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第2章5話〜ごめんね 多分私のせい〜

 俺がナイトアウルに加入してから、一ヶ月程経つと、このギルドの事が段々と分かってきた。このナイトアウルというギルドはアバンダンドの世界において一、二位を争うギルドらしく、メンバー全員がネトゲ廃人であり、そのプレイヤースキルも皆卓越している。今まで俺が傭兵として、一時加入してきたギルドとは明らかに格が違っていた。


 そんな一人一人が超弩級のプレイヤーであるにも関わらず、全員がギルドマスターであるテレスの事を慕って入団したらしい。彼等にとってテレスの言う事は絶対であり、無茶苦茶な指示だろうがそれにNOと言う事は無いらしい。だから、この集団を一つに纏め上げているテレスは、外から見たらとてつもないカリスマプレイヤーと言う事になってるようだ。しかし、テレスというプレイヤーの魅力に惹かれて入団したわけじゃない俺から言わせりゃ、テレスはカリスマというよりも、常軌を逸していると言った方が正しい表現方法のように思えるほど、本当に頭のおかしなプレイヤーだった。


 まず、俺がこのギルドに入って驚かされたのはナイトアウルの本部がヴォルトシェル王国の一層、いわゆる蒼穹回廊と呼ばれているエリアに建てられていた事だ。アバンダンドのサービス開始一週年記念として、十二月に二回目の蒼穹回廊の土地の販売があった事は噂には聞いていた。しかし、どこのギルドにも正式に所属していなかった俺には縁遠い話であり、落札したギルドがこのナイトアウルだという事すら知らなかった。蒼穹回廊の落札価格も膨大で何と六億Gで落札したようだ。その上、俺にも一億G払っている。つまり、ナイトアウルは一ヶ月で七億Gものゴールドを払っている事になる。そら、メズも俺を加入させるのを渋るわけである。


 払って貰った俺が言うのもおかしな話だが、ギルドの財政状況は大丈夫なのだろうかと心配になって幹部であるレグルに聞いてみると、そこは大丈夫と意外な回答が返ってきた。何故ならば、恐ろしい事に七億Gのうち三億Gはテレスが個人で出しているらしく、ギルドからの持ち出しとしては、そこまで大きな出費では無いらしい。


 ...何かもう色々狂っているとしか言いようがない。


 せっかくだし、そんな大枚をはたいて買ったギルドを一目くらいは見てやるかと、ナイトアウル本部を訪れる為に第一層行くと、やはり殆どプレイヤーの姿はない。いたとしても、軒並み高価な装備を身につけた高レベルプレイヤーのみである。まぁ、蒼穹回廊に入る条件はレベル50にしたうえでメインストーリーを進める事だから、当然っちゃ当然とも言える。レベル55ばかりが廃人扱いされるが、レベル50にするのもガチ勢じゃなきゃ、中々到達出来ないからな。


 第一層はゲーム設定的に、王族や貴族の住まいがある地区の為、この人数の少なさと静けさは運営がイメージした通りなのだろう。それでも、蒼穹回廊の土地を買ったギルドは現在二つしかない為、ナイトアウル本部は観光名所のようになりつつあるらしい。本部前でスクリーンショットを取っているプレイヤー達がいるのは少し嫌がっているようだが、そんなところにギルドを建てた事ゆえの宿命と思って諦めるしかないのが現状だ。


 訪れたナイトアウルの本部は、西洋風の真っ白な城だった。中に入ると、玄関から内部を全て見渡せるような吹き抜けの作りになっており、殆ど部屋がなかったのは流石に驚いた。


 テレスに何でそんな作りにしたのかと尋ねると、「い、いつも部屋にいるから、ゲームの中でまで部屋を作りたくはなかったんだ。」と、「あぁ...。そうなのか。」としか返せない微妙な答えが返ってきた。しかし、社会不適合者感満載のテレスはいつもオドオドとして気弱そうかと思えば、そうでもない一面もあった。


 峡谷にユニークを狙い行ったら、俺が峡谷のエリアに入った瞬間、いきなり三人組に囲まれて槍やら剣やらで串刺しにされ、戦闘不能にさせられる事があった。ギルド本部に戻って、メズにその話をすると、「うちに手を出す事が出来るとこなんて限られてるから、それは恐らくグレイトベアの連中ね。」と答えが返ってきた。


 グレイトベアは、このアバンダンドの世界における最大のギルドらしい。ナイトアウルもグレイトベアに引けを取らない最大手ギルドの一つだが、それでも何をするにも、グレイトベアの後塵を拝する事になってきたらしい。


「けど、そんなにナイトアウルと関係自体は悪くなかったんだけどね。そんないきなり襲ってくるなんておかしいわね。」


 メズが不思議そうに首を傾げていると、テレスが俺とメズの前にトコトコと近寄ってきて、「ごめんね。多分私のせい。」と深々と頭を下げて謝ってきた。


 この前、新しい銃を買ったのでグレイトベアのメンバーを見つけたから、試し撃ちしたとの事だった。


 ...マフィアかよ。

 

 どうやら、彼女は普通のプレイヤー相手だとすぐ死んでしまうので、グレイトベアのメンバーなら良い練習相手になると思ったらしい。


 この時点で色々狂ってはいるが、更にテレスが倒したプレイヤーというのが、この事態に拍車をかけたらしい。どうも、そいつがグレイトベアの幹部の一人だったようで、ギルドマスターであるザラシが怒り狂ってるとの事だった。


「えっと、わ、私の対応のせいで、ナイトアウルとグレイトベアの関係が悪くなってきたので、す、少し、対応を変えようと思います。」


 この事態を重く見たテレスは、ギルドメンバーをナイトアウル本部に集めて緊急の指令を出した。


 友好的な関係を築くように、謝罪にでも行くのかと思っていたら、テレスがそんな事をするはずもなかった。


「ぐ、グレイトベアのメンバーを見つけたら、場所が、ど、どこであれ、即攻撃を仕掛けてください。先制攻撃です。」


 そのテレスの言葉にメズやレグル、ミラリサといった幹部をはじめ、ギルドメンバー全員が、「うおおおおおおお」と沸き立っている。


 ぶっ●す!ぶっ●す!ぶっ●おおおおおす!と、ギルド中でリアルタイムファルター処理が行われていた。


 まぁ、そんな俺のナイトアウルに所属しての一ヶ月であった。



お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

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