表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/170

第2章9話〜消し去りましょう〜④

 テレスが弓を引く度に、ギラギラと輝く光を纏った矢はビーム兵器のように一切ブレる事なく、砂塵を巻き上げながら、海の向こうまでひたすら真っ直ぐに飛んでいく。普通の弓じゃ絶対にありえない程の射程距離だ。更にその光の矢は俺達の狙いであるフレイムバードだけではなく、その軌道上にいる全てのモンスターを殲滅するかの如く巻き込んで爆散している。


 俺はその彼女の圧倒的な戦いぶりに呼吸をするのも忘れてしまうほどに見入ってしまう。このアバンダンドの世界に来て、初めて最強と評されるプレイヤーの戦闘を見た。俺は自分の事をそれなりに上手いプレイヤーだと自負していたが、そんな俺から見ても、テレスのプレイヤースキルは最強の言葉に違わないほど桁違いだった。俺が呆然と立ち尽くしている中でも、テレスはニコニコとしたいつもの表情を崩さず、


「あ!と、鳥肉だ。これで四個目だ。け、結構ペース良いね。鮮血兎のおかげだね。」


 テレスは遠くで絶命した敵の位置までトコトコ駆けて行き、鳥肉を拾い上げると、投げたボールを回収した犬のようにとても嬉しそうな顔をしながら戻ってくる。


「...その弓強すぎだろ。それ使ってたら、無敵じゃねえの?」


 俺はあまりの弓の強さにドン引きしながら、陣地に戻ってきたテレスに言うと、テレスは手のひらと首をブンブンと大きく横に振って否定する。


「そ、そんな事ないんだよ。この子、攻撃力は確かに高いけど、その分結構使いにくいんだ。タメが、な、長すぎるんだよね。その間は無防備になるし、ブレも酷すぎるから、黒豹みたいな動きの速い相手には使い辛いんだ。」


 なるほど、と俺は軽く頷く。


 確かにそう言われてみれば、テレスの言葉は謙遜などではなく、真実なのだろう。これだけ強い武器がノーリスクで使えるのであれば、破顔の黒豹に四時間もかける理由にはならないしな。俺は黒豹に挑む気なんて全く起きないが、それでも遠距離武器で挑むとするならば、俺もテレスと同様に最大威力は高くても、溜めを必要とする弓よりは、溜めを必要とせずある程度の威力が見込める銃を選択するだろう。


「ただ、い、一撃の威力だけなら、他のユニーク武器と比べても、頭一つ抜けてると思う。わ、私の自慢の武器なんだ。」


 そう言って、テレスは気恥ずかしさを隠すように再び矢をモンスターに向かってぶっ放し始めている。


「ユニークの中でも最強の攻撃力か。そりゃ、ヤバいな。」


 つっても、ユニーク武器を持ってるのなんて、俺が知っている限りでは、グレイトベアのギルマスくらいしか存在していないんだから、比べようもないけどな。


 俺がテレスとそんな風に和気藹々と談笑していると、「ほら、アルゴ。テレスが削り切れなかった敵の相手しなさいよ!!私が死ぬじゃないの!」


 先程テレスがぶっ放した矢に巻き込まれた二匹のラクダが怒り狂ったように、メズの体を踏みつけており、メズは助けを求めて叫んでいる。


 ...そういや、こいつ僧侶だったな。


 ヒーラーはパーティプレイでは重宝される代わりに全ジョブで一番ソロプレイには向いていない。攻撃力も低ければ防御力も弱い。誰かと組んでこそ、その本領を発揮出来るジョブだ。んで、その組んでいる仲間のミラリサとレグルは至る所でテレスがぶっ放した矢でダメージを与えたフレイムバードや稲妻クラゲの対応に四苦八苦していて、メズに向いてるラクダのヘイトを奪う余裕もなさそうだ。


 まぁ、この状況なら、メズが俺に助けを求めてからのはもっともだ。でもよ。


「メズ、お前忘れてんのか?俺は戦闘しなくて良い契約なんだぞ。」


 俺は腰にぶら下げていた鮮血兎の足を取り外し、中腰になると、「ほれほれ。」と涼しい顔で鮮血兎の足をラクダに踏まれているメズの顔の前で軽く振って見せつける。


「ぶっ●すわよ!アンタ!!!!!」


 メズの怒鳴り声が海峡中に響き渡っている。


 おいおい、ひでぇなぁ。ちゃんと契約する際に俺は事前にその情報を出してるって言うのに。


「ははは、今の状況分かってないな。俺をぶっ⚫︎す前にまず、お前が死ぬなぁ。死に様は見届けてやるから安心しろ。」


「ふっざけんじゃないわよ!!!」


 俺が自分は関係ないと言わんばかりにラクダに踏まれているメズを指差し、ケラケラと愉快そうに声に出して笑うと、物凄い剣幕と金切り声でメズは叫び出す。


 まったく、うるせぇ女だ。俺が助けるなんて勝手に勘違いしたメズが悪いっていうのになぁ。


「あ、そうか。忘れてた!アルゴちゃんそういう契約だった!メズちゃん、ごめんね。私が考えなしに攻撃し過ぎちゃった。私が倒すよ!」


 俺とメズのやり取りを見て、テレスが無闇やたらに敵に攻撃するのをやめて、急いでラクダに向かって構え、メズからヘイトを取ろうとしている。しかし、いかんせんあのユニークの弓は溜めが長く、テレスが射る前にメズのHPゲージはどう考えても尽きるだろう。


 しょう〜〜〜〜がねぇなぁ〜〜。契約違反だけど助けてやるかぁ。


 俺は徐に中腰から立ち上がり、腰のホルスターからナイフを取り出すと、二体のラクダに向かって攻撃スキルを放つ。ラクダはテレスが殆どHPを削り切っていた事もあり、メズを踏みつけていた二体のラクダは俺の攻撃を受けると、即座に横に倒れる。


「おう。優しい優しい俺の慈悲によって、死なずに済んだ事感謝しろよ。」


 俺はナイフをホルスターにしまい、メズの肩をポンポンと叩くと、「ふふふ、」とメズの口から笑い声が聞こえてくる。


 ...どうも様子がおかしい。


 俯いて笑っているメズを下から覗き込むと、「●す!●す!」とブツブツ物騒な事を言っており、その目は怒りで完全にイッてしまっている。


 ...あー、...これ。結構マジで怒ってるやつだな。


 面倒くさい事になる前に、俺はメズから逃げる為に、そっと距離を取ろうとするが、ミラリサとレグルが後ろから俺を取り押さえてきた。


 クソ!何しやがる!


 俺は振り返って二人を見ると、彼らの俺を見つめる視線は完全に呆れ果てており、嘆息を漏らしながら、レグルは俺に話しかけてくる。


「アルゴ。お前、よくうちのギルドのアイドルにそんな対応出来るな...。メズ、俺達の中でも結構ファン多いんだぞ?ある意味お前すげえよ。」


 もはや、レグルは呆れの感情すら通り越したらしく、ある意味で感心した様子で俺に言う、


 んなの、当然だろ。ギルドのアイドルだからとか、女だからとか、子供だからとかで俺は態度なんか変えねーよ。


「俺は男女平等だからな。つーか、俺は全人類平等だ。この世界は俺か俺以外だからな。俺は俺を一番優先するに決まってるだろ。」 


「こんな性格悪い奴初めて見たわ...。メズちゃんに一回懲らしめてもらった方が良いわね。」


 俺の反論にミラリサはおっそろしく冷たい視線をぶつけている。


 んだよ、こいつはメズの味方かよ。俺の味方はいねえのかよ。俺の方がよっぽど正しい事言ってんのによぉ。


 俺はテレスを一瞥すると、テレスは何故か目をぎゅっとつむり、歯を食いしばったような表情をしながら、プルプルと両手を震わせていた。


 テレスが何をしているのか、よく分からないが、きっと彼女は当てにならない事だけは分かる。


 メズは俯いたまま、僧侶の武器である槍をガリガリと地面に引きずりながら、レグルとミラリサによって捕えられた俺の方に向かっている。どうやら、俺をあの槍で突き刺す気満々らしい。


 ここはPvPエリアだから、攻撃されたらHPにダメージ喰らうんだからやめろ。俺は何も悪くねえだろうがっっ!!!

お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ