやっても良いとは最初から思っていたのだが、鮮血兎の足の効果を求めて俺に傭兵を頼んでくる奴は、ほぼ百パーセントPvE狙いの客である。


 社会人プレイヤーの俺にはプレイ時間に限りがある。人のプレイに付き合って、経験値をロストするリスクを負いたくはない。だから、いつも戦闘不可の条件を出していた。しかし、今回のパーティはアバンダンド世界において、屈指の強さを持つパーティと言える。テレスが鬼のように敵を巻き込んで攻撃している事から、大量のモンスターを処理しなければならないが、それでも普通にプレイしていたらまず戦闘不能になる事はないだろう。それだけの強さを持っている。もし、このパーティでやられる事があるとするならば、それはもう避けようのない仕方のない事だからな。


 テレスが再び弓から矢を放ち、狙っている鳥以外にも多くの敵を巻き込んでダメージを与えている。レベル55ある俺達には大した相手ではないのだが、いかんせんテレスの範囲攻撃の広さは尋常ではない。俺達はテレスが削り切れなかった数多くのモンスターを引き受け、残りHPを俺達四人で削り切っていく戦闘スタイルだ。襲ってきている多くのモンスター中の鳥をまた一体倒すと、再び肉を落とし、『263』とテレスがギルドチャットに書き込む。


 これで残り三十七個だ。あと数十分もすれば目標だった三百個に到達する筈だ。漸く、この長かった鳥狩りにも目処がつきそうになったからだろう。『すみません、自分これから会社なので落ちます。あとよろしくお願いします。』 と書き込むメンバーが現れた。その書き込みに、『はーい。お疲れ様ー。朝からありがとう!』とテレスが労いの言葉かけている。


『すみません。ギルマス。私もここまで。』


 時刻は既に七時になり、ちらほらとログアウトしていくメンバーが増えてきた。 無理もない平日の朝四時半からこんなことをやってるのだ。テレスはログアウトしていくメンバー一人一人に労いの声をかけている。ナイトアウルにいるのは全員が引きこもりやニートというわけではない。割合的には確かにそういったプレイヤーも多いが、俺のように会社に勤めていたり、メズのように学生をしている人もいる。


 ...そろそろ俺も潮時だな。グリルを焼いて売り捌くところまでいたかったが、こればかりはしょうがない。


「悪い。俺もそろそろ仕事の準備してくる。」


 俺はナイフを腰につけたホルスターにしまいながら、パーティの皆に言う。


「あ、ありがとね、アルゴちゃん。ご、ごめんね、契約違反のバトルまでさせちゃって。」


 テレスは俺に感謝の言葉と謝罪の言葉を述べて、深く頭を下げてくる。


「あー、別に良い。俺は雑魚に付き合って、死ぬのが嫌なだけだったからな。あんたらが強いのは分かったから、これからは戦闘に参加してやっても良いぞ。」


「...アルゴ。なーんかアンタ、テレスには甘いわよね。私にもその優しさ分けても良いと思わない?」


 そう言って、メズは俺の事をじっと見つめている。


 ...別にテレスに特別優しくしてるつもりはないのだが、そう見えてしまうものなのだろうか。俺は俺なりに平等に接してるつもりなのだが。無意識のうちに俺もこの女のカリスマ性に当てられていたんだろうか。そこまで言うのなら、そうだな。


「まぁ、考えといてやるよ。」


 そうメズに言った後、『俺も落ちまーす。』とギルドチャットに書き込み、俺はアバンダンドからログアウトした。


―――


 十数分後、俺の姿は再びアバンダンドの海峡にあった。まだ、テレス達も先程と同じ場所で狩りを続けている。もう、集めるべき鳥肉の量も残り少ないからか、人数の補充はしないようで、四人パーティのままのようだ。


「あれ!?アルゴ。何かやり残しでもあった?」


 再びログインして、目の前に現れた俺にミラリサが小首を傾げながら、不思議そうに聞いてきたので、俺はかぶりを振る。


「いや、突如体調不良になったんで、午後から出勤になった。既に会社には連絡済みだ。」


 俺の言葉にレグルとミラリサは、「マジかよ。」「バ⚫︎だねー。」と声を立てて、笑い出す。


 まったく、ゲームごときにここまでするなんて、俺らしくもない。どうかしちまってるよな。


 レグルやミラリサの二人とは対照的に、メズは俺に呆れ顔でため息をつきながら、問うてくる。


「...ロクでもないわね。良いの?社会人がそんなんで。」


「おいおい、メズ。俺は、体調不良者なんだぞ。お前も俺に優しくしろよ。良いだろ、半日くらいこうやってゆっくりしたって。」


「...それが本当に風邪でも引いてるんなら、私だって優しくしてやるわよ。」と、メズは吐き捨てるように言う。


 そんなパーティ中が爆笑や呆れといった表情を見せる中、テレスだけは世界が終わったような絶望の表情を浮かべながら、俺に言う。


「そ、それでも、アルゴちゃん、午後から仕事行かなきゃなんだね...。」


「...おう。」


お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

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