第2章6話〜消し去りましょう〜①
メンテナンスが終わった早朝四時のアバンダンドで、仕事に行く前に少しだけログインをした。いつも賑わっているナイトアウルですら、この時間は十人程度しかいなく、ギルドチャットのログの流れ方も緩やかだった。そんな中、低レベルのジョブを上げていたギルドメンバーが、『グリルチキンの効果がヤバい。』とギルドチャットに書き込んできた。
グリルチキンは力が上昇する低レベル帯向けの安価で購入出来る食料品なのだが、あまりプレイヤーからは好まれてはいない。
その理由はグリルチキンの調理には香菜と香辛料が必要で作るのがめんどくさいという事がある。その上、初心者が食べるにしても力+2のグリルチキンよりも力+3 魔力−1の蒸し鶏の方が安価で力上昇効果が強い。魔法を扱える魔剣士ですら、魔力のデメリットよりも蒸し鶏を食べて、力を活かした戦いをするのが基本となる始末。だから、誰も食べる事のない料理。それがグリルチキンだった。
『どんな効果よ。』と、他のメンバーが書き込みをすると、すぐにそいつから返信が来た。
『力が+200されてる。』
『草』
『草』
『草』
『wwwwwww』
『絶対バグで草生える』
『ヤバ過ぎて草』
『運営やらかしてんなw』
早朝のナイトアウルのギルドチャットのログが物凄い勢いで流れ出す。この運営の大やらかしには流石に笑ってしまう。普段はギルドチャットにあまり書き込みをしない俺もこの話題には乗り、『マジなら、ネームドにも勝てるだろ。』とギルドチャットに書き込みをする。
未だかつてネームドモンスターを倒したプレイヤー、ギルドはいない。ネームドモンスターは明らかにユニークモンスターとは強さの次元が違う。攻撃を一発受けた段階で、あ、これは勝てない。と即理解出来るほどだ。
『残念。どのネームドも今日はリポップする事はないなぁ。」と、テレスも書き込んでくる。
ネームドは倒される事がなくても、一定時間過ぎると姿を消す仕様になっている。リポップ時間もユニークとは違い、数日から数週間はたまた一ヶ月と長期間設定されている為、戦うどころか、その姿を見た事すらないプレイヤーが殆どだ。そこがユニークモンスターとの大きな違いとなっている。
ネームド以外であれば、現在実装されてるユニークモンスターは人数は必要になるが、こんなグリルチキンを使わずとも倒す事が可能だ。特にナイトアウルのような最大手ギルドであれば尚更だろう。
レベル上げに利用するにしたって、ナイトアウルのメンバーはほとんどがレベル55持ちだ。そこまで切迫してレベルを上げたいと言う奴もいない。焦ってグリルチキンでどうこうってのは、今の俺達には必要としていない状況である。
『まぁ、すぐ修正されるだろうけど、試しに私も一個くらい買ってみようかな。』
ナイトアウルの幹部であるミラリサがギルドチャットに書き込みをする。ミラリサは橙色の髪色をしたエルフの女性キャラクターを使っているプレイヤーだ。ウェーブがかった髪が鎖骨の位置ほどまで伸びている。彼女は人当たりの良いサバサバした性格で、ナイトアウルのメンバーからの信頼も厚い人物である。
ナイトアウルの幹部はメズ、レグル、ミラリサの三人がそれに当たる。まぁ、幹部といってもサブマス機能が与えられたメンバーは一人もおらず、何となくギルドメンバーが信頼を置いているプレイヤーといったところなわけだが。そんなミラリサの書き込みに、俺は一つの案が思い浮ぶ。
『売ったら金になんじゃね?』
俺がそう書き込むと、ギルドチャットの書き込みがピタッと止まった。...あれ。なんかまずいこと言ったのだろうか。
『みなさん、緊急招集です。』とテレスが書き込んできた。
『世界中から、鳥と香菜、香辛料を消し去りましょう。』
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